アルツハイマー病とゲノム:iPS細胞モデルとゲノム編集
Executive Summary
- アルツハイマー病(AD)研究と人工多能性幹細胞(iPSc)研究の交点に位置する論文 (2011年以後)を集積・データベース化し、臨床医レベルでレビューした。2019年以後 急速な進展が期待される分野であり、論文データとレビューは毎年更新する。
- 2019年5月現在、家族性AD(FAD)患者からのiPScを用いた研究論文を発表している主要ラボはすでに10を超えているが、日本のCiRAは世界をリードしている。
- 基礎研究は、FAD患者のiPScからオルガノイドが形成される段階に達しており、近い将来ADのニューロンネットワークレベルでの表現型の再現が期待される。
- 治療薬開発では、すでにFAD患者のiPScを用いて様々な薬剤の効果が試されており、近い将来臨床架橋が期待される。
- iPScに対するゲノム編集治療は注目の領域であり、実験結果が報告され始めている。
はじめに
患者由来の人工多能性幹細胞(iPSc)を適用した、家族性アルツハイマー病(FAD)に関する研 究は、2011年に慶応義塾大学のYagiと京都大学のYamanakaらによって、世界に先駆けて 行われた[1]。この流れは、現在、京都大学iPS細胞研究所(CiRA)の増殖分化機構研究部 門のInoueグループによって引き継がれている。世界的にiPSc論文のインパクトファクター の高い拠点研究機関として、ハーバード大学、カリフォルニア大学、MITなどが挙げられ が、iPScによるアルツハイマー病研究ではCiRAがまさに世界をリードしていると言える。 本論文は、FAD患者由来のiPScを適用したモデル化とゲノム編集を目的とした、過去の研 究論文のデータベース(DB)の解説である。データは、別表にすべて網羅されている。この DBの一部は Arber C. et al.(1) , Fang Y. et al.(2), Majolo F. et al.(3)から引用し、これに最近 のデータを加え翻訳し改変したものである。臨床医にも理解できるように、できるだけ平易な解説につとめた。DBの参考文献は表中の「参考文献」に記載した。解説は基本的に DBの「症候」、「遺伝子変異」、「表現型」、「薬物投与効果」の順で行った。本文中の 引用文献は( )により、DBの個別引用は [ ]でそれぞれ示した。
人工多能性幹細胞 iPSc(GR1,2)
iPScは自己再生能を有する未分化細胞であり、ヒト細胞や組織からどのような細胞型にも分化できる。それ以前では、胚性幹細胞(ESC)が利用可能な唯一の多能性幹細胞であったが、2006年にTakahashiとYamanakaがマウス体細胞からiPScを分化させ(4)、2007年に ヒトiPScを再現した(5)。 山中伸弥氏はこの研究によって2012年にノーベル生理学・医学賞を受賞した。この新しいiPSc技術の登場は、 ゲノム医学研究に革命をもたらした。iPScには、一塩基多型などの家族性遺伝疾患に関する病理情報が含まれており、そのゲノム情報を患者から直接得ることが可能となった。したがって、患者由来のiPScによって遺伝性疾患をモデル化すると、そのゲノム情報を反映して、創薬や臨床遺伝子診断の精度を飛躍的に高めることができる。さらに、このiPSc技術により、ESC使用で懸念される倫理的その他の諸問題の多くが回避されるのである。
疾患論
1. アルツハイマー病(AD)
ADは進行性の神経変性疾患であり、認知症の約60~70%を占める。10大死亡原因の内で、 有効な治療法が確立していない唯一の疾患である。WHOの統計では、2015年にすでに約3000万の人々がADと診断され、2030年には世界人口の0.556%が罹患すると推計している。治療法の欠如とパンデミックな患者数の増大など事態は極めて深刻であると言わねばならない。ADは進行性の認知機能低下を特徴とする。ADの初期の精神症状は、短期記憶障害を主因とする言語障害、失見当識障害、気分変動などであるが、意欲喪失や自己管理の欠如などから、家族や社会から孤立すると問題行動に発展することが多い。最終的には、大部分の患者は、精神興奮や幻覚、筋固縮、痙攣、ミオクローヌス、パーキンソン類似症状、失禁などの身体症状に発展して寝たままの状態となる。通常栄養不良、感染症、心疾患が原因で死亡する。発病後の平均余命は3~9年といわれている。
2. ADの類型(GR3)
