フローダイバージョンの時代における脳動脈瘤に対するバイパス手術の意義:ワシントン大学における203例の経験

公開日:

2024年11月16日  

最終更新日:

2024年11月17日

Current Indications, Trends, and Long-Term Results of 233 Bypasses to Treat Complex Intracranial Aneurysms: A Location-Specific Analysis

Author:

Sekhar LN  et al.

Affiliation:

Department of Neurological Surgery, University of Washington, Seattle, Washington, USA

⇒ PubMedで読む[PMID:38984833]

ジャーナル名:Neurosurgery.
発行年月:2024 Jul
巻数:Online ahead of print.
開始ページ:

【背景】

フローダイバージョン(FD)の普及に伴い,脳動脈瘤に対するバイパス手術は減少していると思われる.
本研究は,FD時代におけるバイパス手術の適応,手技,長期成績を明らかにしたものである.
対象は2005年以降にワシントン大学でSekhar LNが実施した脳動脈瘤に対する233件のバイパス手術(203例,平均年齢50歳)である.35%が破裂動脈瘤,20%が後方循環動脈瘤,22%が径21 mm以上で,30%は先行治療の失敗例であった.紡錘状動脈瘤は30%,動脈瘤の頚部あるいはサックから主要な動脈が分岐しているものが26%であった.73%が頭蓋外-頭蓋内バイパス,27%が頭蓋内バイパスであった.

【結論】

橈骨動脈か伏在静脈を用いたハイフローバイパスは69%で,浅側頭動脈を用いたのは5.6%のみであった.
動脈瘤閉塞率は手術直後で89%,最終追跡時(平均追跡期間2年)で96%であった.バイパスの開存率は,手術直後で95%,最終追跡時で92%であった.動脈瘤再発は2%,術後3ヵ月目の機能予後良好(mRS:0-2)は81%,死亡は5%であった.20%を占める後方循環系動脈瘤では動脈瘤の閉塞率が低く,術後脳梗塞や死亡の頻度が有意に高かった(p =.035).特に脳底動脈瘤は転帰不良であった.
バイパス手術の数は経年的に減少したが,血管内手術を含む先行治療が失敗した症例の割合は増えた(20%→約40%).

【評価】

本研究は,過去最大の233件の脳動脈瘤に対するバイパス手術を対象にした後方視的臨床研究である.特筆すべきは,対象期間である2005年から2022年が,バイパス手術と治療対象を同じくするFDが米国において導入され,普及する時期であったことである.
本シリーズにおける動脈瘤閉塞率は手術後3ヵ月で95%であり,術後3ヵ月目の機能予後良好(mRS:0-2)は81%であった.この成績はFDのPUFS研究(2017),SCENT研究(2019),FIAT研究(カナダ,2022)より優れている(文献1-4).これは,何よりも,本論文の筆頭著者Sekhar LNの卓抜した技量によるところが大きい.しかしながら,そのような術者がどこにでも居るわけではなく,近年はバイパスの適応となるような脳動脈瘤の大部分がFDで治療されるようになっているものと思われる.そのことが,研究対象であるワシントン大学における脳動脈瘤に対するバイパス手術数の経年的な減少に反映されている可能性が高い.一方,複雑な形状をした動脈瘤ではFDやコイルによる治療は困難であり,結果として,著者らの施設に先行治療失敗例として紹介されるケースも増えているのであろう.
なお本シリーズでも,過去の報告と同様に(文献5,6),後方循環,特に脳底動脈動脈瘤では治療成績が悪く,バイパス手術後の動脈瘤内血流残存は33%,死亡率20%と高い.
著者らは,本稿の最後に,FD時代における脳動脈瘤に対するバイパス手術の適応として,①若い患者の紡錘状でFDに不向きな形状の動脈瘤や,重要な動脈が動脈瘤頚から分岐するもの,
,②動脈瘤のサックから重要な動脈が分岐するもの,③破裂した解離性動脈瘤,④クリッピングで母動脈の狭窄や閉塞を来したものなどを上げている.
しかしこれらは,本論文の筆頭著者の信念を代弁しているだけかも知れない.やはり,脳動脈瘤の部位,大きさ,形状,重要な分岐動脈の有無などの条件をそろえた前向き比較試験が必要であるが,今やそれが困難であるとしても,傾向スコアマッチングやIPTWなどの手法を用いた後方視的な研究で,できるだけ公平な両治療法の比較が望まれる.

執筆者: 

有田和徳