けいれんを伴う悪性神経膠腫は予後が良いか?:クリーブランド・クリニックの950例から

公開日:

2025年1月29日  

Tumor-related epilepsy in high-grade glioma: a large series survival analysis

Author:

Rilinger RG  et al.

Affiliation:

Cleveland Clinic Lerner College of Medicine, Case Western Reserve University, Cleveland, USA

⇒ PubMedで読む[PMID:39102118]

ジャーナル名:J Neurooncol.
発行年月:2024 Oct
巻数:170(1)
開始ページ:153

【背景】

けいれんは悪性神経膠腫(HGG)を有する患者の約半数で認められるありふれた症状であるが(文献1,2),予後に及ぼす影響は充分には判っていない.クリーブランド・クリニック脳外科は,1999年以降の13年間に治療したHGG 950例(平均61歳)を対象にけいれんと予後との関係を解析した.IDH1-ワイルド・タイプは563例であった.追跡期間は平均9.1ヵ月.414例(43.6%)は全経過を通じて最低1回のけいれんがあり(全けいれん患者),261例ではHGGの診断前にけいれんがあり(早期けいれん群),153例はHGG診断後にけいれんが初発した(後期けいれん群).残りの535例では全経過でけいれんはなかった.

【結論】

HGG患者におけるてんかんは全死亡率と負の相関があった(全けいれん患者のHR:0.78,p =.002,早期けいれん群のHR:0.81,p =.017,後期けいれん群のHR:0.74,p =0.005).後期けいれん群では早期けいれん群と比較して,けいれんの部分コントロール(6ヵ月以上のけいれんなし期間後のけいれん出現)率,完全コントロール(6ヵ月以上のけいれんなし)率が高かった(OR:0.25と0.30,いずれもp <.001).
IDH1-ワイルドの563例に限ると,HGG患者におけるてんかんは全死亡率と負の相関が窺えたが有意ではなかった(全けいれん患者のHR:0.83,p =.075).

【評価】

従来,けいれんが初発症状であったHGG患者では全生存率(OS)が高いことが報告されている(文献3,4,5).本研究はクリーブランド・クリニック単一施設における950症例の解析であるが,全経過を通じてけいれんがあった患者では,けいれんがなかった患者と比べて生命予後が良好なことを示している.HGG診断前にけいれんがあった患者群では,けいれんがあったために早期診断に至ったことも考えられるが(lead-time bias)(文献6,7),本研究のシリーズではHGG診断後にけいれんが初発した患者群でも非けいれん群と比べて生命予後が良好であった.さらに全経過を通じてけいれんがあった患者群,あるいはHGG診断後にけいれんが初発した患者群ではPFSも良好であった(HR:0.84,p =.020とHR:0.81,p =.033).
けいれんを伴うHGG患者でOSが長いことの背景の一つとして,著者らは,抗けいれん剤が有するグリオーマ細胞に対する殺細胞効果を示唆している(文献5,8,9,10).本研究の対象患者でも,けいれんコントロールが6ヵ月以上可能であった患者ではコントロールできなかった患者に比べてOSが長かったという.
一方,けいれんで発症することが多いIDH変異型HGGの“混入”による交絡の可能性は高そうである(文献3).本研究のシリーズでも,IDH1-ワイルドのHGG 563例に限ると,てんかんと全死亡率の負の相関が窺えたが,有意ではなかった(p =.075).著者らはこれを,統計パワーの不足=症例数が少ないことに帰しており,IDH1-ワイルドのHGGにおいてもてんかんはOSと相関する可能性が高いと主張している.
結局本稿では,何故けいれんの存在がHGG患者の良好な生命予後と関係するのかは明らかになっていない.
この点に関しては,今後,IDH1-ワイルドのHGGに限定しながら,より多くの患者集団を対象に,分子遺伝学的サブタイプ,発生部位(eloquent areaとの位置関係),腫瘍摘出率,治療方法などを調整して検討されなければならない.

執筆者: 

有田和徳

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