中大脳動脈の中口径脳動脈閉塞(MeVO)に対する血栓回収の効果:オスロ大学前向き登録研究(OSCAR)から:80歳以上は厳しいかも

公開日:

2025年1月17日  

最終更新日:

2025年1月17日

Clinical outcome after thrombectomy in patients with MeVO stroke: importance of clinical and technical factors

Author:

Nome T  et al.

Affiliation:

Division of Radiology and Nuclear Medicine, Oslo University Hospital, Oslo, Norway

⇒ PubMedで読む[PMID:37847291]

ジャーナル名:J Neurol.
発行年月:2024 Feb
巻数:271(2)
開始ページ:877

【背景】

頭蓋内大血管の急性閉塞(LVO)に対する血管内血栓回収(EVT)は,もはや一般診療となっているが,中間径動脈(M2/3,A2/3,P2/3)の急性閉塞(MeVO)に対するEVTのエビデンスは十分ではない.本研究はオスロ大学を拠点機関とする急性期頭蓋内動脈に対するEVTの前向き登録研究OSCARに基づく後ろ向き解析である.2017年からの5年間に956例のEVTが登録され,そのうち159例は前方循環のMeVOで,144例は中大脳動脈のMeVOであった.平均年齢は70歳で,27.8%は80歳以上であった.ASPECTS中央値は8で,59%が8以上であった.

【結論】

51%が経静脈的tPA投与を受けた.再開通(mTICI 2b以上)は123例(84%),発症90日後mRS ≤2の機能予後良好は84例(62%)で達成された.死亡は25例(17.4%)であった.何らかの頭蓋内出血は46.5%,症候性頭蓋内出血は2例(1.4%)で生じた.ステント・リトリーバーの2パス以上は,くも膜下出血,mTICI不良,機能予後不良と相関した.女性患者では男性と比較して,発症から再開通までの時間が62分間長かったが,機能予後とは相関しなかった.
80歳以上では機能予後良好は80歳未満の約半数であった(35% vs 67%).80歳以上は機能予後不良ならびに死亡と有意に相関していた.

【評価】

頭蓋内の中間径動脈(M2/3,A2/3,P2/3)の急性閉塞(MeVO)は,急性の視認可能な動脈閉塞の25–40%を占める(文献1).MeVOに対する血管内血栓回収(EVT)の有用性はHERMES研究のサブグループ解析でも示唆されているが(文献2),LVOに対するEVTと比較すればエビデンスに乏しい.OSCAR研究はオスロ大学を拠点とする急性期頭蓋内動脈閉塞に対するEVTの前向き登録であるが,本稿の研究は,その中から中大脳動脈のMeVOに対するEVTを抽出して臨床的な転帰を明らかにしたものである.98%が一次脳卒中センターから転送された症例である.約半数がtPA投与を受けていた.
EVTの結果,84%で再開通(mTICI 2b以上)が,62%で90日目機能予後良好(mRS ≤2)が得られた.リトリーバーの初回パスで終了したものは転帰は良好であったが,2回以上のパスを要したものは,くも膜下出血,mTICI不良,機能予後不良が多かった.
年齢との関係では,80歳以上は機能予後不良ならびに死亡と有意に相関していた(p <.001とp =.037).
興味深いのは,女性患者では男性患者より,発症から再開通までの時間が約1時間長かったことである(347 vs 284分).この理由については,男女間での脳梗塞の臨床的な発現様式の違いなどが示唆されているが(文献3,4),詳細は不明である.
本稿では中大脳動脈MeVOに対するEVTの効果の概略を示しているが,問題はどのようなケースでもEVTの対象になるのか? である.特に80歳以上の高齢者に対する適応は十分に検討されなければならない.
現在,北米ならびに欧州で,MeVOに対する保存的治療(best medical care)vs 保存的治療+EVTのRCT(ESCAPE–MeVO試験,NCT05151172,目標症例数530例)が進行中である(文献5).試験終了は2026年6月である.結果を待ちたい.

執筆者: 

有田和徳