COVID-19 死亡者密度問題II(2020/5/10):独韓の人口当たり死者数(死亡者密度)の差は何によるか
Executive Summary
- COVID-19の人口あたり死者数(死亡者密度)問題に関し、日独間と同様の比較を独韓間に対して試みた。
- 独・韓はそれぞれ欧米・アジアでのCOVID-19対応の「模範国」とされており、両国とも死亡者密度は低いが、なお独韓の死亡者密度には「一桁(5/6時点で18倍)」の違いがある。両国は初期の大量PCR検査による感染者の同定・隔離・トレーシング戦略で共通しており、死亡者密度差が検査規模の差による数値表面的なものである可能性はやや低い。他方、ドイツの国民医療システムは優れており、ドイツの死亡者密度が韓国より大きい理由が医療システムの劣性に起因する可能性は排除される。
- 5/6時点データ(1)で、死亡者密度の独/韓比(A)は18倍、これに対し人口あたり検査数(検査規模)比(B)は3倍、人口あたり検査陽性者数(感染者密度)比(C)は10倍、陽性者致死率比(D)は1.8倍である(検査陽性率は、韓・独各1.7%・5.8%)。定義帰結:CxD=18はA=18に等しいが、実測帰結:BxD=10はAと懸隔する。
- 従って、ドイツと韓国との死亡者密度の違いは検査規模差では説明できず、感染者密度・感染者致死率の実質差と関連するとみるのが最も自然である。
- 最近欧米でCOVID-19のSARS-CoV2が高伝播性ストレインに変異した、という論文をLos Alamos National LaboratoryがBioRxivにデポジットした(2)。これには懐疑論が多いが(3)、独韓間には検査陽性率にも陽性者致死率にも実質的とみられる差があり、武漢系・欧米系ウイルスの感染能・致死能の差が反映されている可能性は存在している。
- 他方、アジア人と欧米人の間にウイルスに対する疾患感受性に「桁違い」の差があるという仮説に関しては、最近UK大規模データが否定的結果を発表しており(4)、また日本とドイツの間に感染者致死率に差がないことからも考え難い。
- 独韓間の死亡者密度差が感染者の絶対数差に起因していることは、感染者密度比と死亡者密度比との間に「桁違い」の差がないことから、十分に推測可能である。
- 他方独韓間には検査陽性率に3.4倍の差があり、検査規模の3倍差と併せると、韓国では脆弱集団(入院患者・介護施設入居者)や原因不祥死亡者集団にPCR検査が到達していない可能性もある。
- 独韓間のCOVID-19 死亡者密度の差には、以上のようにウイルスストレイン差・流入感染者絶対数差・検査深達度差、という相反的でない3つの可能性がある。これらのどれが真の原因であるかは、広汎抗体検診による「真の感染者密度」のより精確な把握と、超過死亡数の発掘(5)による「真の死亡者数」の別角度からの推定で明確になってゆくとみられる。
References
- 1) https://www.realclearpolitics.com/coronavirus/
- 2) https://www.biorxiv.org/content/10.1101/2020.04.29.069054v1.full
- 3) https://www.theatlantic.com/health/archive/2020/05/coronavirus-strains-transmissible/611239/
- 4) https://opensafely.org/outputs/2020/05/covid-risk-factors/
- 5) https://news.yahoo.com/excess-mortality-germany-rising-rki-083035882.html
関連レビュー
- 1) COVID-19 死亡者密度問題I(2020/5/4):日独の人口当たり死者数(死亡者密度)の差は何によるか
- 2) COVID-19 死亡者密度問題III(2020/5/17):米独の人口当たり死者数(死亡者密度)の差は何によるか