視床下部過誤腫に対するガンマナイフ治療:39例,5年間の追跡結果

公開日:

2024年9月14日  

最終更新日:

2024年9月15日

Gamma Knife Radiosurgery for Hypothalamic Hamartoma: A Multi-Institutional Retrospective Study on Safety, Efficacy, and Complication Profile

Author:

Tripathi M  et al.

Affiliation:

Department of Neurosurgery, Postgraduate Institute of Medical Education and Research, Chandigarh, India

⇒ PubMedで読む[PMID:38990006]

ジャーナル名:Neurosurgery.
発行年月:2024 Jul
巻数:Online ahead of print.
開始ページ:

【背景】

視床下部過誤腫の治療法としては薬物治療,開頭摘出術,内視鏡下摘出手術,定位手術的照射(SRS),定位温熱凝固術などがあるが,未だ標準的な治療は確立していない.本稿は米国、インドなどの5つのガンマナイフセンターで定位手術的照射が施行された視床下部過誤腫39例(男性24例,女性15例)に関する後方視研究である.診断時年齢中央値は12歳(0.4-53歳).診断時までのてんかん罹病期間は平均13±14(SD)年.初診時,95%はてんかん発作,87%は笑い発作を示した.思春期早発症は20%,認知機能障害や行動異常は75%で認められた.過誤腫診断からガンマナイフまでの期間は平均37ヵ月であった.

【結論】

ガンマナイフのターゲット体積中央値は0.57 cc(範囲:0.1-10),辺縁線量中央値は16 Gy(8.1-20).照射回数は1回90%,2-3回10%.照射後追跡期間中央値は5年であった.28%は照射後に過誤腫の体積の減少を示した.
3年以上追跡した29例中16例(55.2%)は良好なけいれんコントロール(エンゲルI/II)を示し,13例(44.8%)では不良であった(エンゲルIII/IV).照射後に,8例では一過性のけいれんの増加があり,1例で変温症になり,2例で新規のホルモン分泌不全が加わった.9例ではけいれんコントロールが不良のため,再照射や摘出手術を含む追加治療が行われた.

【評価】

視床下部過誤腫は視床下部に連続するあるいは内部に存在する先天性腫瘤で,笑い発作を含む種々の発作型(焦点起始発作,強直発作,強直間代発作など)を示すてんかん発作と,思春期早発症を特徴とする.半数以上に知的発達障害や知的な退行,攻撃性,易刺激性,多動などの行動異常を併発し,患者ならびに家族に大きな負担となっている.大多数の症例で,笑い発作を含むてんかん発作の起源は視床下部過誤腫自身に在ることが明らかになっており,てんかんコントロールのためには過誤腫の摘出手術や温熱凝固あるいは放射線によるアブレーションやてんかん伝搬路の遮断が行われてきた(文献1-5).
視床下部過誤腫に対するガンマナイフ治療は1990年代の後半に導入され,徐々に普及してきている(文献6-10).本稿の多施設共同研究は,ガンマナイフ後3年以上経過したケースでは,55.2%がエンゲルI/IIという良好なてんかんコントロールであったことを示している.同様の成績はRégisらの前向き研究でも示されている(文献9).また照射後の経過時間が長い患者の方がてんかんコントロールが良好であったという結果(p <.001)も示されているので,今後,てんかんコントロール良好の割合は増加していく可能性がある.一方,ガンマナイフによる,視機能障害を含む重大な副作用は認められていない.
しかしながら,ガンマナイフ後,漸減するとはいえ,一部の症例で持続するてんかん発作が若年者の脳に及ぼす甚大な影響を考えると,摘出手術や高周波温熱凝固などの方法で,より早期のてんかんコントロールを目指した方が良いのかも知れない.あるいは,ガンマナイフ後1-2年経過をみて十分な効果が期待できなければ,早めに他のアブレーションの方法を試みるという考え方も必要であろう(文献10).

<コメント>
視床下部過誤腫(HH)に対するガンマナイフ治療(GKRS)についての,多施設(5カ国?5施設)・後方視的研究だが,その割に症例数が39例と少なく,治療成績も過去の報告と大差はない.照射線量と発作転帰には相関はなかったという.一方で観察期間が長い方が体積減少が得られ,発作転帰もよいとしているものの(この時だけなぜかEngel I+II+III vs IVで比較されている点は要注意),体積減少と発作転帰の直接的関係は示していない.ROC曲線解析では75.5ヵ月が発作改善のcutoffとしているが,6年以上も待てということであろうか.効果の発現が遅いことに加えて,術後急性期の発作増加もGKRSの特徴だが,本研究では8例(20.5%)と,かなり多い印象である.一方,GKRSの利点は安全性であり,本シリーズでも神経学的合併症はなく,変温症が1例,内分泌障害が2例と他の治療法よりは少ないが,これらも既報通りである.
著者らは,GKRSは小さなHHで比較的良好な治療効果が得られるというが,レーザー焼灼術(LITT)や,我々が古くから行っている定位温熱凝固術(SRFTC)には及ばない.だが,本論文ではSRFTCの報告や,LITTで最も症例の多いCurryらの論文(文献11,71例,術後1年で93%の笑い発作消失)は引用していない.またEngel IVとなった症例も“only 10”としているが,実に25%で効果がなかったということであり,これらの事実を差し置いてsignificant improvementと言うのはどうかと思う.
HHの発作消失には,視床下部への付着部での完全離断が重要というのが我々の主張であるが,線量分布の問題からGKRSではこれが難しく,そのためGKRSはLITTやSRFTCの治療成績に及ばないのだと思われる.こうした事実を考慮すれば,1歳未満での発症が多く,発作持続による精神発達や脳機能面での悪化の恐れのある小児のHHに対して,病変の大きさに制限があり,治療効果がそれほど高くなく,かつ即効性に乏しいGKRSが適切な治療法とは思えない.Adjuvant therapyの有用性を語っているが,その必要度も9例(23%)と,我々の報告の25%,Curryらの23%と比べても大差ない.以上を総合的に勘案すると,HHに対するGKRSの適応は成人の小型HHで,合併症のリスクに見合う発作改善のメリットが得がたい症例に限られるのではないかと思われる.(西新潟中央病院 視床下部過誤腫センター 白水洋史)

執筆者: 

有田和徳

関連文献