21世紀における脊索腫の治療と予後:オンタリオ癌登録の208例

公開日:

2024年11月16日  

最終更新日:

2024年11月17日

Chordoma incidence, treatment, and survival in the 21st century: a population-based Ontario cohort study

Author:

Shakil H  et al.

Affiliation:

Department of Surgery, Division of Neurosurgery, University of Toronto, Ontario, Canada

⇒ PubMedで読む[PMID:39423422]

ジャーナル名:J Neurosurg.
発行年月:2024 Oct
巻数:Online ahead of print.
開始ページ:

【背景】

脊索腫は,一千万人あたりの年間発生数が1.8-8.4人という極めて稀な腫瘍であり(文献1-3),住民ベースでの頻度や病態は明らかではない.トロント大学脳外科のチームはオンタリオ州癌登録に2003年以降の17年間に登録された脊索腫208例を解析し,21世紀における本腫瘍の住民ベースでの臨床像を明らかにした.この17年間における年齢標準化発生率は12.04/1千万人・年であった.この期間内では年間発生率に変動はなかった.208例の発生部位別内訳は,頭蓋底部97例,可動性脊椎(C1-L5)37例,仙腸骨65例であった.

【結論】

この期間内で,放射線照射や化学療法をうけた患者は年間オッズ8%の割合で増加した(p =.036).
全体でオープン・サージャリーを受けた患者は年間オッズ14%の割合で減少した(p <.001).頭蓋底部脊索腫に対して内視鏡下手術を受けた患者は年間オッズ38%の割合で増加し,開頭手術は年間オッズ41%の割合で減少した(ともにp <.001).
全症例の診断後のOSの中央値は11.7年,5年:0.74,10年:0.58,15年:0.48であった.診断の年,発生部位,頭蓋底か可動性脊椎であるかは患者死亡のリスクと相関はなかった(p =.126,p =.712,p =.518).

【評価】

本研究はカナダ全体の癌治療患者の1/3をカバーしているオンタリオ州(人口1,422万人)の癌登録を基にした,脊索腫に関する住民ベース研究である.この研究によれば,2003年以降に診断された脊索腫患者では,年ごとにオープン・サージャリーは減少し,特に頭蓋底脊索腫では,開頭手術は減少し,内視鏡手術が増加していた.最近の内視鏡手術の普及を考慮すれば当然の結果と言えよう.
また,この期間内で,放射線照射や化学療法を受けた患者が年間オッズ8%の割合で増加していたのは,近年のSRS,IMRT,VMATなどの高精度の放射線照射法の導入によるのであろう.この調査期間中オンタリオ州には未だなかった陽子線や重粒子線施設ができれば(文献4,5)この流れはさらに加速するはずである.
このシリーズのOSは中央値11.7年で,米国のSEER(1973-2009年)の7.7年と比較すれば大幅に改善している(文献6).この理由として,過去20年で,そもそも一般人口の生命予後が延びてきたこと,画像診断技術の向上によって腫瘍の早期発見が可能になったこと,治療法の改善などを著者らが挙げているのは当然であろう.興味深いのは,著者らが,このオンタリオのシリーズには,組織学的にも時として区別が困難だが予後良好である軟骨肉腫(chondrosarcoma)(文献7,8)が含まれていた可能性を挙げていることである.謙虚な自己分析である.将来,より精緻な組織学的あるいは分子遺伝学的な診断に基づくデータが公開されることに期待したい.
なお,脊索腫の発生部位と生存との関係については,仙骨部に発生したものは予後不良との報告があるが(文献9),本シリーズでは相関はなかったとのことである.

執筆者: 

有田和徳