ADは、家族歴のない孤発性アルツハイマー病(SAD)と、常染色体優性遺伝性のFADが区別 されている。この内、FADの原因遺伝子にアミロイド前駆タンパク質(APP)とプレセニリン(PS)が特定されている。これらの変異遺伝子は、アミロイドβタンパク質(Aβ)42と Aβ40の比率に感受性を持つといわれている。これに対して、ADの大部分を占める孤発性 のSADは、いわゆる多因子性疾患である。これには、環境因子と遺伝修飾因子の両方がリ スクとして作用する。FADとは対照的に、SADの責任遺伝子は十分に解明されていない。 遺伝的危険因子として、アポリポタンパク質Eのアレルε4(6)が知られている。ε4ヘテロ接 合体で3倍、ホモ接合体で15倍にリスクは増強される。これ以外のBIN1, CLU, PICALM,TEM2 などは最近のゲノムワイド関連研究(GWAS)で発見されたSADリスク因子で ある。
3. ダウン症候群(DS)
DSは最も一般的でよく知られた染色体異常である。出生約850人あたり1人にみられる。35歳以上の母親からの出産児では、発症頻度は大幅に高くなる。DS患者の少なくとも95%は、21番染色体トリソミーである。このトリソミーは、減数分裂時の21番染色体対の不分離によって生じる。ほとんどすべてのDS患者に、大脳皮質の萎縮、脳室拡大、老人斑などのADの神経病理所見が認められる。DSのほとんどが早発性認知症を発症する。発症時期は一般のAD集団よりも数10年早いとされる。
遺伝子変異と分子レベル表現型
1. APP アミロイド前駆タンパク質(GR4)
APPは神経細胞膜貫通性の受容体タンパク質で、770のアミノ酸から構成されている。AβはAPPの切断によって産生される。APPの770アミノ酸残基は最初β-secretaseによって、ついで膜貫通部でγ-secretaseによって切断されて、42と40のアミノ酸を持つAβ42とAβ40 がそれぞれ産出される。最初のFAD遺伝子として注目をあびたAPP遺伝子は、21番染色体q21上に存在する。このミスセンス変異がFADの原因であることが明らかにされた(7)。[5]に示すように、V717Iロンドン変異は、APPコドン717のバリンがイソロイシンに変異するもので、発見場所にちなみロンドン変異と呼ばれる。APP E693Qオランダ変異は、コドン693のグルタミン酸がグルタミンに変異する家系である。これは脳血管アミロイドーシス による家族性脳出血オランダ型を起こすが、FADには進行しない。[10]のAPP K670N/M671Lはコドン670のリシン、671のメチオニ ンがそれぞれアスパラギン、ロイシンに二重変異する家系でスエーデン変異と呼ぶ。同[23]の D678H Taiwan 変異は台湾で発見された変異である。これは、APP遺伝子コドン678のアスパラギン酸がヒスチジンに置換する変異で、Aβの凝集をきたしやすいと報告された。なおAPP変異を示す家系はFAD全体の1%弱である。
2. PS1 and PS2 プレセニリン1とプレセニリン2(GR5)
1995年に早発性FADの原因遺伝子としてPS1が発見された(8)。これに次いでその相同体としてPS2が発見された(9)(10)。このPS2はボルガ川流域に移住させられたドイツ人家系のFAD原因遺伝子であることが判明した。PS1は14番染色体q24.3に存在し、13個のエキソンが467個のアミノ酸をコードしている。PS2は、1番染色体q31-42に存在しており、13エキソンが448個のアミノ酸をコードしている。過去に発見されたPS1のFAD変異は、61部位84種類で、PS2は5部位6種類である。PS1変異を示す家系はFADの50%以下で、PS2変異を示す家系は極めて稀であると言われる。
3. Aβ42/Aβ40 ↑ Aβ42対Aβ40比の上昇(GR6)
γ-secretaseによる切断によって、Aβ42とAβ40が産生されることは先に述べた。両者の産出量はAβ40が多く、Aβ42はむしろ少ない。したがって常態ではAβ42/Aβ40比 は1以下の値をとる。APPとPS上の変異の位置を示す数字は、ミスセンス変異部位が、γ-secretase切断部に極めて近い位置にあることを示している。このことは極めて重要である。APPのミスセンス変異によって、γ-secretaseによる切断が、大量のAβ42を生みだし、これによってAβ42/Aβ40比を逆転させるので、その値は1以上の値をとることになる。これに一致して、FAD患者由来のiPScは、高いAβ42/Aβ40比を示すものが多い[1][3][5][6][7][8][9][12][17][19][20]。