小脳梗塞に対する内減圧(壊死組織の切除)はどこまで行うべきか:ドイツの多施設共同研究から

公開日:

2025年1月17日  

Surgical infarct volume reduction and functional outcomes in patients with ischemic cerebellar stroke: results from a multicentric retrospective study

Author:

Hernandez-Duran S  et al.

Affiliation:

Department of Neurological Surgery, Universitätsmedizin Göttingen, Heidelberg, Germany

⇒ PubMedで読む[PMID:38941630]

ジャーナル名:J Neurosurg.
発行年月:2024 Jun
巻数:141(6)
開始ページ:1681

【背景】

米国心臓協会/脳卒中協会のガイドラインでは,小脳梗塞の中で占拠性効果を呈し,神経症状の悪化を示すものには外減圧手術が推奨されている(文献1).さらに脳梗塞の体積が大きいものでは,梗塞・壊死に陥った組織の切除が必要になることもある(文献2–4).本稿は,ゲッティンゲン大学などドイツの5ヵ所の第三次脳卒中センターで2011年以降に何らかの外科的治療が行われた小脳梗塞91例(平均年齢65歳)の後方視的解析で,梗塞・壊死組織の切除量と機能予後との関係を検討したものである.平均梗塞体積は45 ccであった.このうち49例には壊死組織切除+頭蓋形成,18例には壊死組織切除+外減圧(頭蓋形成なし),24例には外減圧のみが施行された.

【結論】

3群間で入院時NIHSS,手術前GCS,梗塞巣の体積に差はなかった.
頭蓋形成の有無にかかわらず,壊死組織切除を行った患者群では,退院時と3ヵ月後の機能予後は良好(mRS <3)であった(OR 16.62,p =.008とOR 24.1,p =.003).
手術後に残った梗塞組織の体積は機能予後と相関し(AUC =0.737,p <.001),17 cm3以下は感度77%,特異度68%で3ヵ月後の機能予後良好を予測した.
梗塞組織切除体積率も機能予後と相関し(AUC =0.753,p <.001),梗塞体積の50%以上の切除はOR:7.7で機能予後良好を予測した(p <.001).

【評価】

本研究グループは,本論文に先行する論文(JAMA Neurology 2024)において,小脳梗塞のうち梗塞体積≧35 mLの症例では,外減圧手術が発症1年後の良好な機能予後と相関することを報告している(文献5).しかし,数多くの症例の中には外減圧のみでは救命や神経症候の悪化を防ぐことができないケースがあり,そのようなケースでは,内減圧(梗塞・壊死に陥った組織の切除)を余儀なくされる.本稿は,小脳梗塞に対する梗塞・壊死組織切除術の有効性,ならびに梗塞・壊死組織切除の程度と機能予後との関係を検討したものである.対象症例全体の小脳梗塞巣の体積は平均45 ccであったというから,小脳半球の体積(約66 ml,文献6)の平均7割が梗塞に陥っていたということになる.また,入院時NIHSSが平均10点,GCSが平均10点とのことで,比較的重症の小脳梗塞であったことが窺える.対象症例全体では,18.7%で経静脈的血栓溶解治療(tPA)が,13.2%で血管内血栓回収術(EVT)が行われている.
対象症例91例中,壊死組織切除は67例(このうち18例は頭蓋形成なし=外減圧)で実施され,外減圧のみは24例で実施された.
その結果,壊死組織切除は機能予後良好と相関していた.また,壊死組織の切除率が高いもの(≥50%),残存壊死組織体積が小さいもの(≤17 cm3)は,機能予後が良好であった.
この結果は,少なくとも梗塞体積が小脳半球体積の過半を占めるような重症の小脳梗塞では,充分な内減圧を行うべきであることを示唆している.壊死組織の十分な切除によって,周囲の健常組織,特に脳幹への圧迫を解除するという効果が期待できる.それに加えて,壊死組織を切除することによる起炎物質(文献7,8)の除去という効果も期待できるかも知れない.
今後,ある程度以上の大きさを有する重症の小脳梗塞に対する①外減圧のみ,②外減圧+壊死組織切除,③壊死組織切除のみ を比較した前向き試験で,適切な手術療法を明確にする必要性がある.

執筆者: 

有田和徳

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