GCS-Pスコアは急性硬膜下血腫患者の生命予後推定に有効か:米国外傷データバンク(NTDB)の20万例の解析

公開日:

2024年7月29日  

Evaluation of the Glasgow Coma Scale-Pupils score for predicting inpatient mortality among patients with traumatic subdural hematoma at United States trauma centers

Author:

Ran KR  et al.

Affiliation:

Department of Neurosurgery, Johns Hopkins Hospital, Baltimore, MD, USA

⇒ PubMedで読む[PMID:38701532]

ジャーナル名:J Neurosurg.
発行年月:2024 May
巻数:Online ahead of print.
開始ページ:

【背景】

最近,頭部外傷患者の予後推定にGCSのスコアから対光反射が消失した眼(pupil)の数を引き算するGCS-P(1-15点)の有用性が報告されている(文献1,2).本稿は,2017–2019年に米国外傷データバンク(NTDB)に登録された外傷性急性硬膜下血腫症例から重症多発外傷や着院時救命不可能例を除いた196,747例を対象にGCS-Pの有用性を検証したものである.患者平均年齢は67歳(IQR:50,79歳).受傷機転は転倒66.5%が最多で,交通事故12.7%が続いた.穿通外傷は4,710例(2.4%).着院時GCS中央値は15(IQR:12,15).対光反射の異常は9.6%であった.

【結論】

全症例におけるROC解析では,入院期間内死亡の予測精度はGCSとGCS-Pでは類似しており,感度(0.707 vs 0.702)と特異度(0.821 vs 0.823)では有意差は無く,AUCは0.825 vs 0.814,p <.001とGCS-Pが僅かではあるが有意に高かった.較正曲線解析ではGCSは入院期間内死亡リスクをわずかに過小予測したが,GCS-Pはそうではなかった.
穿通性頭部外傷患者(2.4%,n =4,710)では,入院期間内死亡の予測精度はGCSと比較して,GCS-PのAUCが有意に大きかった(0.902 vs 0.851,p <.001).

【評価】

今月(2024年7月)は,Glasgow大学のTeasdale G(当時34歳,現在84歳)らが頭部外傷の予後予測スケールとしてのGCSを発表(文献3)してからちょうど50年になる.既にGCSは世界中の救命センター,脳卒中センター,ICUの毎日の臨床で使用される実践的なスケールとなっている.ちなみに日本で頻用されているJCS:Japan Coma Scale(3-3-9度方式)が太田,竹内らの手によって公表されたのもGCSと同じ1974年である(文献4).
GCSのスコアから対光反射が消失した眼(pupil)の数を引き算するGCS-P(1-15点)の有用性は,やはりTeasdale Gらのチームによって2018年に報告されている(文献1,2).ただし,このGCS-Pの実臨床上の評価は必ずしも一定してはおらず,頭部外傷患者における死亡予測の感度や特異度がGCSより劣るとの報告もある(文献5,6).
本稿は2017–2019年に米国外傷データバンク(NTDB)に登録された急性硬膜下血腫約20万症例を対象に,入院期間内死亡の予測におけるGCS-Pの有用性を検討したものである.全症例のROC解析では,感度や特異度はGCS-PとGCSで殆ど差がなく,AUCのみが極めて僅かにGCS-Pで高かった(0.825 vs 0.814,p <.001).一方,全体の2.4%に当たる穿通性頭部外傷患者4,710例では,入院期間内死亡の予測精度のROC解析では,GCSと比較してGCS-PのAUCが有意に大きかった(0.902 vs 0.851,p <.001).
これを見ると急性硬膜下血腫症例におけるGCS-Pの有用性はほぼ穿通性外傷(内訳:銃創が90.7%,刺創が9.3%)に限られている.年間約2万人が頭部銃創で救急外来に運び込まれる米国と異なり(文献7),頭部外傷機転のほとんどが鈍的外傷に限られる日本などの平和な社会ではGCS-Pの導入による臨床上の利益はかなり少ないことになる.
GCS-Pの提唱者らはGCS-Pに年齢(Age)の要素を加えたGCS-PA,さらにCTにおける異常所見の数(0,1,2個以上)を加えたGCS-PACTといった頭部外傷予後推定モデルも提案しているが,臨床現場への導入前に,未だ未だその実用性の評価が必要と思われる.

執筆者: 

有田和徳