アミロイド斑の主要成分であるAβの凝集性については、 Aβ42を核にしてAβ40が凝集して線維化するという、いわゆるseeding 仮説が提唱されている(11)。これらの発見が「アミロイドカスケード仮説」をさらに強力に擁護するエビデンスとなった(12)。しかしながら、本仮説の正当性や妥当性をめぐって否定的な意見が少なくない。後述するように、米国における認知症薬治験の相次ぐ中止などと併せて多くの論争を呼んでいる。PS変異もまた、γ-secretaseによるAβ比に密接に関与しているようである。すなわち、PSはγ-secretase複合体中の酵素として機能しており、FAD家系ではこのPSの遺伝子配列に変異が起こり、その結果γ-secretase複合体のAβ切断機能の異常を引き起こすと考えられた。[3]のKoch et al. は、PS1 L166Pに変異を有するiPScはAβ40産生を 差別的に低下させ、Aβ42/Aβ40比を上昇させるという結果を報告した。このAβ40の低下 は、γ-secretase機能の部分的欠損がその原因であると考えられた。Aβ40の産出量を減少させることによって、Aβ42/Aβ40比が上昇するという彼の見解は、[6]の結果とも合致し、PSにおけるγ-secretase機能変調の特異性を反映している可能性があり興味深い。
4. tau タウタンパク質(GR7)
tauは17番染色体上に存在しており、C-末端に18個のアミノ酸からなるチューブリン結合 部の繰り返し配列が3~4回反復される。細胞体の微小管はこのチューブリンが重合して形成される。tauは脳の神経細胞の細胞体と軸索に主に高密度で局在しており、その機能は微小管の重合促進とその安定化であると考えられている。tauに異変が起こると、tauが過剰にリン酸化され、神経細胞体内部の神経原線維変化が形成される。これが起こると、微小管と細胞骨格構造が破壊され、神経細胞の輸送系が崩壊して細胞死をもたらす。このタウの過剰リン酸化の仕組に関しては、多くの意見がある(13)。FAD患者由来のiPScのリン 酸化タウ(p-tau)を見てみると、増加を示す論文が多い[2][4][7][10][12][13][15][20][23]。[2]のIsrael et al.は、tauのリン酸化キナーゼである活性GSK-3βが上昇すると、tauのリン酸化が増加することを報告した。また[7]のMuratore et al.は、分化させたAPPV717I患者由来の変異ニューロンのiPScは、総タウ(t-tau)およびp-tauレベルの上昇を示すこと、さらに、この 上昇したt-tauおよびAβレベルは、細胞を特異的抗体で処理すると減少に転じることなどをつきとめた。
5. GSK-3β グリコーゲン合成酵素キナーゼ- 3β(GR8)
GSK-3βはGSK-3ファミリーの一つであり、リン酸化酵素やシグナル伝達に関連する。FADにおいては、GSK-3と共役してカルモヂュリン依存性プロテインキナーゼII(CaMキ ナーゼII)が共通基質タンパク質としてtauに関与しており、両酵素によるtauのリン酸化が促進され、神経原線維変化形成に関与していることが明らかになってきている。さらに、脳内インスリンの主要な生理機能の一つとして、このGSK-3活性の阻害を挙げることができる。脳内インスリンの低下は,GSK-3の活性を増加させ,tauリン酸化を経て神経細胞死をまねくと想定されている。
CRISPR/Cas9ゲノム編集(GR9)
第3世代のゲノム編集技法である。ガイドRNA(gRNA)とCas9酵素から構成される。gRNAが標的部位に相補的結合すると、その場所を包み込んでCas9がDNAの両鎖を切断する。標的部位切断後はその部位をDNAが自己修復するといわれている。[16][19][24]に示すように、CRISPR/Cas9はFADのゲノム編集にも適用されるようになった。APPやPSにおける変異部位がCRISPR/Cas9で修復される。[24]のAPPスエーデン変異では、ウイルスベクターによってCRISPR/Cas9をiPScに適用すると、スエーデン突然変異遺伝子を選択的に切断した。DNAサンガー連鎖分析によって、APPのアレル遺伝子の切断が確認された。これによって、FAD患者由来のiPScに特異的な変異遺伝子が欠失し、分泌されたAβは約60%の減少を示した。同様の結果は、APPスエーデン変異トランスジェニックマウスの実験で追認された。従来のTALENやZFNに比較して、CRISPR/Cas9は、ゲノム編集精度が高い。さらに標的選択の自由度はゲノム全体におよび、低コストで実験効率が極めて高いと評価されている。iPScによるFADモデリングだけに止まらず、さらに踏み込んだ遺伝子治療の可能性に言及しているのは大変興味深い。
