COVID-19 死亡者密度問題I(2020/5/4):日独の人口当たり死者数(死亡者密度)の差は何によるか
Executive Summary
- COVID-19対応の最終指標は人口あたり死者数(死亡者密度)だが、日本のそれ(5/2時点データで3.4人/100万人)は欧米のそれ(イタリア467人・米201人)より「桁違い」に少ない(1)。この理由は何か。 この違いは、原データの把捉の差による数値表面的なものである可能性と、ウイルス型や免疫能のような純医学的な原因による可能性と、社会経済的な原因によるものである可能性とがある。
- 日米、日伊は医療システムをふくめ社会経済構造が非常に違うため比較困難である。ここでは、欧米大国で死亡者密度が最も少なく、日本との比が「一桁違い」であるドイツ(5/2時点データで80.4人/100万人)と日本の基礎データを比較する。ドイツは日本と同じく疑診例だけにPCR検査を絞って徹底的に感染者を同定・隔離・トレーシングする戦略をとったが、その一方検査絶対数は日本より「一桁違い」で大きい(4/16・5/2で各22倍・23倍)。他方、ドイツの国民医療システムは優れており(人口あたり医師数・ICU数;各1.7倍・4倍)(2)(3)(4)、ドイツの死亡者密度が日本より大きい理由が医療システムの劣性に起因する可能性は排除される。
- 4/16時点データで、死亡者密度の独/日比(A)は30倍、これに対し人口あたり検査数(検査規模)比(B)は22倍、人口あたり検査陽性者数(感染者密度)比(C)は20倍、陽性者致死率比(D)は1.4倍である(検査陽性率[E]は日独各10%・9%)。(実測帰結)BxD=31と(定義帰結)CxD=28は、ともにA=30に近似する。 さらに、日本で死亡者絶対数が190人から360人へと2.2倍増した5/2時点データでも、A・B・C・Dは、各22倍・23倍・17倍・1.3倍(E:8.5%・9%)である。(実測帰結)BxD=30と(定義帰結)CxD=22は、ともにA=22に近似する。 言い換えれば、独日の死亡者密度比に対し検査規模比と感染者密度比は等価に近く、もし検査規模が等しければ、両国の死亡者密度に「桁違い」の差は生じない可能性が高い。
- これらから、ドイツと日本との死亡者密度の違いは、検査規模(不顕感染者の掘り起こしの深さ)の違いと関連するとみるのが最も自然である。
- アジアと欧米の間には流行ウイルス型に差があるとみられているが、毒性に差があるという仮説は未確認(5)(6)であり、またもし独日間の死亡者密度差に病原体因があるとすれば、検査陽性率(感染能)・陽性者致死率(致死能)に反映されるはずだが、それらに「桁違い」の差はない。
- 同様に、日本人と欧米人の間にウイルスに対する疾患感受性に「桁違い」の差があるという仮説も、検査陽性率(易感染性)・陽性者致死率(脆弱性)の近似性から考え難く、またダイアモンドプリンセスでの日米人の感染率間に差がないという結果(7)からも支持され難い。
- 死亡者密度の差が感染者の絶対数差に起因する可能性はあるが(例えば大陸国ドイツへの、EU内不顕感染者の陸路大量流入)が、その差が「桁違い」であることは、検査陽性率が全く等しいことから考え難い。
- ただし、日独間には4/16でも5/2でも感染者致死率に30~40%の差がある。これは日独間の社会構造差(貧困層や移民労働者の数の違い)と関連しているとも、また日本では検査数抑制政策により初期に医療システムに負荷がかからなかったためとも見られる。
- 以上から、日独間の死亡者密度の「桁違い」の差は検査規模差に起因する数値表面的なものとみられ、真の死亡者密度は現時点では日本がドイツよりやや少ない(1.5倍以内)程度ではないかともみられる。しかし、ドイツの救急医療体制は日本より堅牢であることが確実であり、日本で医療崩壊が起こればこの限りでなくなる。事実、最近1ヵ月は日本でも死亡者数急増に加え感染者致死率も徐々に増加しつつあるように見え、医療現場への負荷が強まっている可能性が高い。
- COVID-19は不顕感染が80%程度を占めることが分かっており(8)、さらに歴史的Heinsberg抗原・抗体二重一村全住民調査から、ドイツの検査規模をもってしても真の感染者密度(疾患有病率)は実測値の10倍近いことが示唆されている(9)。COVID-19対応の標準指標としてはPCR陽性者数より死者数が妥当であり、医療・介護施設(10)を重視した真の死亡者数の調査と把握が必要である。
- 死亡者数把握の精度は、事後的には超過死亡数でチェックできる。New York TimesやWashington Post は、ここ2週間欧米各国の超過死亡数データを洗い出しはじめており(11)(12)、日独のデータも間もなく明らかになるとみられる。
References
- 1) https://www.realclearpolitics.com/coronavirus/
- 2) https://www.nytimes.com/2020/04/15/world/europe/coronavirus-germany-merkel.html
- 3) https://www.theguardian.com/world/2020/apr/26/virologist-christian-drosten-germany-coronavirus-expert-interview
- 4) https://www.reuters.com/article/us-health-coronavirus-germany-defences-i-idUSKCN21R1DB
- 5) https://academic.oup.com/nsr/advance-article/doi/10.1093/nsr/nwaa036/5775463
- 6) https://www.nytimes.com/interactive/2020/04/30/science/coronavirus-mutations.html
- 7) https://breezesmile.com/unclassified/coronaviruscruise2/
- 8) https://science.sciencemag.org/content/368/6490/489
- 9) https://www.sciencemag.org/news/2020/04/antibody-surveys-suggesting-vast-undercount-coronavirus-infections-may-be-unreliable
- 10) https://www.bloomberg.com/news/articles/2020-04-25/nursing-homes-are-key-to-coronavirus-fight
- 11) https://www.nytimes.com/interactive/2020/04/28/us/coronavirus-death-toll-total.html
- 12) https://www.washingtonpost.com/investigations/2020/04/27/covid-19-death-toll-undercounted
関連レビュー
- 1) COVID-19 死亡者密度問題II(2020/5/10):独韓の人口当たり死者数(死亡者密度)の差は何によるか
- 2) COVID-19 死亡者密度問題III(2020/5/17):米独の人口当たり死者数(死亡者密度)の差は何によるか