未破裂中大脳動脈瘤に対する治療は未だにクリッピングファーストか:2011年以降の10報告1,664例のメタアナリシス

公開日:

2024年8月26日  

最終更新日:

2024年8月29日

Comparing surgical clipping with endovascular treatment for unruptured middle cerebral artery aneurysms: a systematic review and updated meta-analysis

Author:

Ferreira MY  et al.

Affiliation:

Faculty of Medicine, Ninth July University, São Paulo, Brazil

⇒ PubMedで読む[PMID:39094183]

ジャーナル名:J Neurosurg.
発行年月:2024 Aug
巻数:Online ahead of print.
開始ページ:

【背景】

従来,中大脳動脈の未破裂動脈瘤に対する治療としては血管内治療よりもクリッピング術が多用されてきた(文献1,2,3).しかし近年,血管内治療にはフローダイバージョンなどの新規手技が導入されている(文献4,5).本研究は,2011年以降に出版された未破裂中大脳動脈瘤に対する血管内治療とクリッピングを比較した10論文に含まれる1,664動脈瘤(血管内治療366個,クリッピング1,298個)に関するメタアナリシスである.血管内治療ではコイリング主体の報告が多かったが,バルーンアシストコイル(2論文),ステントアシストコイル(3論文),フローダイバージョン(1論文),WEB(1論文)の報告が含まれていた.

【結論】

動脈瘤の完全閉塞(RaymondクラスIかII)の割合はクリップ治療例よりも血管内治療例で低かった(血管内:185/215,クリップ:609/647)(OR:0.17,p <.01).良好な臨床転帰(mRS ≤2かGOS ≥4)の割合も血管内治療例で低かった(血管内:247/269,クリップ:573/592)(OR:0.44,p <.05).
治療関連の合併症の頻度,重篤な合併症の頻度,死亡率は両群間で差はなかった.しかし,軽微な治療関連合併症の頻度は血管内治療例で高かった(OR:4.68,p <.001).

【評価】

比較的最近発表の10報告1,664動脈瘤を対象とした本メタアナリシスでは,未破裂中大脳動脈瘤に対する血管内治療はクリッピング手術と比較して,動脈瘤完全閉塞の頻度と良好な臨床転帰の頻度は低く,逆に軽微な治療関連合併症の頻度が高いことを明らかにした.これらの結果は最近の3つのメタアナリシスとほぼ一致している(文献2,6,7).本メタアナリシスは再び,未破裂中大脳動脈瘤に対するクリッピング手術の血管内治療に対する優位性を明らかにしたことになる.
しかし,短期的にみれば,血管内手技の方が侵襲性は少なく,入院期間が短く,30日以内の再入院率が低いのは事実である(文献8).また,頭蓋内動脈分岐部の広頚動脈瘤に対する血管内手技はますます発展しつつあり,今後はこうした新規手技や患者QOLの評価を含めた前向き試験が必要であろう.
ただし,現在の若い脳外科医達の血管内治療(専門医)への強い指向性をみると,今後もしこうした前向き試験で,中大脳動脈瘤に対するクリッピング手術の優位性が確立したとしても,きちんとクリッピング出来る術者は最早いないという時代が来るのではないかという危惧は払拭出来ない.

執筆者: 

有田和徳