椎骨脳底動脈閉塞症に対するEVTは薬物療法に対する優位性を示せず:欧州におけるRCT(BASICS)

公開日:

2021年6月1日  

最終更新日:

2021年6月4日

Endovascular Therapy for Stroke Due to Basilar-Artery Occlusion

Author:

Langezaal LCM  et al.

Affiliation:

St. Antonius Hospital, Koekoekslaan, Nieuwegein, the Netherlands

⇒ PubMedで読む[PMID:34010530]

ジャーナル名:N Engl J Med.
発行年月:2021 May
巻数:384(20)
開始ページ:1910

【背景】

本研究はオランダなど7ヵ国の多施設で実施された椎骨脳底動脈急性閉塞に対する血管内治療(EVT)に関するRCT(BASICS)である.推定発症から6時間以内の患者300例のうち154例はEVTに,146例は薬物療法にランダムに割り当てられた.経静脈的血栓溶解剤tPAは両群とも約8割に投与された.EVTは発症後中央値4.4時間に開始された.

【結論】

発症90日目で,EVT群のうち68例(44.2%),薬物療法群のうち55例(37.7%)が一次アウトカムと設定した機能予後良好(mRS≦3)であった(リスク比1.18;95% CI,0.92~1.50).治療開始後3日間の症候性頭蓋内出血はEVT群で4.5%,薬物療法群で0.7%発生した(リスク比6.9;95% CI,0.9~53.0).90日目死亡はEVT群38.3%,薬物療法群43.2%であった(リスク比0.87;95% CI,0.68~1.12).すなわち,3種類いずれの評価項目においても2群間に有意差はなかった.

【評価】

2020年2月に公開された中国における椎骨脳底動脈急性閉塞に対するEVTのRCT(BEST)は登録の遅れとクロスオーバー症例の過剰によって中止されている(文献1).このBEST研究では,ITT分析では,EVT群と標準治療割り当て群で,一次アウトカム(mRS≦3)に差はなかった(28/66[42%] vs. 21/65[32%],OR 1.74,95% CI,0.81~3.74).しかし,per-protocol解析では,一次アウトカム:(44% vs. 25%,OR 2.90,1.20~7.03),as-treated解析では,一次アウトカム:(47% vs. 24%,OR 3.02,1.31~7.00)と,3ヵ月目の機能予後はEVT群で有意に良好であった.
やはり中国から2020年に発表されたBASILAR研究(829例)は連続前向き登録研究であるが,EVT群では標準薬物治療に対して症候性出血の頻度は高まるものの,機能予後を高め,死亡率を低減させることを明らかにした(文献2).年齢,後方循環ASPECT,血圧,閉塞部位,閉塞の原因など多くの背景因子で2群間に差があったが,これらの因子を調整した傾向スコアマッチングで抽出した167例ずつで比較してもEVT群の方が90日目のmRSが良好で,機能予後良好(mRS≦3)例が多く,死亡率が低かった(p<.001)という.
本BASICS試験は椎骨脳底動脈急性閉塞に対するEVTに関して初めてプロトコール通り完遂されたRCTであるが,事前に一次アウトカムとして設定された機能予後良好(mRS≦3)はEVT群と薬物療法群で差はなかった.ちなみに機能予後excellent(mRS≦2)も35.1%と30.1%で2群間に有意差はなかった(リスク比,1.17;95% CI,0.87~1.57).
ただし数字上は一次アウトカムはEVT群で44.2%,薬物療法群で37.7%であった.著者らは有意差が出なかった理由は95%信頼区間が広すぎたためだとしている.やはり、前方循環系に比べれば椎骨脳底動脈急性閉塞に対するEVTは薬物療法群と差が出にくいと考えるべきで,統計学的に優位性が証明されるためには著者らも言うようにもっと多数例でのRCTが実施されなければならないだろう.
しかし椎骨脳底動脈閉塞は全急性期頭蓋内主幹動脈閉塞の10%に過ぎず,本研究で300例の症例を集めるのに約8年の期間を要したことを考えれば新たなRCTにおける症例リクルートメントには苦労しそうである.現在,急性期の椎骨脳底動脈閉塞症例を対象としたRCTは他にないので,ここ数年間では複数のRCTを対象としたメタアナリシスも出来そうにない.また将来,例えば500例のRCTでかろうじて有意差が出たとしても,費用対効果や治療必要数(NNT)を考慮すれば果たしてそれが実用的な治療と言えるのかどうかも考慮すべきである.
ちなみに,本RCTでは機能予後良好(mRS≦3)がEVT群で約46%,薬物療法群で約30%と仮定して治験を開始しているが,結果は44.2%と37.7%であり,薬物療法群における機能予後良好例が予想外に多かったことになる.この理由は定かではないが,2015年に発表された前方循環のMR CLEAN研究に比べれば,治療開始後24時間での動脈開存率が薬物療法群でも56.3%と高く(MR CLEANでは32.9%)(文献3),両研究とも約8割以上で実施された経静脈的血栓溶解療法(tPA)の効果が椎骨脳底動脈系ではより高かった可能性がある.
本BASICS研究で注目すべきは,サブグループ解析で,NIHSS<10の軽症では2群間に差はなかったが,NIHSS≧10の重症例に限ればリスク比1.45(1.03~2.04)でEVT群の機能予後良好(mRS≦3)が有意に多かった点である.もし,現段階で椎骨脳底動脈閉塞患者に対するEVTを積極的に行うとすれば,重症例がターゲットとなるのかも知れない.
現在,中国では発症後6時間~24時間経過した椎骨脳底動脈閉塞患者に対するEVTに関したBAOCHE研究(Basilar Artery Occlusion Chinese Endovascular Trial,NCT02737189,目標症例数318例)がやはり機能予後良好(mRS≦3)を一次アウトカムとして進行中である(2022年末終了予定)(文献4).その結果に期待したい.
なお本論文に対するEditorialで,ベス・イスラエル・ディーコネス・メディカル・センター(Boston)のFisher Mは,中国のBESTでも本BASICSでも椎骨脳底動脈閉塞患者に対するEVTの優位性が証明されなかった理由として①症例登録スクリーニングを受けた後,ともに98例が治験外でEVTを受けており,その転帰が不明なこと,②前方循環系EVT治験で虚血巣の広さや側副血行の評価に用いられたadvanced imagingがこれら二つのRCTでは症例採用基準に入っていないこと,③mRSという機能評価尺度が,多数の機能が集約されている脳幹を含む後頭蓋窩梗塞では充分に感度が高くなかった可能性を挙げている.

<コメント>
本試験では脳底動脈閉塞に対する血管内治療は内科的治療に比して統計学的に優位性が示せなかったが,血管内治療の役割を否定しているわけではない.限られた症例数の問題以外に,脳底動脈閉塞は前方循環系に比べ虚血発生から非可逆的脳機能障害完成までのtime windowが狭く,このために血管内治療の優位性が示せなかった可能性がある.またサブ解析ではNIHSS10以上の重症例の他,70才以上,脳底動脈近位側閉塞の症例でも血管内治療の恩恵がうかがえる.特にこれらの症例やtPA無効例にとっては血管内治療は有効な治療手段かも知れない(岐浦禎展).

執筆者: 

有田和徳   

監修者: 

岐浦禎展