血栓回収治療に際しての橈骨動脈アクセスが大腿動脈アクセスに対して非劣性であることを証明:スペインにおける評価者盲検RCT

公開日:

2024年6月18日  

最終更新日:

2024年6月23日

Radial Versus Femoral Access for Mechanical Thrombectomy in Patients With Stroke: A Noninferiority Randomized Clinical Trial

Author:

Hernandez D  et al.

Affiliation:

Hospital Universitari Vall d'Hebron, Barcelona, Spain

⇒ PubMedで読む[PMID:38527149]

ジャーナル名:Stroke.
発行年月:2024 Apr
巻数:55(4)
開始ページ:840

【背景】

急性頭蓋内動脈閉塞に対する血栓除去術のアクセスとしては,大腿動脈が選択されることが多いが(文献1),心血管インターベンションでは腕の動脈からのアクセスが主流となりつつある(文献2).
バルセロナ・バルデブロン大学血管内治療科などのチームは,橈骨動脈の選択が大腿動脈に対して非劣性であることを明らかにするために,評価者盲検RCTを行った. 
対象は急性期脳主幹動脈閉塞患者のうち超音波検査で橈骨動脈径が2.5 mm以上であった116例.58例ずつが橈骨動脈経由と大腿動脈経由に無作為に割り当てられた(ITT解析対象).アクセスの入れ替えがなかったのは橈骨動脈の53例と大腿動脈の51例(PP解析対象例).

【結論】

非劣性マージンは閉塞血管再開通(eTICI 2b-3)率で−13.2%と設定した.
ITT解析では,再開通率は,大腿動脈経由が87.9%,橈骨動脈経由が96.6%,調整リスク差 +3.3%で,一側下限値は−5%であったため,橈骨動脈割り当て群の非劣性が証明された.PP解析でも調整リスク差 +1.8%,一側下限値は−7.1%で,橈骨動脈経由群の非劣性が証明された.
重篤な合併症は,大腿動脈経由群の1例が後腹膜血腫で死亡(1.7%),橈骨動脈経由群の1例が橈骨動脈閉塞(1.7%)となった.血管撮影室到着から閉塞血管再開通までの時間は大腿動脈群が短かった(41分 vs 59.5分,p <.050).

【評価】

心血管インターベンションの領域では,橈骨動脈アクセスの方が大腿動脈アクセスと比較して重篤な血管合併症や治療手技関連死亡が少ないことが大規模試験で証明されており(文献3,4,5),欧州心臓学会は経皮冠動脈形成術(PCI)におけるアクセスルートの橈骨動脈への変更を推奨している(文献2).
一方,脳神経血管内治療においても,その低侵襲性を主たる理由として,徐々に橈骨動脈を含めた上肢からのアクセスが増加しつつある.日本でも経橈骨動脈脳血管内治療研究会(TRN研究会)が2020年に発足しており(文献6),今後橈骨動脈経由の脳血管内治療は増える可能性が高い.
既にトーマス・ジェファーソン大学(PA)脳外科などのチームは,全ての脳血管内手技(診断500件,血管内治療260件)を腕からのアクセスで実施した連続760件を報告しているが,治療手技上の成功は94%で得られている(文献7).また大腿動脈穿刺への変更を余儀なくされたのは約5%(血管内治療群では9.2%)に過ぎなかった.
本研究は,機械的血栓除去術における大腿動脈アクセスに対する橈骨動脈アクセスの非劣性RCTであるが,一次エンドポイントとして設定された閉塞血管再開通(eTICI 2b-3)率は,ITT解析でもPP(per-protocol)解析でも2群間で差はなく,橈骨動脈アクセスの非劣性が証明された.ただし,血管撮影室到着から閉塞血管再開通までの時間は,橈骨動脈群で約20分長かった(41分 vs 59.5分).この理由として著者らは,①エコーガイド下での橈骨動脈穿刺ならびに6Frシースを留置する前のベラパミルの投与に時間がかかること,②術者にとって大腿動脈の方が慣れていること,③大多数の症例では,経大腿動脈経由の方が大動脈弓より頭側の動脈へのアクセスが直線的であり容易であること,④本研究のシリーズでは,橈骨動脈経由の方が頚部動脈へのアクセスがより有利な大動脈弓タイプ2とタイプ4の頻度が併せて20%前後と少なかったことを挙げている.このうち①や②に関しては,今後経験の蓄積とともに解消される可能性はあるだろう.
一方,発症90日目のmRSが両群とも中央値3で差がなかった(調整オッズ比 0.98,IQR 0.46-2.10)のは,発症から動脈穿刺までの時間が両群とも260分前後であり,発症から再開通までの時間には2群間で大差がなかったことが理由と思われる.ただし,症例数がより増えれば,橈骨動脈アクセス症例における血管撮影室到着から閉塞血管再開通までの時間の遅れが,機能予後に影響してくる可能性は否定できない.
今後の多施設共同RCTで確認すべき課題であろう.さらに,特に橈骨動脈アクセスの方が望ましい動脈分岐のパターンや,逆に橈骨動脈アクセスを避けるべきケースが明らかになることを期待したい.

執筆者: 

有田和徳