急性期の中間径脳動脈閉塞(MeVO)に対する血栓回収は有用性を示さず:世界58施設のRCT(ESCAPE-MeVO)

公開日:

2025年2月24日  

最終更新日:

2025年2月25日

Endovascular Treatment of Stroke Due to Medium-Vessel Occlusion

Author:

Goyal M  et al.

Affiliation:

Department of Radiology, University of Calgary Cumming School of Medicine, Calgary, AB, Canada

⇒ PubMedで読む[PMID:39908448]

ジャーナル名:N Engl J Med.
発行年月:2025 Feb
巻数:Online ahead of print.
開始ページ:

【背景】

頭蓋内大血管の急性閉塞(LVO)に対する血管内血栓回収(EVT)の有用性についてはESCAPE試験などで繰り返し証明されているが(文献1-3),中間径動脈(M2/3,A2/3,P2/3)の急性閉塞(MeVO)に対するEVTのエビデンスは十分ではない.本ESCAPE-MeVO試験はMeVOに対するEVTについての北米・欧州を中心とした58施設でのRCTである.最終健常確認から12時間以内に着院した530例(年齢中央値75歳)を標準治療群275例とEVT群255例にランダムに割り付けた.大部分のEVT患者(85%)が中大脳動脈領域のMeVOであった(M2:50%,M3:36%).

【結論】

EVT群では発症からランダム化までは中央値270分であった.経静脈的血栓溶解剤はEVT群の56.5%,標準治療群の60.2%で投与された.
一次エンドポイントの発症後90日目のmRS 0-1はEVT群で41.6%,標準治療群で43.1%で差はなかった(調整率比0.95;95%CI 0.79-1.15;p =.61).
発症後90日目までの死亡率はEVT群で13.3%,標準治療群で8.4%であった(調整率比1.82;95%CI 1.06-3.12).
症候性頭蓋内出血はEVT群で5.4%,標準治療群で2.2%に発生した.
主要な治療関連合併症はEVT群のみで5例に生じた.

【評価】

長く待たれた急性期MeVOに対するEVTに関するRCT(ESCAPE-MeVO)の結果であるが,一次エンドポイントである発症後90日目のmRS 0-1ではEVTの優位性を示すことはできなかった(41.6% vs 43.1%,調整率比0.95;95%CI 0.79-1.15).ちなみに発症後90日目のmRS 0-2でもEVTの優位性を示すことはできていない(54.1% vs 58.8%,調整率比0.92;95%CI 0.80-1.05).一方,90日目死亡率はEVT群で有意に高く(13.3% vs 8.4%),症候性頭蓋内出血の頻度もEVT群では標準治療群の2倍以上であった(5.4% vs 2.2%).
この結果は,HERMES研究のサブグループ(MeVO群)解析やいくつかの非ランダム化試験などで示されてきた急性期MeVOに対するEVTへの期待を覆すものになっている(文献4-6).このESCAPE-MeVO試験は,頭蓋内大血管の急性閉塞(LVO)に対するEVTの有効性を証明したESCAPE試験と同じグループによる試験であるだけに,急性期MeVOに対するEVTはLVOの延長上にはないことを明確に示したことになる.
著者らはこの結果を受けて,急性期MeVOに対するルーチンでの血栓回収治療は支持されないと結論している.その上で,今後血栓回収治療の安全性を向上させる必要性と急性期MeVOの中で血栓回収治療によるベネフィットが大きいグループを明らかにする必要性を述べている.
もしかすると今後,比較的若年者のみ,M3閉塞例を除いたM2閉塞のみ,発症-着院時間が短い症例のみに限定することで,急性期MeVOに対するEVTの有用性が示せるのかも知れないが,なかなか困難な作業のように思われる.

<コメント>
「中間径動脈閉塞に対する血栓回収療法は有効ではなく,死亡率が増加する」.これが本論文の結論である.有望な治療対象の一つとみなされてきたMeVOでなぜ有効性が示されなかったのであろうか? Discussionでは,1) 血管内治療群では重度合併症が多かった,2) EVT群で25%前後で開通が得られなかった,3) 発症から再開通までに359分を要していた,4) CT/MRIから血管撮影までの間に15%が開通しており血管内治療が必要なかった,と記載されている.本研究はステントリトリーバーを1st deviceとして用いることが条件となっていたため,重度の合併症が多かった可能性もある.また,mRSへの影響が小さい領域の血管(ACA, PCAなど)も対象としたことが有効性を示せなかった原因の一つと考えられる.また,MeVOでは,1) 軽症例が多い,2) 自然再開通率が高い,3) 経静脈血栓溶解療法の有効例が多い,の特徴がある.我々はこれらを考慮に入れ,次なるRCTを計画中であり,近位M2閉塞例,経静脈血栓溶解療法の無効/適応外例,脳救済領域の広い症例などを対象とする予定である.これらの条件においても血栓回収療法の有効性が示されなければ,MeVOは治療対象から外れていく可能性もあると考えられる.
(兵庫医科大学脳神経外科 吉村 紳一)

執筆者: 

有田和徳