エボラウイルス病(エボラ出血熱:EVD)

Global Health Review 

公開日:2015年10月24日    最終更新日:2016年11月7日

エボラウイルス病(エボラ出血熱:EVD)

Executive Summary

  • エボラウイルス(EBOV)の実体解析は着実に進んでいるが,EVDの病態形成には未解明部分が多い。今回のアウトブレークでは病像に多少の変化が見られた。
  • EVD自体の致命性は過大評価されてきた可能性がある。ワクチンは非常に有望である。
  • EVD発生・拡大の根底にアフリカの社会・文化・政治問題がある。
  • EVDの「準パンデミック」化は,将来の新興感染症に関するグローバルな課題を示した。WHOの初期対応は不十分だったが,発生以後のMSF等のNGO・アメリカ政府・ヨーロッパ委員会・製薬企業の対応は早かった。

Time-line

EVD事件 (‘Time-line’ 参照)

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EVDの1976年の初発は衝撃的だったが,過去のアウトブレークはローカルに沈静しており,中央アフリカ辺境部の奇病と見られる傾向もでていた。今回のアウトブレークは2013/12 Melienda(Guinea)で男児がこうもりから感染・死亡したのがground0とも推測されている(1)。西アフリカがEVD未発地帯であったためもあり認知・対応が3ヶ月遅れ(2),アフリカ大陸外にも飛び火してメディアが増幅する「準pandemic」に発展した。

アフリカ各国での非常事態宣言・Kent Brantly医師のアメリカへの帰国入院・WHOとMSFによる相次ぐ警告により2014/8には世界にパニック感が広がった(CDCは9月に感染者が最大140万人になると警告)が,その時点ではすでに西アフリカでの現場対応は進んでおり,オバマの9/16 CDC演説(3)前後にはLiberiaはピークアウトしていた。Guinea ・Sierra Leone もやや遅れてピークアウトし,WHOは2015/5/9に終息を宣言した。

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EBOVとEVD

EBOV・EVDの研究は2014アウトブレークまでに相当進んでおり(R3: 現在5種をゲノム確認・4種がヒト病原性),今回の事件でさらに急速に進展するとみられるが,最もベーシックな自然宿主・感染経路は未だ確定していない(Marburg ウイルスとともにコウモリ説は有力)。2014のEBOV-Makonaは1976のEBOV-Mayingaより弱く(4),ヒト病原性増強変異は確認されない。空気感染はないとしうる。ウイルスの回復者体内残存例が確認されている。

病像(潜伏期間2-21日。発熱・筋痛・頭痛等の一般症状に始まり,嘔吐・下痢・発疹・肝腎障 害へ進行,悪化すると内出血・吐血・下血・外出血が起こり,ショック・DIC・MOFで死に至 る。)は,教科書化していたが,今回のエピデミックでは出血所見が比較的少なく,嘔吐・ 下痢による脱水症状が前面に出た,という報告があり(5,6),EBOV-Makonaの属性と関連する かもしれない。

確定診断はPCRによっていたが,簡便検査法が開発され,診断は迅速・容易になった(7)。

病態形成メカニズムはわかっているのか

一般向けのYouTube映像解説(8)が分かりやすく,また全体像がこれ以上分かっているわけではない。

樹状細胞(DC)感染による免疫系の全般的擾乱が初相でまた全体的バックグラウンドになること,cytokine stormが極相を特徴付けること,がコンセンサスになりかかっていたが,今回のエピデミックは基礎研究を加速させており,EBOVのVP35/VP24によりDCの成熟不全が起こってT細胞反応全般が障害される,という機構が示され,この過程を治療標的とすることが提唱されている(9)。


他方,全身的なマクロ病態形成では肝‐腎‐脾障害・血管内皮細胞障害が特徴的であり,EBOVが TGF-β-信号系介在反応を特異的に変容させる(10),あるいはVP40 G1,2 が内皮細胞を直接障害する(11)等の機構が免疫系障害とどう関連するのか,詳細は不明である。

どれくらい致命的なのか?

今回のアウトブレークでの感染者数・死亡者数は2015/8/5時点で各27898名・11296名(致命率40%)である(R2,’WHO Ebola situation’ 参照)。

致命率は2014/12時点のアフリカでSierra Leoneの74%に対しGuineaが43%,さらにアメリカでの治療患者11名中死亡者2名,西アフリカ感染者を欧州で治療した例で死亡者が0という結果は,「致命率最高90%」という印象が正確でなく,致命率は医療レベルに依存する(発生初期西アフリカでは輸液さえ十分でなかった)という仮説を可能にする(12)。伝染遮断効果が公衆衛生体制に依存することは確実で,事実「発症4日以内に感染者の75%を完全隔離」という対応戦略が実効化されて以後,エピデミックは収束に向かった。

ワクチン?治療薬?

2015/7におけるrVSV-ZEBOVワクチン第III相試験のポジティブな中間報告は大きな希望となった(13)。WHOが調整するカナダ・ヨーロッパの政府組織・企業・NGOの目覚しい対応である。英米系(NIAID and GSK)のPREAVAIL (cAd3-EBOZワクチン)試験も第III相にあり,今年中に中間報告があるだろう。

流行ピーク時にはCPT(convalescent plasma therapy)の試みもあり,多数の薬剤開発・試用が報じられた(ZMapp ・TKM-100802 [siRNA]・Favipiravir ・Interferon・Brincidofovir等)が,終息に近づき大規模臨床試験は困難になった。最近,G protein-coupled receptor (GPCR) antagonistsがEBOV ・MARVの複製を阻害するという興味深い報告が出ており,一般的な既存薬が効く可能性を示唆している(14)。

問題は何か?

Meliendaの男児の悲運は,社会の急激な現代化(人口増・交通網の整備・交流範囲の拡張)のため爆発的に「アフリカの悲劇」に拡大した。インフラ整備の急進展が独異な古俗(食習慣や埋葬)の残存・医療制度の不備(手袋さえ不足)・統治不全(貧困・戦争・内戦の歴史の中ではEVDさえone of miseriesとさえ言われる)と結びついたためであり,終息宣言後も傷跡は深い(15)。

患者発生以後のGuinea政府・WHO地域オフィスの対応は鈍かった(16)。WHO本部の初動も緩慢で,最も機敏に動いたのはMSFのようなNGOと欧米政府からの派遣チームだった。WHOは検証委員会に厳しい評価を受けた(17,18)。他方,ワクチン開発では過去に類のない国際・官民協力が実現し,アウトブレーク後1年半というスピードで第III相有望結果に到達した。なお,中国政府のコミットメントは大きく,500人にのぼるスタッフの長期現地活動は日本政府の「延べ20人」と桁が違っている(19,20)。

EVDは2002のSARSに続く,21世紀第2のpandemic危機だった。pandemic化防止のために最も重要な検知・初動・追跡・監視システムが先進国にしか存在しないこと,途上国現場での対応を先導すべきWHOに資金・スタッフが十分でなく柔軟性にも欠けていること,high-consequence communicable diseaseへの国家的対応(biosecurity)体制の構築がアメリカでさえ不十分であること,が将来にわたるシステム問題である(21,22)。

執筆者:堀江麻紀子

References

総説

原著・記事・映像等