飲酒者のiNPHはシャント反応性が良い

Vol.1, No.2, P.9 公開日:

2016年10月30日  

最終更新日:

2022年2月14日

Association between shunt-responsive idiopathic normal pressure hydrocephalus and alcohol.

Author:

Johnson MD  et al.

Affiliation:

Department of Neurosurgery, Harvard Medical School, Brigham and Women’s Hospital, Boston, MA

⇒ PubMedで読む[PMID:27689463]

ジャーナル名:J Neurosurg.
発行年月:2016 Sep
巻数:30
開始ページ:1

【背景】

特発性正常圧水頭症(iNPH)は脳室拡大,歩行障害,失禁,認知症などを特徴とする疾患で,これらの症状は髄液シャントにより改善する.ハーバード大学のJohnsonらは,iNPHに対して髄液シャント術が実施された患者を対象に症状改善の有無(シャント反応性:418名, 非反応性111名)と関連する因子を2変量解析,多変量解析を用いて求めた(n=529).またアルコール摂取量とシャント反応性の関係を求めた(n=328).さらにiNPH患者におけるアルコール消費量を2つの大学病院のiNPH患者登録を用いて検討した(n=1,665).

【結論】

2変量解析から,シャント反応性と歩行障害(OR 4.59,p<0.0001),認知症状(OR 1.79,p=0.01),失禁(OR 1.77,p=0.01),アルコール摂取(OR 1.98,p=0.03)には有意な相関があった.有意性が境界域のものは脂質異常症(p=0.054),脂質異常症の家族歴(p=0.054),糖尿病(p=0.064)があった.多変量解析では歩行障害(OR 3.98,p=0.0006)とアルコール摂取(OR 1.94, p=0.04)がシャントの効果の有意の相関因子であった.アルコール摂取量の多さはシャント後の改善の頻度・程度と正相関した.iNPH患者においてはコントロール群と比べて飲酒回数が有意に多かった(約2.5倍).

【評価】

iNPHの原因についてこれまで多数の研究がなされてきたが,原因はいまだ不明である.本研究ではiNPHが行動因子,環境因子に影響され発症することが示唆された.
特筆すべきはアルコール摂取の量がシャント術による症状改善と有意に正相関したという意外な結果である.
アルコール摂取がiNPH発症を促進するのか,アルコール摂取がiNPH患者の髄液ドレナージに対する反応性を向上するのかについて,今後前向き研究がなされるべきであるが,少なくともアルコール過剰摂取がiNPH患者に対するシャント手術を忌避する根拠にはならないようである.
なお,本研究では高血圧や喫煙とシャント反応性iNPHに相関は認められなかった.

執筆者: 

牧野隆太郎   

監修者: 

有田和徳

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