COVID-19死亡者密度問題IV 2020/8/17:感染者致死率(IFR)・全人口年間死亡率(PMR)、そしてインフルエンザと「アジア太平洋の奇跡」

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公開日:2020年08月17日

COVID-19死亡者密度問題IV 2020/8/17:感染者致死率(IFR)・全人口年間死亡率(PMR)、そしてインフルエンザと「アジア太平洋の奇跡」

Executive Summary

  • 感染者あたり死者数(infection fatality rate: IFR)と全人口あたり年間死者数(population mortality rate: PMR)は、それぞれCOVID-19の「怖さ」・「重大さ」を示す二つの基本的な死亡者密度指標であり、発生以後半年を経て一定の評価が必要となっている。
  • しかし、「死者数」は致命的に重要な政策指標であるため当局の粉飾発表(報告バイアス)が横行している可能性がある(1)(2)。さらに「COVID19原因(関連)死亡」の定義には「タイプI(<PCR陽性>の必要条件化)」「タイプII(基礎疾患の<死因>化)」の基本的混乱がある(定義バイアス)(3)だけでなく、検知される死者数はPCR検査規模に依存する(測定バイアス)(4)。
  • このような多重バイアスは超過死亡数の確認によりある程度調整できるが、現時点では高信頼度の期待値ベース推定はアメリカ(5)とEuroMOMO(6)からしか出されていない。
  • また、IFR推定に必要な「感染者数」は、PCR検査規模が不十分な場合には「検査するほど感染者が増える」という不条理が起こり明らかに不正確となる(7)。しかし、これを調整しうると期待された抗体検査は、検査キットによるばらつきと抗体消退現象とにより信頼度が未だ十分でなく、現状では、非常にラフな“rule of thumb”:「PCR規模が十分である場合、感染者実数はPCR陽性者数の~10倍」がプロ間の相場観となっているとみられる(8)。
  •  従って、現時点ではIFRもPMRも全くラフな「有効数字1~2桁」の「フェルミ推定」にならざるをえない。Nature誌は、MIT System Dynamics Groupの意見として、2020/6時点の世界の感染者数・死者数を(当局公表値の1030万人・48万人でなく)11000万人・70万人、外挿すれば2021/3には(年間値)3億人・200万人になる、と報じている(9)。
    この数値は、IFR・PMRとしてはほぼ
    IFR:~0.7%
    PMR:年間~300人/100万人(全世界)
    に相当する。
  • COVID-19に関しては当初から、「怖さは季節性インフルエンザとあまり変わらない」という少数意見があり、この見方は後退したとはいえ現在でも一定程度残っている。しかし、インフルエンザの感染者・死亡者評価は遺伝子診断に基づいていない、という根本的な疾患認知での次元差を度外視しても、さらにこの見解のチャンピオン Stanford Ioannidisの提出する最大限推定値(10)と比べてさえも、インフルエンザは
    IFR:0.1%
    PMR:年間~60人/100万人(全世界)
    であり、
    COVID-19は季節性インフルエンザと比較はできないが、もし仮に強いて比較すると、
    10倍近く「怖く」、5倍以上「重大である」
    、ということになろう。
  • COVID-19は、6月以前の世界的再サージ直前段階では、韓国・台湾・シンガポール・日本・オーストラリア・ニュージーランド等で欧米より遥かにコントロールのよいことが注目され、「アジア太平洋の奇跡」と呼ばれていた(11)。PCR陽性者の致死率にはアジアと欧米の間に桁違いの差がないため(2~5%)、アジアと欧米のIFRの間に本質的差があるとは見られず、「アジア太平洋の奇跡」は、存在するとすればPMRの差であり、総合的には「感染しやすさ・発症しやすさ」の差である。
  • Silex Review「COVID-19死亡者密度問題I~III」では、この問題に関し独韓比較の視点から、「独韓間のCOVID-19 死亡者密度の差には、ウイルスストレイン差・流入感染者絶対数差・検査深達度差、という相反的でない3つの可能性がある」とした(12)。
  • 「アジア太平洋の奇跡」にウイルス型が関与している可能性は、Los Alamos National Laboratoryによる高速伝播G614バリアントの発見で基礎づけられ(13)、現在これが第一仮説となっている。台湾・韓国・ニュージーランドの制圧度が、同等に厳しいロックダウンをした独よりはるかに完全だったことは、初期伝播した武漢ストレインが欧米のような高速伝播型でなかった、とすれば説明しやすい。
  • 更に、COVID-19 ウイルスSARS-CoV-2は「純粋な」新型コロナウィルスでなく近縁祖型が(おそらく中国南部の)コウモリの中で十~数十年間伝播していたこと(従ってヒトへのスピルオーバーが幾度か小規模に起こっていたであろうこと)が報告され(14)、加えてLa Jolla Institute for Immunologyによる歴史的なT細胞交差免疫の確認(15)(16)(17)により、COVID-19の感染・致死化に免疫経験が重要である、という仮説(免疫経験値仮説)が急速に標準理論となった。 従って、「アジア太平洋の奇跡」に地域住民の免疫経験値が関連しているという仮説が、第一仮説と非相反的な第二仮説として十分に考えられる。この仮説は、NY・ロンドン在住の東アジア人のCOVID-19感染率・致死率が欧米人と大差がない、という事実とも整合する。
  • しかし、8月に入りアジア太平洋地域では日本をはじめ韓国等も「第二波」出現の様相を呈しており、「アジア太平洋の奇跡」を維持しているとみられるのは台湾とニュージーランドだけとなった。事実、8月8日時点のニュージーランドの死亡者密度はドイツの~0.04倍で、明らかに「桁違い」に低い(18)。中国南部と距離のある同国では、SARS-CoV-2の近祖型に対する免疫経験値が高くはないであろう欧系住民が多数であること、また同国のロックダウン介入がドイツと同程度であったことを考慮すると、「アジア太平洋の奇跡」には「島国」(および台湾・ニュージーランドでは「小人口」)要因が強く寄与したという第三仮説(島国[感染者流入への地理障壁]仮説)が十分に考えられる。日本はもとより、北部国境をほぼ完全に閉鎖している韓国もイタリアのような大陸連結「半島」国でなく、本質的には「島国」とみなされる。
  • 日本のIFR・PMRに関しては、まずPCR検査数が8月に入っても独・ニュージーランド・韓国の各々1/10以下・1/5以下・1/3以下というレベルで、今回の「第二波」が「第一波」より大きいのか小さいのかさえ定かではない。更に、それを調整すべき抗体保持率が反復・大量検査によって高信頼度で測定されておらず、根本指標である感染者数自体に信頼度が低い
    また死者数に関しては、定義にタイプI・タイプII両問題がある上に、超過死亡数が米・欧データと比較できる期待値ベースでなく上限値ベースでしか発表されていない。さらに、日本のCOVID-19データ解析結果は未だNEJM・JAMA・Lancet・Nature・Science・Cellという一流誌に公刊されておらず、外部からの検証・議論がなされていない。
    日本のIFR・PMRは、これらの基本問題がクリアされない限りラフな推定さえ困難だが、現在のところIFRはほぼ世界平均程度、PMRは「アジア太平洋の奇跡」諸国の上限程度と見るのが妥当であろう。

References

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