何らかの頭痛を有する女性は大脳白質の高信号病変が大きい:ドイツ・ユーリッヒ1000BRAIN画像データベースから

公開日:

2025年1月4日  

Migraine or any headaches and white matter hyperintensities and their progression in women and men

Author:

Schramm SH  et al.

Affiliation:

Institute for Medical Informatics, Biometry and Epidemiology (IMIBE), University Hospital Essen, Essen, Germany

⇒ PubMedで読む[PMID:38745272]

ジャーナル名:J Headache Pain.
発行年月:2024 May
巻数:25(1)
開始ページ:78

【背景】

片頭痛とMRI上の大脳白質のT2高信号病変(WMH)の相関,またその経年的な進行に関してはいくつかの報告があるが(文献1,2),必ずしも定説となっているわけではない.本研究は,ドイツのユーリッヒ研究センターの1000BRAIN脳画像データベースに基づく研究である.前兆を伴う典型的片頭痛の患者,前兆を伴わない片頭痛の患者,片頭痛でない頭痛の患者,頭痛が全くない研究参加者,併せて1,062例(平均年齢69.0±13.0歳[18-84])におけるWMHを評価した.初回測定時,女性参加者全体に比べて,男性参加者全体のWMHの体積は大きかった(4,912 vs 4,005 mm3).

【結論】

初回測定時,男女とも片頭痛の有無とWMHの体積に相関はなかった.片頭痛の有無とFazekasのWMHスコアとの関係もなかった.
しかし,女性では,何らかの頭痛を有する患者は頭痛のない研究参加者よりもWMH体積は有意に大きかった(OR:1.23,95%CI:1.04-1.45).
一方男性では,頭痛の有無とWMH体積に相関はなかった.
418例では,初回検査から平均3.7±0.7年後にWMHが再度評価された.初回測定時と比較したWMHの増大率は女性参加者全体では男性参加者全体よりも大きかった.しかし,頭痛あるいは片頭痛の有無と経時的なWMHの増大には男女とも相関が認められなかった.

【評価】

2013年の19論文のメタアナリシスでは,対照と比較して,MRI上の大脳白質T2高信号病変(WMH)が認められる頻度は,前兆を伴う片頭痛を有する患者では1.68倍(p =.03),前兆を伴わない片頭痛を伴う患者では1.34倍(p =.08)であることが報告されている(文献3).一方,2018年に発表されたノルウェーの住民ベース研究(HUNT MRI)では,緊張型頭痛を有する患者では進行性のWMH(Fazekasの白質病変スケール≥2)が多いが(OR:2.46,95%CI:1.44-4.20),片頭痛や分類不能の頭痛とWMHの相関はないことが示されている(文献4).かたや,2014年に発表されたThe Northern Manhattan Studyでは,前兆の有無にかかわらず片頭痛とWMH体積には相関がないことが報告されている(文献5).
本研究は,ドイツのユーリッヒ研究センターの1000BRAIN脳画像データベースに基づく研究である.これによれば,女性では,何らかの頭痛を有する患者は頭痛のない研究参加者よりもWMH体積は有意に大きかった.一方,男性では,頭痛の有無とWMH体積に相関はなかった.また,片頭痛の有無とWMH病変の体積,あるいはFazekasのWMHスコアに相関はなく,経時的なWMHの増大とも関係が認められないことが明らかになった.
脳の小血管周囲三叉神経終末からのCGRP分泌を原因とする片頭痛が,脳微小循環に与える影響,その結果としてのWMH出現は容易に想像できるが(文献6,7),これらの報告を読む限り,頭痛(片頭痛あるいは緊張性頭痛)とWMHの相関はあまり強くはなさそうである.しかし,従来の研究対象では,WMHがほぼ普遍的に認められる高齢者の割合が高いことが,解析結果に影響を与えている可能性は否定できない.今後,若年者を対象とした大規模な研究によって,頭痛と大脳白質病変との相関の有無,有るとすればその背景因子,さらに脳機能に与える影響などが解明されることを期待したい.

執筆者: 

有田和徳