緑茶をたくさん飲む高齢者では大脳白質病変の総体積が小さい:日本における住民レベル研究(JPSC-AD)から

公開日:

2025年1月29日  

Green tea consumption and cerebral white matter lesions in community-dwelling older adults without dementia

Author:

Shibata S  et al.

Affiliation:

Department of Neurology, Kanazawa University Graduate School of Medical Sciences, Kanazawa, Japan

⇒ PubMedで読む[PMID:39774601]

ジャーナル名:NPJ Sci Food.
発行年月:2025 Jan
巻数:9(1)
開始ページ:2

【背景】

脳ドック等の脳MRI検査で発見される大脳白質病変は慢性の脳微小循環障害を反映していると考えられており,加齢,高血圧,脂質代謝異常,耐糖能異常などとの関係が示唆され,認知症のリスク因子の可能性がある(文献1,2,3,4).一方,いくつかの疫学研究は,コーヒーや茶の飲用が高齢者の認知機能に好影響を与えることも示唆しているが(文献5,6,7),茶の種類(緑茶か紅茶か)を分けて検討した研究は少ない.
本研究は日本国内8地域の高齢者(>65歳)からなる大規模認知症コホート研究(JPSC-AD)の登録患者を対象とした,コーヒーや茶の飲用量と大脳白質病変や脳萎縮との関係を解析した住民レベル研究である.

【結論】

対象は,2016年から2018年までに頭部MRIでのスクリーニングが行われた65歳以上の高齢者のうち認知症患者を除いた8,766例で,92%が緑茶を,82%がコーヒーを,19%が紅茶を習慣的に飲用していた.被検者の性・年齢・居住地域・教育レベルを調整して解析し(モデル1),加えて糖尿病・高血圧・Apoε4アレル・BMIなど多数の因子を調整して解析した(モデル2).
モデル2の多変量解析では,緑茶の消費量(mL/日)とMRI上の白質病変体積は逆相関したが(p =.007),緑茶の消費量と海馬体積や全脳体積との相関はなかった.
コーヒーの消費量と白質病変体積,海馬体積,全脳体積には相関がなかった.

【評価】

脳の慢性微小循環障害を反映するとされる大脳白質病変(脳室周囲白質病変:PVH,ならびに深部皮質下白質病変:DSWMH)の程度と,習慣的飲用物やその量との関係は,過去にもいくつか報告されている.本稿は日本における大規模な住民レベルの認知症研究(JPSC-AD)コホート(11,410名)から抽出した8,766名を対象とした研究である.その結果,年齢・性・教育歴・合併症・Apoε4アレル多形など想像し得るあらゆる交絡因子を調整したモデルにおいて,緑茶の消費量と大脳白質病変体積は逆相関した.一方,コーヒーではそのような関係は認められなかった.
では,緑茶の飲用がなぜ大脳白質病変を抑制しているのか.これについて著者らは,緑茶による血圧低下作用(文献8),血小板凝集抑制作用(文献9),緑茶に含まれるepigallocatechin gallate(没食子酸[もっしょくしさん]エピガロカテキン)が有する抗酸化作用や抗炎症作用(文献10)の可能性を取り上げている.
本研究の結果をもって,一日2-3杯の緑茶の飲用が認知症の予防に役立つ!と言って良いのかは,本研究コホートの長期追跡の結果を待たなければならない.また,本研究対象では紅茶の飲用者が少なかったので,紅茶の消費量と大脳白質病変体積との関係は不明である.
一方,今や日本人でも,緑茶を自ら湯を沸かして茶葉から淹れる人口は少ないと思われるが,市販のペットボトル緑茶にも大脳白質病変抑制作用があるのか,筋金入りのコーヒー党が高齢となり,節を曲げて緑茶党になってもその効果があるのかも知りたいところである.

執筆者: 

有田和徳

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