COVID-19 死亡者密度問題III(2020/5/17):米独の人口当たり死者数(死亡者密度)の差は何によるか

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公開日:2020年05月17日

COVID-19死亡者密度問題III(2020/5/17):米独の人口当たり死者数(死亡者密度)の差は何によるか

Executive Summary

  • COVID-19の人口あたり死者数(死亡者密度)問題に関し、日独間独韓間と同様の比較を米独間に対して試みた
  • 米・独は欧米を代表する大国だが、COVID-19対応では独が「模範国」として賞賛されている一方、米は対応のカオス性が目立っている(1)(2)。事実、両国の死亡者密度には5/14時点で(米が独の)2.7倍、という明確な差がある(3)。独・韓比較では死亡者密度比にウイルスストレイン差(武漢系と欧米系)のある可能性も否定できなかったが、米独間ではこの因子は考えられない。また、医学の水準は両国とも世界トップであり、米国の死亡者密度がドイツより大きい理由が医学の劣性に起因する可能性は排除される。
  • 5/14時点データで、死亡者密度の米/独比は2.7倍、これに対し人口あたりPCR検査数(検査規模)比は0.8倍、人口あたり検査陽性者数(感染者密度)比は2.1倍、陽性者致死率比は1.3倍、検査陽性率は米・独各14%・5.4%(2.6倍)である(3)。
  • 米国内で「検査が少ない」という批判があるにも関わらず米独の検査規模差は1.5倍以内であり、両国間の感染者密度・死亡者密度の差異が、検査規模差に関連する数値表面的ものである可能性(日独比較)や検査深達度の差異に関与する可能性(独韓比較)は排除され、各2.1・2.7倍という違いが実質差に起因することは間違いない
  • 2.1・2.7倍という感染者密度・死亡者密度の差異は、1.3倍という致死率の差異より2.6倍という検査陽性率の差異と関連するとみるのが自然であり、差異の第一要因は、米国ではドイツよりロックダウン・社会的距離付けが不十分で、米は独より人口当たり感染者絶対数が多い(公衆衛生介入要因)ためとみられるだろう。
  • 米の感染者・死亡者は老人介護施設(4)(5)・マイノリティ(特に黒人)に集中していることが知られており(6)、貧困層の多さとともに(7)、脆弱部分集団への感染者の大量流入と、そこからの感染者・死亡者の大量発生がドイツとの差の基礎にあるとみられる(社会・経済要因)。 また、米は広大な大陸国であり、感染者密度は外部流入より内部交流に依存する(8)。独米のホットスポットでは抗体検査による感染者密度が人口の10%超となっているものとみられ(9)、最近のInstitut Pasteur報告ではフランスは全人口での感染者密度が3~4%にも達する(10)。米独の感染者・死亡者密度差は、米では膨大な内部交流によりNYという超巨大ホットスポットが形成されたという社会要因(正の交流要因)によって増幅されているものとみられる(事実、NYの死者数は独全土の死者数の4倍にも達する)。独ではEU国間交流の遮断により内部的交流遮断(シャットダウン)が有効化されたとみられる。
  • 他方、感染者密度・検査陽性率・死亡者密度の斉一的な「2~3倍」という比と比べ、米独の陽性者致死率比は1.3倍と極度には高くない。これは、米が地理的散開(非都市部での、社会的距離付けの自然達成可能性:負の交流要因)と優れた医療技術でなんとか膨大な感染者に対応できており、医療崩壊が未だ起こっていない(医療介入要因)ことを示唆するとみられる(11)(12)。
  • 以上のように、日独・独韓間の死亡者密度比較と比べ、米独間の死亡者密度の比較には困難が少なく、想定される差異要因も常識的で議論の余地が少ない。これは、PCR検査規模がともに膨大(日本の約20倍、韓国の約3倍)で、しかもほぼ等しいことによるだろう。現状では、世界各国の死亡者密度を有意味に比較するためにはPCR検査規模差が数十%以内であることが最低の必要条件とみられる。
  • 今後は、各国のCOVID-19の感染者密度・死亡者密度の差異の問題は、広汎抗体検診と死亡診断書レベルでの死亡者数再検により基本から見直されてゆくことになろう。

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