オルガノイドの形成(GR2)
[15]のRaja et al.は、ヒトiPSc由来のオルガノイド培養体を用いてAβ分泌、アミロイド凝集、高リン酸化タウタンパク質とエンドソーム異常などFADに特徴的な表現型を再現することができた。iPScの培養法に関して、特にAβ分泌を観察する実験において、従来の2次元培養に問題があることが指摘されている。プラスチックまたはガラス面をラミニン被覆した粘着平面上で培養される2次元培養細胞は、細胞の平坦化や細胞形態の変化にともなう細胞間結合の障害、遺伝子発現の変化などを引き起こすことがある。これに対してオルガノイドは、生体内に近い生理的環境下のバイオリアクター内で培養され、良好な細胞空間が保証されるので、神経細胞とiPScとの間に豊富な神経線維連絡が形成される。オルガノイドにより、ヒト大脳皮質の3次元再現が可能となる。臨床的には神経発達障害、神経変性疾患などへの試験的適用が図られている。現在、10ヶ月生存し中枢神経統合体に発達しつつあるオルガノイドが存在する。
薬物効果(GR10,11)
FADにおいて、Aβ42/Aβ40比の上昇は認知症のリスクとなるので、このAβ比を指標にしたiPSc創薬は可能である。γ-secretase阻害薬(GSI)はiPScの総AβだけでなくAβ42/Aβ40比も低下させた[1][3][4]。またAβ42の特異的阻害剤である化合物Wは、低用量ではAβ42だけ、高容量ではAβ42/Aβ40比を低下させた[1]。さらに、非ステロイド性抗炎症薬NSAIDsもAβ42とAβ40および同比を低下させた[3]。これ以外に、Compound E、DAPTもGSIである。PS、nicastrin、APH-1、PEN1、TMP21の複合体である γ-secretaseに作用してAβを減少させる。しかしγ-secretaseの基質特異性は低く、Notchシグナルも同時に切断するために、血球系障害、免疫異常、消化管障害などのGSIの副作用を引き起こすことが多い。このためGSIの新薬開発においては、Aβ阻害作用とNotchシグナル阻害作用をいかに分離するかが最大の焦点となる。一方、E2012はγ-secretase調整剤(GSM)であり、γ-secretaseのAPP切断位置を変化させて、Aβ42とAβ40の生成を阻害するが、Notchシグナルには影響しない。NSAIDsも機能的にGSMであり、Notchに影響しない。同様に、β-secretase阻害薬(BSI)はAβのオリゴーマ蓄積を抑制し[5]、Aβのレベル全体を低下させ[15]、p-tauを減少させた[2][10][12][15]。tauリン酸化については、GSK-3の直接阻害は、Aβ蓄積に影響を及ぼすことなく、p-tauのレベルだけを低下させた[10]。βSi、OM99-2、LY2886721、 BACE1iなどはBACE1阻害薬である。BACE1は、Aβ生成に律速酵素として作用し、Aβの生成を激減させることから有望な創薬候補となったが、ミエリン形成不全という副作用がある。FADのiPSc創薬によって、薬物分子の有効性や神経細胞への毒性などのスクリーニ ングが可能となり、有力な候補薬を効果的に選択できるので、AD創薬開発の可能性が大きく広がる。さらに、動物実験にともなう倫理的・経済的負荷を大幅に軽減することができることも大きなメリットである。
周知のごとくGSIの開発状況は極めて深刻である。米イーライリリー社は、semagacestatの第III相臨床試験からの撤退を発表した。この後、デンマークのルンドベック社によるNotchに影響しないGSMは、期待に反して第III相臨床試験段階で開発が打ち切られた。さらに、Aβ凝集抑制剤であるtramiprosateやAβワクチンなども治験段階で中止となった。 これに対して、BACE1iには期待が集まっている。最近のメルク研究所からの新BACE1阻 害薬の開発に関する論文では、経口投与可能なverubecestat(MK-8931)はすでにin vitro、動物、そしてAD患者などに試験投与を終了して、Aβの生成を阻害することを実証している。しかし最近発表された本薬の長期投与試験の成績は、予想に反して驚くべきものであった。104週にわたり1454人が参加した無作為二重盲検プラセボ対照試験は、有意なハザード比を報告した(14)。すなわち連続投薬によって用量依存性にAD症状が改善するのではなくて、逆に悪化したのである。我々の期待はまたもや見事に裏切られた。
