公開日:
2025年1月4日Benign Natural Progression of Small Cavernous Carotid Aneurysms Suggests Limited Clinical Utility of Serial Longitudinal Follow-up
Author:
Jha R et al.Affiliation:
Department of Neurosurgery, Brigham and Women's Hospital, Boston, MA, USAジャーナル名: | Neurosurgery. |
---|---|
発行年月: | 2024 Dec |
巻数: | 95(6) |
開始ページ: | 1441 |
【背景】
様々な理由で撮像したMRAで,小さな内頚動脈海綿静脈洞部の未破裂動脈瘤(CCA)が偶然に発見されることは多いが,その自然史はよくわかっていない.本研究は,ブリガム&ウィメンズ病院で,2007年から2021年に発見された未破裂CCA157例(平均57歳,女性:85.4%)の長期観察の結果である.動脈瘤総数は174個で,11.5%が紡錘状,88.5%が嚢状,長径は平均4.6±4.2 mmで短経は平均3.3±3.0 mmであった.動脈瘤の局在は前方膝部39.7%,水平部45.4%,後方膝部14.4%,垂直部0.5%であった.37個は眼症状や顔面知覚異常の精査で,120個は偶然に発見された.
【結論】
6個の動脈瘤は発見時に治療された(2個:コイリング,4個パイプライン).残りの168個の動脈瘤が平均7.1±4.8年間経過観察された.165個(98.2%)はその間,増大しなかった.3個(平均長径7.2 mm)だけが平均6.2年後に,長径が平均1.6 mm増大した.このうち1例で,複視と眼瞼下垂の悪化を訴えた.この3例を含めた全168個の動脈瘤は経過観察期間内に破裂せず,治療も要さなかった.
多変量解析では,性・年齢・人種,高血圧,喫煙などの背景因子は増大と関係なかった.動脈瘤の長径はオッズ比1.4で増大と相関した(p =.001).
未破裂CCAは,大きなものでなければ長期追跡は不要である.
【評価】
内頚動脈海綿静脈洞部の動脈瘤(CCA)は,全脳動脈瘤の1-9%を占めるが(文献1),硬膜外に存在するため,破裂しても内頚動脈海綿静脈洞漏(CCF),鼻出血,血腫による占拠性症状を呈するものが殆どで(文献1,2),くも膜下出血のリスクは少ない(文献2,3,4).しかし,CCAの自然史は十分には判っておらず,増大のリスクを考慮して定期的な観察が行われることも多い.
この研究は単施設で経験した168個のCCAの自然史を明らかにしたものである.その結果,実に165個(98.2%)は平均7.1±4.8(SD)年間の追跡期間中に増大がなかったという結果が得られている.しかも増大した3個のCCAの平均径は7.2 mm,増大しなかったCCAの平均径は5.1 mmということなので,比較的小型のCCAでは経過観察しても全く増大しないということになる.
日本では頭部MRIにかかる医療費は16,000円,患者支払額は3割負担で4,800円,1割負担で1,600円くらいであるが,米国では,1回の頭部MRIの費用は$2,000-3,000(30-45万円)であり,医療保険加入者でも自己負担額が$500くらいとなる.特に米国で,不必要な検査に対して厳しい目が向けられるのは当然ではあるが,人口の高齢化と共に国民医療費が急増している日本でも事情は同様である.
こうしたことを考慮すれば,比較的小型,例えば5 mm以下の未破裂CAAは発見して半年後くらいに1回,MRAで経過観察して増大がなければ,追跡を打ち切っても良いのかも知れない.
執筆者:
有田和徳関連文献
- 1) Stiebel-Kalish H, et al. Presentation, natural history, and management of carotid cavernous aneurysms. Neurosurgery. 57(5):850-857, 2005
- 2) de Vasconcellos LP, et al. Presentation and treatment of carotid cavernous aneurysms. Arq Neuropsiquiatr. 66(2A): 189-193, 2008
- 3) Ghorbani M, et al. Orbital compartment syndrome secondary to direct carotid cavernous fistula after carotid cavernous aneurysm rupture: case report and review of literature. World Neurosurg. 133:409-412, 2020
- 4) Kupersmith MJ, et al. Cavernous carotid aneurysms rarely cause subarachnoid hemorrhage or major neurologic morbidity. J Stroke Cerebrovasc Dis. 11(1): 9-14, 2002
参考サマリー
- 1) 未破裂動脈瘤の破裂後の形態の不整化は,破裂の予測因子となり得ない−−−かも
- 2) 治療された未破裂動脈瘤のサイズの変遷:1987-2021年の35,150例
- 3) 家族性の未破裂動脈瘤の破裂率:8コホート9,511症例のメタアナリシス
- 4) 未破裂動脈瘤が経過観察中に増大したらどのくらい危ないのか:トリプルSモデルの提案
- 5) 未破裂動脈瘤の破裂リスクは低く見積もられていないか:破裂動脈瘤に破裂予測スコア(PHASES, UIATS)をあてはめて判ったこと
- 6) 小型(3~4 mm)の未破裂動脈瘤の破裂率とリスク因子:UCAS Japanより
- 7) 未破裂動脈瘤の治療に伴う合併症率と致命率:10万例のメタ解析
- 8) 経過観察中の未破裂脳動脈瘤をなぜ治療することになったのか:スイス・アーラウ州立病院の経験
- 9) 足関節上腕血圧比(ABI)が低い成人では正常者に比較して脳動脈瘤の発生率が9倍高い:フィンランド・トゥルク大学
- 10) 成人頭蓋咽頭腫には内頚動脈の未破裂脳動脈瘤が多い:頻度,リスク因子,治療戦略