脳海綿状血管腫の経過観察ではT1高信号に注目を:Mayoクリニックの315例

公開日:

2024年6月18日  

Contemporary cohort of cerebral cavernous malformations: natural history and utility of follow-up MRI

Author:

Flemming KD  et al.

Affiliation:

Departments of Neurology, Neurosurgery, and Radiology, Division of Neuroradiology, Mayo Clinic, Rochester, MN, USA

⇒ PubMedで読む[PMID:38788238]

ジャーナル名:J Neurosurg.
発行年月:2024 May
巻数:Online ahead of print.
開始ページ:

【背景】

脳海綿状血管腫の出血リスクに関するこれまでの研究の多くは後方視研究であり,最近の前向き登録症例における解析は少ない.また経過観察中における2回目以降の出血リスクに関する検討も少ない.Mayoクリニック脳外科などのチームは,最近8年間にスクリーニングした脳海綿状血管腫のうち1年以上手術なしで経過観察されていた315例(家族性20%,脳幹部29%を含む)の前向き登録データを基に,症候性出血(SH)の頻度とそのリスク因子を求めた.脳海綿状血管腫診断の契機は登録時のSH:117例37.1%,非SH:198例62.9%(局所脳神経症状19例,けいれん30例,偶然発見148例).追跡期間中央値6年.

【結論】

追跡期間中で163例(51.7%)ではSHは起こらず,152例(48.3%)ではSHが起こった.この152例のSH回数は1回50.7%,2回27.6%,3回13.8%,4回6.6%,5回1.3%であった.
登録時のSH症例の5年間の累積SH率は41.2%,重症SH率は12.8%,登録時の非SH症例では5年間の累積SH率は6.1%,重症SH率は2.5%であった.追跡期間中のSH発生リスク因子は,登録時のSHと登録時のMRIから3ヵ月以上経って実施したMRIで認められたT1高信号であった.SHで診断された海綿状血管腫における経過観察中の2回目のSHのリスクは1回目の出血リスクと同様であった.

【評価】

本研究では,経過観察された脳海綿状血管腫症例全体の5年間累積の症候性出血(SH)率は19.4%と従来の報告と同様であった(文献1,2,3).しかし,症候性出血(SH)で診断され,その後経過観察された症例では5年間のSH出現率は41.2%と従来の報告よりも高かった(文献1,4,5).一方,症候性出血以外の理由(偶然発見,けいれん,局所神経症状)で診断された脳海綿状血管腫の5年間のSH出現率は6.0%と低いこと,さらにRS ≥3の重症SHの発生率はかなり低いことを示している(2.5%).
単変量解析では,追跡期間中のSHと相関する登録時の因子としては,若年(<45歳),症候性出血による診断,サイズ(≥1 cm),脳幹局在,浮腫の存在が検出されている.これらの因子は過去の報告でもリスクファクターとして取り上げられている(文献6,7).ただし過去の報告(文献6,7)でリスク因子として取り上げられている隣接するDVA(developmental venous anomaly)の存在は本研究ではSHと全く相関しなかった(p =.6).一方,追跡期間中のSHと相関する追跡期間中のイベントは,無症候性の出血,無症候性の増大(≥3 mm),最終追跡時のサイズ(≥1 cm),初診時MRIから3ヵ月以上経って実施したMRIでのT1高信号の残存か新規出現であった.
しかし,多変量Cox比例解析では初診時の症候性出血とT1高信号の残存/新規出現の2項目だけが脳海綿状血管腫の追跡期間におけるSHのリスク因子として残った(p <.0001).その他,多変量解析で緩い相関が示唆されたものは脳幹局在であった(p =.09).
本研究結果で最も興味深いのは,3ヵ月以上追跡しても消失しないか,新たに出現したT1強調MRI上の高信号が追跡期間のSH発生の強い予測因子であったことである(HR 4.5,95% CI:2.3–9.0,p <.0001).出血で血管外に放出されたヘモグロビンはオキシヘモグロビン→デオキシヘモグロビンと変化し,出血後1週間から1ヵ月ではT1強調MRI上で高信号を呈するメトヘモグロビンに変換される.出血後1ヵ月を超えると周囲に遊走したマクロファージによって,ヘモジデリンに変換され,この段階ではT1で低信号を呈するようになる.したがって,診断後(本研究登録後)3ヵ月を経てもなおT1高信号が残っていたり新たに出現するものは,たとえ病変そのものが増大しなくても,その後も海綿状血管腫からの無症候性の微小出血が続いているということを意味する.実際,本研究では,診断後(本研究登録後)3ヵ月を経てもなおT1高信号が残っていたり新たに出現したりした症例は,追跡期間中のSH出現群で77.1%,非出現群で31.4%であった.一方,診断後(本研究登録後)3ヵ月を経てもなおT1強調MRI上で高信号が残っていたり新たに出現した86例中ではその後にSHが観察された症例は37例(43.0%)と高く,高信号がなかった118例中では11例(9.3)に過ぎなかった.
MRI検査対象患者が急増しつつある昨今,1症例あたりの撮像時間を短くするために,T1強調像はスキップすることも多いが,脳海綿状血管腫症例に限っては,それは避けるべきかも知れない.

執筆者: 

有田和徳