最後に、iPScの21番染色体上の過剰なトリソミー遺伝子をZFN遺伝子編集によって除去する研究(15)もDSの遺伝子治療への道を開くものとして期待できる。
執筆者: Dr. A-T G-C
References
参考文献
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- (5)Takahashi K, Tanabe K, Ohnuki M, Narita M, Ichisaka T, Tomoda K, Yamanaka S.:Induction of pluripotent stem cells from adult human fibroblasts by defined factors. Cell 2007;131(5):861–72.
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一般参考文献 (GR)
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- GR8. 山本秀幸.:インスリンとカルシウムシグナルによるタウタンパク質リン酸化反応. 日本 薬理学雑誌, 2005, 125, 129-136.
- GR9. CRISPR, 究極の遺伝子編集技術の発見, ダウドナ J, スタンーンバーグ S(共著), 櫻 井祐子(訳), 2017, 文芸春秋社.
- GR10. 志鷹義嗣・三谷泰之・長倉晃・三宅晢・松岡真也.:アルツハイマー病治療薬としての アミロイド抑制薬の研究開発状況.日本薬理学雑誌 2010, 136, 15-20.
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参考図書
- 「トンプソン&トンプソン 遺伝医学」ヌスバウム R、マックイネス R、ウイラード HF(共 著) 福嶋義光 (監訳)、 2017、第2版、メディカルサイエンス・インターナショナル社
- 「ゲノム医学」 ストラチャン T, グッドシップ J, チネリー P(共著)、菅野純夫・福嶋義 光(監訳)、2016、初版、 メディカルサイエンス・インターナショナル社
表1
番号 | 発行年 | 症候 | 遺伝子変異 | 表現型 | 薬物投与効果 | 参考文献 |
---|---|---|---|---|---|---|
[1] | 2011 | FAD | PS1 A246E変異、PS2 N141l 変異 | Aβ42/Aβ40 ↑ | Compound E(GSI)に対して Aβ42とAβ40 ↓、Compound W(Aβ42 低下剤)に対してAβ42↓、高用量のβ42阻害剤に対して Aβ42/Aβ40は↓ | Yagi et al., 2011 Hum. Mol. Genet. 20, 4530-4539. |
[2] | 2012 | FAD and SAD | AAPP 重複 | Aβ(1-40)、p-tau、aGSK-3βの増加 | βSi-II とOM99-2(BACE1阻害剤)は、p-tauおよびaGSK-3β ↓させたがCPD-E とDAPT (GSI)効果なし、初期エンドゾーム膨満あり | Israel et al., 2012 Nature. 482, 216–220. |
[3] | 2012 | FAD | PS1 L166P変異、PS1 D385N変異 | Aβ42/Aβ40 ↑、Aβ40↓したがAβ42は対照と変化なし、γ-secretase機能の部分的欠失 | DAPT (GSI)により Aβ42とAβ40↓、非ステロイド系抗炎症剤NSAIDs(GSM)は Aβ42とAβ40および 同比↓ | Koch et al., 2012 Am. J. Pathol. 180, 2404–2416. |
[4] | 2012 | DS | 21番染色体トリソミー | Aβ42蓄積、Aβ40↑、p-tauの細胞体と軸索局在 | DAPT(GSI)はAβ42とAβ40 ↓ | Shi et al., 2012 Sci. Transl. Med. 4:124ra29. |
