成人もやもや病に対する血行再建術はどのような症例に有用か:韓国の住民ベース研究19,700名の解析

公開日:

2024年8月9日  

Outcomes of Bypass Surgery in Adult Moyamoya Disease by Onset Type

Author:

Lim YC  et al.

Affiliation:

Department of Neurosurgery, Ajou University School of Medicine, Suwon-si, Gyeonggi-do, Republic of Korea

⇒ PubMedで読む[PMID:38842810]

ジャーナル名:JAMA Netw Open.
発行年月:2024 Jun
巻数:7(6)
開始ページ:e2415102

【背景】

成人もやもや病に対する血行再建術はどのような症例において,死亡や脳卒中リスクの低減をもたらし,逆に上昇させるのか.韓国の水原市亜州大学脳外科は同国における希少疾患に関する診療情報データベース(HIRA)を用いた臨床研究を実施した.
対象は2008年1月以降の13年間に,韓国でもやもや病と診断された16歳以上の19,700名(平均年齢45.4歳,女性64.8%).内訳は,出血発症3,194例,虚血発症517例,無症候性15,989例.4,168例でバイパス手術が実施され(直接バイパス2,712例,間接バイパス1,456例),15,532例は保存的に治療された.術後追跡期間中央値5.74年.

【結論】

バイパス手術は,出血発症例では,全死亡リスクの減少(AHR 0.50)と出血性脳卒中リスクの減少(AHR 0.36)をもたらした(ともにp <.001).虚血発症例では,虚血性脳卒中リスクの減少をもたらした(AHR 0.55,p =.002).無症候例では,全死亡リスクの減少(AHR 0.74,p <.001)をもたらした.
しかしバイパス手術は,無症候例における出血性脳卒中リスクの上昇(AHR 1.76,p <.001)をもたらした.
直接バイパスも間接バイパスも,出血発症例,虚血発症例いずれでも同様の効果をもたらしたが,虚血性発症例では,直接バイパスだけが,虚血性脳卒中リスクの減少をもたらした.

【評価】

韓国におけるもやもや病の有病率は日本と並んで高く,10万人あたり6.3-16.1人とされる(文献1,2).小児のもやもや病に対するバイパス手術が患者の予後を改善させることはよく知られている.しかし,成人もやもや病に対するバイパス手術の有効性は確立しておらず,どのような症例に対して有効であるのかはまだ不明である.
本稿は韓国の希少疾患(RID)に関する診療情報データベース(HIRA)を用いて,もやもや病に対するバイパス術がどのような発症様式(出血性,虚血性,無症候性)の患者集団に対して有用であるかを解析した住民ベース研究である.過去最大の19,700名が対象となっている.
その結果,バイパス手術は,出血発症例では全死亡リスクと虚血性脳卒中リスクの減少を,虚血性発症例では虚血性脳卒中リスクの減少を,無症候例では全死亡リスクの減少をもたらすことを明らかにしている.しかし,バイパス手術は,無症候例における出血性脳卒中リスクの上昇をもたらした(AHR 1.76).
従来から,虚血発症成人もやもや病に対するバイパス手術の有用性は報告されているが(文献3,4,5),出血発症成人もやもや病に対するバイパス術についてはその評価は定まっていなかった.この状況に大きなインパクトを与えたのが,2014年にその結果が発表されたJapan Adult Moyamoya Trial(JAM試験)である.これによれば,出血発症成人もやもや病に対する直接バイパスは,保存的治療と比較して,出血性脳卒中と虚血性脳卒中を含む全イベントの発生率を低減させた(文献6).特に視床出血や側脳室三角部に代表される後方出血群において,直接バイパス術の再出血予防効果が高いことが明らかになっている.
日本のJAM試験の結果に加えて,この韓国からの住民ベース研究の結果を見ると,出血発症の成人もやもや病においてもバイパス手術の適応を考慮して良さそうである.
一方,成人もやもや病の約8割を占める無症候例では,最近の日本からの報告では5年間の脳卒中発症率は1%と低い(文献7).本研究でも,保存的治療群における5年間の出血性脳卒中発生率は1.21%,虚血性脳卒中発生率は0.56%と低く,バイパス手術はむしろ出血リスクを高める可能性があるので,手術適応については慎重な判断が求められそうである.
本研究は診療情報データベースに基づいた後方視研究であり,併有疾患などの重要な臨床情報,Suzukiグレードや脳循環を含む画像情報が欠落している.また,バイパス手術によって無症候例における出血性脳卒中リスクが上昇する理由も明らかにされていない.しかし本研究は,全国住民レベルの大規模コホートで成人もやもや病に対するバイパス手術の効果に関する全体像を提供した点で,一定の臨床的な意義を有している.

執筆者: 

有田和徳