COVID-19死亡者密度問題V 2021/1/5:感染者致死率(IFR)・全人口期間(年間)死亡率(PMR)、そして「ファクターX」

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公開日:2021年01月04日

COVID-19死亡者密度問題V 2021/1/5:感染者致死率(IFR)・全人口期間(年間)死亡率(PMR)、そして「ファクターX」

Executive Summary

  • 感染者あたり死者数(infection fatality rate:IFR)と全人口あたり年間(期間)死者数(population mortality rate:PMR)は、それぞれCOVID-19の「(個人にとっての)怖さ」・「(社会にとっての)重大さ」を示す二つの基本的死亡者密度指標であり、ワクチンが開発され接種が開始された現在、自然感染に関して一定の総括的推定が可能な段階に達した。 ただし、公称「死者数」には様々なバイアスがあり(1)(2)(3)、また公表「感染者数(PCR・抗原検査陽性者数)」は過小評価であることが認知されてきているため(4)(5)、この推定は非常にラフな「フェルミ(有効数字1桁の)推定」にならざるをえない。
  • 最近、広汎な献血抗体検査により「全人口の70%以上(10月現在76%)が罹患(閉域における理論的集団免疫レベルに到達)した」と研究者が推定したブラジルアマゾナス州の州都マナウス市(人口220万人)のデータが公刊され(6)、これによると同市の死者数は2,642人、IFRは0.17~0.28%であった。これを同市のPCR無検査ARDS死者数3,789人、および同市の若年者中心人口構成(より高齢者の多いサンパウロ市ではIFRは0.46~0.72%)で較正すると、集団免疫達成レベルでのIFRは0.4~0.6%と推定できる。
  • マナウス市は大陸国ブラジルの交通要衝都市であり、感染が大猖獗した同国では有病率が閉域での理論的集団免疫レベルに達したことが十分にありえるが、他方この推定を、厳密な対策により感染拡大を第一波で抑え込んだ欧州の島国アイスランドと比較すると、同国のIFRは12月末時点で0.5%である(7)。同国はPCR検査数が人口の1.2倍という圧倒的な規模で検査による感染者把捉(ascertainment)率は世界最高レベルだが、人口あたり感染者率は第一波期で0.9%であり、マナウス市の70%と2桁違いである。感染者数・死者数の推定信頼度が高く、しかも民族性・国情・感染状況が両極端に違うにも関わらずIFRが類似値に収斂することにより、COVID-19自然感染のIFRは~0.5%としてよいとみられる。これは、8月時点での全世界データからの推定である~0.7%(8)(9)とも「フェルミ推定圏内」にある。
  • 一方、このIFR値は、2020年末時点での世界の検査陽性者死亡率2.2%の1/4~1/5であり、世界で行われているPCR・抗原検査が、70%前後の感染症例を把捉していない可能性が高いことを示している。最近、Sorbonne-東工大グループは、フランス初期データの疫学検証により、PCR検査が86%の感染症例を把捉しなかったことを報告しており(4)、米CDC報告(5)と併せ、世界の実感染者数は、PCR・抗原検査陽性者の5~10倍とみてよいと見られる。この場合、2020年末では、世界人口の6~11%(4~8億人が)COVID-19に既感染であるともみられる。この水準は集団免疫レベルよりはるかに低く、もし全世界で自然感染がマナウス市のように人口の~70%まで進行するとすれば、究極では世界の死者数は~2600万人(日本では~45万人)に達する、ということになる。
  • 他方、感染のパンデミック化から2020年末までの期間におけるPMRは、世界的にばらつきが大きい。例えばアメリカの死者数は日本の死者数の約100倍であり、PMRとしては36倍と懸隔することから、日本(人)にはCOVID-19による感染・死亡を防御する「ファクターX」が存在する、という仮説が流布された。
  • 36倍という比率は、高いバイアスのかかるPCR(または抗原)検査陽性者中の累積死亡者数に基づくもので、正確な推定ためには最低限超過死亡数による調整を行わなければならない。 アメリカの死者数の超過死亡データによる調整報告は未だ散発的だが、PCR検査数が莫大(人口当たりで日本の20倍)であることから、妥当な「真の死者数」推定は、検査陽性累積死者数の約1.3倍、2020年末時点で~45万人程度かともみられる(10)(11)。 他方、日本の超過死亡に関する国立感染症研究所発表(12)は曖昧だが、2020/1~9での2集計法による推定:(最小)1209/1428人~(最大)9744~15539人を単純に平均すると~7000人、同時期の検査陽性累積死者数の~4.7倍となる。従って「真の死者数」推定は、COVID-19死者数を超過死亡中の2/3程度と最も少なめに見積もって検査陽性死者数の約3倍、2020年末時点では~1万人程度かともみられる。
  • 従って、ファクターXが説明すべきは、2020年末時点で日米のPMR比が~16倍(45/1の人口比換算)という事態である。
  • アメリカでは、ハワイ・プエルトリコ(島嶼州)のPMRが全州平均の各1/5・1/3であり(13)、16倍という比中の~4倍という因数は島嶼性で説明できる。言い換えれば ファクターXの第一(最大)要因は、日本が島国であることである(島国ファクター)。この要因は、「アジア太平洋の奇跡」特にニュージーランドの事例をも説明しうる(8)
  • 次に、アメリカの死者の~50%は黒人を主とするマイノリティで占められることが知られており(14)(15)、 16倍という比中の~2倍という因数は黒人・マイノリティの存在で説明できる。言い換えればファクターXの第二要因は、日本に黒人・ラティノ等社会経済的脆弱マイノリティが殆どいないことである(マイノリティファクター)
  • 従って、上記2因数で除した残余の日米PMR比は約2倍ということになる。 ウイルスストレインに関しては、両国の伝播ウイルスに2020年末現在大差は報告されておらず、また遺伝子要因に関しては、ネアンデルタール遺伝子という興味深い仮説が現れたものの実インパクトは未確認であり(16)。さらに、仮に遺伝子レベル(例えばHLA型)で大差があれば、米在住の日本人の死亡率と白人の死亡率の大差として既に認知・報告されているはずである。 両国のPCR陽性者の致死率の差がたかだか20%程度であり(7)、またニューヨークでの白人と在住「アジア人」との致死率差も同程度であることから(15)、2倍という大差は、もっぱら日本在住の日本人の間と米国本土(大陸)在住の米国人の間での感染の広がりやすさ(prevalence:集計量としては両国の検査陽性者密度の大差としても現れる)の差に帰せられるべきとみられる。
  • 「ファクターX仮説」が提唱された時点では、特に日本人の免疫能に焦点があてられ、自然免疫(BCG等)・獲得免疫(T細胞経験値)の大差が示唆されたが、未だに一流ジャーナルに研究成果が公表されていない。
  • 従って、2020年末現在ではファクターXの第三要因は、日本国の優れた公衆衛生環境と日本人の自発的・斉一的な行動変容(「自粛」力)、という常識的な環境・行動ファクターであるとみておくべきであろう。
  • 追記 2021/1/8: 抗体検査の最大規模統合による推定では、11月中旬での米の「真の感染者」数は46,910,006人で、PCR・抗原検査陽性者10,846,373人の約4.5倍、また「真の死亡者」推定は公称の1.35倍であった(17)。これは、上記「実感染者数は、PCR・抗原検査陽性者の5~10倍」に近く、またここから概算される同時点での米のIFRは0.4%強で、上記「0.4~0.6%」と一致する。