[5] | 2013 | FAD and SAD | APP V717Iロンドン変異および APP E693Q オランダ変異 | APP E693 株における細胞外Aβ42とAβ40↓と高い細胞内Aβオリゴーマ蓄積、APP V717L株におけるAβ42/Aβ40 ↑ | BSI(BACE1阻害剤IV)は細胞内オリゴーマ蓄積を抑制、細胞内オリゴーマがERと酸化ストレスの原因、DHAはストレス応答 ↓ | Kondo et al., 2013 Cell Stem Cell. 12, 487–496. |
[6] | 2013 | FAD | PS1 ΔE9変異 | Aβ42/Aβ40 ↑はAβ40↓による | Compound E(GSI)でAβ42/Aβ40は不変,その説明はPS1 ΔE9がdominant negativeでγ-secretase非依存性機能による | Woodruff et al., 2013 Cell Rep. 5 :974–85. |
[7] | 2014 | FAD | APP V717L変異 | Aβ42/Aβ38↑、APPのβ-secretase切断↑、γ-secretase切断部位の変更、p-tauとt-tau↑ | DAPT (GSI)によりAβ ↓, 3D6またはAW7(Aβ特異的抗体)によりt-tau ↓ | Muratore et al., 2014 Hum.Mol. Genet. 23,(13)3523-3536. |
[8] | 2014 | FAD | PS1 A246E変異、PS1 M146L変異 | Aβ42/Aβ40↑は、神経細胞よりも神経前駆細胞において顕著、14遺伝子がPS1変異患者の神経前駆細胞で発現を変化させ、その内5遺伝子は遅発性と中期発症ADにも関与した | Sprout et al., 2014 PLoS One 9 :e84547. | |
[9] | 2014 | FAD | PS1 A246E | Aβ42/Aβ40 ↑ 可溶性APP↑ | DAPT(GSI)で可溶性APP ↓ | Mahairaki et al., 2014 Stem Cells Dev. 23, 2996–3010. |
[10] | 2014 | FAD | APP K670N/M671L スウェーデン変異, APP V717I変異 PS1 ΔE9変異 3次元培養 | Aβ42とAβ40細胞外蓄積によるアミロイド斑形成, p-tauの神経細胞体と軸索における銀陽性体の凝集と繊維状蓄積 ↑ | GSK-3β阻害剤によりt-tauやAβを変化させることなくp-tau だけを↓, Compound E(GSI)とBACE1阻害剤でアミロイド斑だけでなくtauタンパク質異常症を改善させた | Choi et al., 2014 Nature 515, 274–278. |
[11] | 2014 | FAD | APP A673T変異(ADからの保護作用) | APPのBACE1触媒代謝回転速度を低下させてAβ42の蓄積を妨げることによりAD保護作用を発現する | Maloney JA et al.,2014 J Biol. Chem. 289(45):30990–1000. | |
[12] | 2015 | FAD | PS1 Y115C変異、PS1 intron 4変異、 APP V717l 変異、APP重複 | Aβ42/Aβ40↑、APPによりt-tauとt-tau↑、APP重複は不変 | DAPT(GSI)は細胞内tau↑,LY2886721(BACE1阻害剤)は細胞内tau↓,E2012(GSM)は細胞内tauそれぞれ↓ | Moore et al., 2015 Cell Rep. 11, 689–696. |
[13] | 2015 | DS | 21番染色体トリソミー | Aβ42とAβ40↑、t-tauとp-tau↑ | DAPT(GSI)はAβ42とAβ40およびt-tauとp-tauをそれぞれ↓ | Chang et al., 2015 Sci Rep.2015 5:8744. |
[14] | 2016 | FAD | PS1 ΔE9変異、 APP V717F変異 APP K670N/M671NL変異 | 損傷したLDLのエンドサイトーシスとトランスサイトーシスは多くのFAD変異型に認められ、それはRab11のリサイクルエンドゾームの欠陥に起因する | BACE1阻害剤はLDLのエンドサイトーシスとトランスサイトーシスの機能不全を回復させた | Woodruff et al., 2016 Cell Rep. 17, 759–773. |
