硬膜動静脈瘻に対するガンマナイフ治療の長期成績:Mayoクリニックの222例

公開日:

2024年10月16日  

Stereotactic radiosurgery for intracranial dural arteriovenous fistulas: patient outcomes and lessons learned over a 3-decade single-center experience

Author:

Peters PA  et al.

Affiliation:

Department of Neurologic Surgery, Mayo Clinic, Rochester, MN, USA

⇒ PubMedで読む[PMID:39213678]

ジャーナル名:J Neurosurg.
発行年月:2024 Aug
巻数:Online ahead of print.
開始ページ:

【背景】

Mayoクリニック脳外科は,過去30年間にガンマナイフを用いて1回照射のSRSで治療した頭蓋内硬膜動静脈瘻(dAVF)222例(年齢中央値60歳)を後方視的に解析し,その効果を検討した.このうち56例(25%)はSRSのみで治療し,166例(75%)は症状の重篤さや脳皮質静脈への還流(CVD)のため塞栓術を併用した.初発症状は拍動性雑音55%,視機能異常・結膜充血21%,頭痛10%,頭蓋内出血5%であった.dAVFの部位は,横あるいはS状静脈洞44%,海綿静脈洞24%,頚静脈球9%,静脈洞交会5%であった.CVDは28%,静脈拡張は5%で認められた.治療体積中央値は7.6 cm3.

【結論】

辺縁線量中央値は18 Gyであった.臨床的追跡期間中央値は31ヵ月.治療後の血管画像追跡が得られた147例では,110例(75%)でdAVFの閉塞が得られていた.dAVFの閉塞までの期間中央値は37ヵ月.多変量解析では,部位別では海綿静脈洞dAVFが,dAVF閉塞と独立相関していた.海綿静脈洞以外では,CVDの不在が閉塞の予測因子であった.臨床的な経過観察終了時までに86%(160/185)で初発症状が消失した.SRS治療関連合併症は12例(5.4%,血管撮影時一過性合併症2例,塞栓症3例,SRS後出血1例,遅発性静脈洞閉塞症1例,放射線誘発腫瘍2例,慢性被包化拡張性血腫3例)で認められた.

【評価】

頭蓋内硬膜動静脈瘻(dAVF)に対する管理・治療の方法には,経過観察,塞栓術,定位手術的照射(SRS),手術などがあり,術者や施設の好みによって,その選択が大きく異なっている(文献1,2,3).14施設が参加した多施設研究(CONDOR研究,1,077例)は2021年にその結果が発表されたが,選択された治療法は,塞栓術(55%),手術(10%),定位手術的照射(3%),集学的治療(17%)の頻度であった(文献4).
本稿は,Mayoクリニックで過去30年間にガンマナイフを用いたSRSが行われたdAVF222例の後方視的解析である.タイプ別内訳は,BordenタイプではI(72%),II(20%),III(8%),CognardタイプではI(44%),IIa(27%),IIb(5%),IIa+b(15%),III(4%),IV(5%)であった.すなわち,SRSの対象となった患者の72%がlow grade(BordenタイプI,Cognardタイプ IかIIa)であった.また75%では,SRSに加えて塞栓術が行われていた.その結果,およそ3年間の追跡期間中に75%でdAVFの閉塞,86%で初発症状の消失が得られたという.この結果はdAVFに対するSRSに関する最近のメタアナリシスや多施設共同研究の結果とほぼ一致している(文献5,6).
本研究シリーズではSRS後の出血や合併症は12例(5.4%)で認められたが,初発症状が頭痛,拍動性雑音,眼症状のような非アグレッシブなdAVFに限れば,このような合併症の発生はなかった.一方,初発症状が出血関連や神経脱落症状といったアグレッシブなdAVFではSRS後の出血は6.8%,何らかの合併症の発生は8.2%であった.著者らはこの結果を受けて,low gradeのdAVFのみならず,脳皮質静脈への還流(CVD)はあるが出血や神経脱落症状を伴わないdAVFに対しても,SRSは有用な治療法として考慮されて良いと述べている.気になるのは,放射線誘発腫瘍が2例(0.9%)で認められたことである.1例は膠芽腫でSRS後123ヵ月目,1例は髄膜腫(WHOグレード1)でSRS後160ヵ月目に診断されている.また,慢性被包化拡張性血腫(chronic encapsulated expanding hematoma,CEEH)が3例(1.4%)で発生しているが,その発生はSRS後,45,136,217ヵ月であった.SRS後のCEEHの発生は脳AVMに対するSRS後でも長期経過後に発生することが知られている(文献7,8).
これらのSRS後の遅発性合併症の発生は,dAVFに対するSRS後の患者では10年を超える長期の画像追跡が必要であることを示している.

執筆者: 

有田和徳

関連文献