成人頭蓋咽頭腫には内頚動脈の未破裂脳動脈瘤が多い:頻度,リスク因子,治療戦略

公開日:

2024年7月13日  

最終更新日:

2024年7月13日

Adult craniopharyngioma concomitant with unruptured intracranial aneurysms: incidence, risk factors, and treatment strategies

Author:

Cai K  et al.

Affiliation:

Department of Neurosurgery, Beijing Tiantan Hospital, Capital Medical University, Beijing, China

⇒ PubMedで読む[PMID:38875730]

ジャーナル名:J Neurosurg.
発行年月:2024 Jun
巻数:Online ahead of print.
開始ページ:

【背景】

一般人口における未破裂動脈瘤の発生頻度は2-3%前後と稀で(文献1,2),その年間破裂率も低いが(文献3),鞍上部腫瘍の場合,ウィリス動脈輪の動脈瘤の存在は治療上の障碍となり得る(文献4).頭蓋咽頭腫の場合はどうか.北京天壇病院脳外科は,2021年1月からの2年8ヵ月間で治療した成人の頭蓋咽頭腫289例における未破裂動脈瘤合併頻度,リスク因子,治療戦略について検討した.
全例で術前にCT脳血管造影が施行された.未破裂脳動脈瘤は23例(7.96%)で26個認められた.年齢/性が一致する578人のMRAでは,未破裂動脈瘤の発見例は20例(3.46%)で,有意に少なかった(p =.004).

【結論】

全26個の動脈瘤中,20個(76.9%)が内頚動脈上にあった.動脈瘤径は3.9±2.0 mm(2–11 mm).
多変量解析では,未破裂脳動脈瘤合併の独立リスク因子は高血圧(OR 4.1,p =.002),エストロゲン欠損(OR 3.1,p =.015),鞍上部腫瘍(OR 4.3,p =.004)であった.
破裂リスクが一般的に高いと判断される(>7 mmなど)動脈瘤の他,腫瘍に近いなどの理由で6症例7個の動脈瘤に対しては,頭蓋咽頭腫の内視鏡下摘出術前に,血管内治療が行われた.
23例全例で,腫瘍摘出術中の動脈瘤破裂は認められず,肉眼的全摘出率も91.3%と動脈瘤非合併例と差はなかった.

【評価】

北京天壇病院は世界最大の脳外科病院で,脳腫瘍の手術数は年間7,000件に及んでおり(文献5),本研究の対象となった成人頭蓋咽頭腫症例数もわずか2年8ヵ月の期間で289例と単一施設としては破格の症例数である.
本稿によれば,成人頭蓋咽頭腫症例における未破裂動脈瘤合併の頻度は7.96%と年齢/性を一致させた健常成人における頻度3.46%の約2倍であった.しかし,スクリーニングの方法が頭蓋咽頭腫症例では造影CT血管撮影,対照群ではMRAと異なっており,単純な比較は禁物である.
ただし,本稿によれば頭蓋咽頭腫に合併する動脈瘤の76.9%が内頚動脈上に発生しているが,一般人口における未破裂動脈瘤が内頚動脈上あるいは内頚動脈-後交通動脈分岐部に発生する頻度は30-40%前後とされているので(文献3,6),やはり頭蓋咽頭腫の存在そのものが,何らかの機序で動脈瘤の形成を促進している可能性を否定は出来ない.さらに,著者らが経験した非トルコ鞍部腫瘍の92例では未破裂動脈瘤の合併は3例(3.26%)と少なかったことも,これを支持しているのかも知れない.
本研究の結果,頭蓋咽頭腫症例における未破裂動脈瘤合併のリスク因子としては,単変量解析では,高年齢,高血圧,乳頭型頭蓋咽頭腫,エストロゲン欠損,鞍上部腫瘍が挙がったが,多変量解析では,高血圧,エストロゲン欠損,鞍上部腫瘍が残った.高年齢や高血圧は一般成人においても動脈瘤発生のリスク因子である(文献1).エストロゲン欠損については,エストロゲンが有するコラーゲン合成促進や血管内皮細胞機能維持の役割の欠如が動脈瘤発生に関係しているのかも知れない(文献7,8).鞍上部腫瘍では周囲動脈に対する腫瘍の圧迫や浸潤によってウィリス動脈輪の血行動態が変化することが動脈瘤形成の一因となっている可能性がある.著者らのシリーズでは,鞍結節髄膜腫症例でも未破裂動脈瘤合併の頻度が高かった(6.56%)というが,これも同じ機序だろうか.さらに,乳頭型頭蓋咽頭腫では90%以上のケースでBRAF活性型変異が認められるが,この変異によって活性化されたMAPKシグナルが血管形態異常の発生と関係している可能性もある(文献9).
本稿は頭蓋咽頭腫の治療において重要な問題を提起している.したがって,本研究の発見は今後他施設の症例で検証されるべきであるが,少なくとも頭蓋咽頭腫に対して経鼻内視鏡下手術が予定されているケースでは,高磁場MRI機種によるMRAかCT血管造影による動脈瘤のスクリーニングは行っておくべきであろう.

執筆者: 

有田和徳

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