[15] | 2016 | FAD | APP 重複、 PS1 M1461変異 PS1 A264E変異 | Aβ42とAβ40異常蓄積、Aβ比は有意な変化でない, p-tau↑ オルガノイド培養 | Compound E(GSI)とBACE1i(BACE1阻害剤)でそれぞれAβとp-tau ↓ | Raja et al., 2016 PLoS One 11:e0161969. |
[16] | 2016 | FAD | PS1 L150P変異 | CRISPR/Cas9により150P変異編集株(L150P-GC-hiPSC)の作成 | Poon et al., 2016 Stem Cell Res.;17(3):466–469. | |
[17] | 2016 | FAD | APP K724N変異 | Aβ42/40 ↑ | ヒト化学物質暴露産物であるトリアジン除草剤は、γ-secretase基質のアルカデインαの切断パターンをシフトさせることによって、Aβ42産生を増強させ、「アルツハイマーホルモン」の可能性示唆 | Portelius et al.,2016 J Alzheimers Dis.;54(4):1593–605. |
[18] | 2017 | FAD and SAD | FADとSAD由来細胞の萎縮および異常な局在化、ただしNPCは病理学の証拠を示さなかった | Jones et al., 2017 Cell Death Dis. 8:e2696. | ||
[19] | 2017 | FAD | PS2 N141l 変異 | 前脳アセチルコリン細胞に分化誘導されたiPSCで観察されたAβ42/Aβ40↑と減弱した電気生理学応答がPS2へのCRISPR/Cas9遺伝子編集によって回復した | Ortiz-Virumbrales et al., 2017 Acta Neuropathologica Communications 5:77. | |
[20] | 2017 | FAD | APP V717l変異 | 神経細胞に分化したiPSCの Aβ42/Aβ40とt-tau/p-tauは脳の吻側部で↑, 尾側部で↓ ADに対して前脳は脆弱である | Muratore et al., 2017 Stem Cell Reports.;9(6):1868–1884. | |
[21] | 2017 | FAD | PS1 A246E変異 | A246E変異由来iPScは高濃度のAβ42を分泌し、Aβ42オリゴーマに対して特異的に高い感受性を示した | Armijo et al., 2017 Neurosci Lett. 639:74–81. | |
[22] | 2017 | DS | 21番染色体トリソミー | DS由来iPScのAβ42分泌↑, Aβの代謝異常などから、ADの細胞兆候を再現 | Dashinimaev et al., 2017 J. Alzheimers Dis. 56(2):835–847. | |
[23] | 2018 | FAD | APP D678H Taiwan 変異 | Aβ42とAβ40異常蓄積、GSK-3β過剰リン酸化、p-tau ↑ | NC009-1(Aβ凝集減少剤)はAβ42とAβ40を正常レベルに復元し、GSK-3βとtauのリン酸化を改善し、神経突起伸長障害、シナプトフィジンのダウンレギュレーション、カスパーゼ1活性などを改善させた | Chang et al., 2019 Mol Neurobiol. 56(6):3972-3983. |
[24] | 2018 | FAD | APP K670N/M671L スウェーデン変異 | アレルのCRISPR/Cas9編集によってAβ42とAβ40↓ | György et al., 2018 Molecular Therapy Nucleic Acids, 11,429-440. | |
[25] | 2018 | DS | 21番染色体トリソミー | DSiPScにおいてCRISPERによりAPP遺伝子を過剰に発現させると、AβとAβ42/Aβ40の増加とアミロイド凝集体の沈着がみられたが、tau水準とは関係がなかった | Ovchinnikov et al., 2018 Stem Cell Reports. 11(1):32–42. | |
[26] | 2019 | FAD | APP V717I変異 | 変異iPSCでAβ42↑、APP-C末端のCRISPR/Cas9ゲノム編集によりAβ42とAβ40↓ | GSI はγ切断効果を抑制するために適用された | Sun et al., 2019 Nature Comm.10, 53. |