血管内血栓除去術は90歳以上の超高齢者にも行うべきか:欧州4施設における139例の解析

公開日:

2024年9月14日  

Predictors of futile recanalization in nonagenarians treated with mechanical thrombectomy: a multi-center observational study

Author:

Aggour M  et al.

Affiliation:

Department of Stroke and Neuroscience, Charing Cross Hospital, Imperial College London NHS Healthcare Trust, London, UK

⇒ PubMedで読む[PMID:38753228]

ジャーナル名:J Neurol.
発行年月:2024 Aug
巻数:271(8)
開始ページ:4925

【背景】

脳主幹動脈閉塞に対する機械的血栓除去術(MT)は,今や標準治療となってきており,高齢者に対しても実施されているが(文献1-4),超高齢者での有効性のエビデンスは充分ではない.本稿は欧州4施設(英国2施設,イタリア2施設)で実施された観察研究で,対象は2016年以降の約7年間に前方循環脳主幹動脈急性閉塞に対してMTが施行された90歳以上の139例.
再開通(mTICI ≥2b)にも関わらず,発症90日目のmRSが3–6であったものをfutile(無益)再開通と定義した.117例(84.2%)で再開通が得られ,86例(73.5%)は無益再開通,31例(26.5%)は有効再開通(mRS ≤2)であった.

【結論】

無益再開通例では,有効再開通と比較して入院時NIHSSが高く,経静脈的血栓溶解療法(IVT)実施率が低く,MT時の全身麻酔が多く,着院-鼠径部穿刺時間が長かった(いずれもp <.05).
単変量解析では,無益再開通の可能性を減少させたのはIVTの実施とより末梢の動脈閉塞,増加させたのは高い着院時NIHSS,全身麻酔,着院-鼠径部穿刺時間であった.
多変量回帰解析では,無益再開通の可能性を減少させたのはIVTの実施(OR 0.44,p =.039),増大させたのは高い入院時NIHSS(1ポイント毎にOR 1.15,p =.045),長い着院-鼠径部穿刺時間(1分毎にOR 1.02,p =.026)であった.

【評価】

90歳以上の超高齢者の前方循環脳主幹動脈急性閉塞に対する機械的血栓除去(MT)の有効性を検討した本研究によれば,閉塞動脈の再開通率は84.2%で得られたが,再開通症例の73.5%では発症90日目のmRSが3–6の機能予後不良で,再開通は無益であったと判定された.再開通症例のうち31例(26.5%)だけが有効再開通(mRS ≤2)と判定された.この結果は,2019年に発表されたフランスにおける脳主幹動脈閉塞に対するMTに関する多施設共同研究(ETIS登録)の結果とほぼ一致している(文献5).ETIS登録研究では90歳以上の124例でMTが実施され,93例(75%)で再開通が得られたが,再開通例のうち75例(81%)は発症90日目のmRSが3–6の無益再開通で,18例(19%)だけが有効再開通であった.MTを受けた90歳以上の全症例のうち有効再開通は,本論文の研究対象では22.3%,ETIS登録研究では14.5%という結果になる.
2013年に発表されたENDOSTROKE研究でも,無益再開通の頻度は年齢と共に増加することが報告されている(18–53歳で29% vs 77–94歳で53%)(文献6).すなわち,年齢が上がると共にMT後の無益再開通は増加し,90歳以上ではMTの対象となった患者の約2割の症例だけで有効再開通が得られるという現実が突きつけられている.
この結果をどのように捉えるべきであろうか.救急部門からの呼び出しに応じて頑張ってMTを行っても,90歳以上では8割は無効なので,最初からMTを行わずIVTだけを行うという選択肢も出てくるかも知れない.
少なくとも,本研究結果からは,90歳以上の患者に対するMTを考慮する場合,着院時の神経症状が悪い(NIHSSが高い,例えば ≥20)患者は避けて,やると決めたら,素早くアクセスすべきということになるのであろうか.その他,90歳以上では,画像所見でも相対的若年者の場合よりは,より厳しい条件が必要となるであろう.
また,脳卒中救急担当者の間でそのようなルールを共有することで,血管内治療担当者の“バーンアウト”を防ぐことも大切である.

執筆者: 

有田和徳