中間径か末梢動脈閉塞に対する血栓回収は有効性を示さず:欧州11ヵ国55施設のRCT(DISTAL)

公開日:

2025年2月24日  

最終更新日:

2025年2月25日

Endovascular Treatment for Stroke Due to Occlusion of Medium or Distal Vessels

Author:

Psychogios M  et al.

Affiliation:

Department of Diagnostic and Interventional Neuroradiology, University Hospital Basel, Basel, Switzerland

⇒ PubMedで読む[PMID:39908430]

ジャーナル名:N Engl J Med.
発行年月:2025 Feb
巻数:Online ahead of print.
開始ページ:

【背景】

頭蓋内大血管の急性閉塞(LVO)に対する血栓回収(EVT)の有用性については複数のRCTで証明されているが(文献1-3),中間径や末梢の脳動脈の急性閉塞に対するEVTのエビデンスは十分ではない.
本DISTAL試験は中間径か末梢の脳動脈(非優位か同等のM2,M3,M4,A1,A2,A3,P1,P2,P3)の急性閉塞に対するEVTについての欧州11ヵ国55施設でのRCTである.
上記動脈の急性閉塞で最終健常確認からランダム化まで6時間以内か,ランダム化まで6-24時間であるが救済可能な脳組織がある合計543例(年齢中央値77歳)を,薬物療法群272例とEVT群271例に割り付けた.

【結論】

経静脈的血栓溶解剤は65.4%で投与されていた.閉塞部位で最多はM2(44%)で,M3(26.9%),P2(13.4%),P1(5.5%)が続いた.
一次エンドポイントの発症後90日目のmRSの分布は2群間で差はなかった(mRS改善の非調整共通オッズ比0.90;95% CI 0.67–1.22).
発症後90日目のmRS:0-1の頻度もEVT群34.7%,薬物療法群37.5%で差はなかった(治療効果0.88;95% CI 0.61-1.25).
発症後90日目までの死亡率はEVT群15.5%,標準治療群14.0%であった.
症候性頭蓋内出血はEVT群5.9%,薬物療法群2.6%に発生した.

【評価】

本稿と同時にNEJMで公開された,急性期MeVO(中間径脳動脈閉塞)に対するEVTに関するRCT(ESCAPE-MeVO)では,標準治療と比較したEVTの有効性は示せず,発症後90日目死亡率はEVT群で有意に高く(13.3% vs 8.4%),症候性頭蓋内出血の頻度もEVT群では標準治療群の2倍以上であった(5.4% vs 2.2%).
ESCAPE-MeVO試験で対象となった閉塞部位は,M2,M3,A2,A3,P2,P3であったが,本稿のDISTAL試験は,非優位か同等のM2,M3,M4,A1,A2,A3,P1,P2,P3で,優位(太い)のM2は対象から除外され,逆にM4,A1,P1が対象に含まれている.本DISTAL試験でも,一次エンドポイントの発症後90日目のmRSの分布は2群間で差はなかった.また,性,年齢,神経学的重症度,最終健常確認-ランダム化までの時間,閉塞部位毎のサブグループ解析でもEVTの有効性は示せていない.
このように対象に若干の違いはあったとしても脳の中間径あるいは末梢動脈の急性閉塞に対するEVTの有効性はこの2つのRCTの結果で完全に否定されたことになる.また,いずれの試験でもEVT群では頭蓋内出血の頻度が対照群と比較して2倍以上であり,対象症例が増えると有意差となる可能性がある.
本稿の著者らは,この結果を受けて,今後のランダム化試験で,中間径あるいは末梢動脈の急性閉塞に対するEVTによる恩恵の大きな患者を画像情報をもとに明らかにすることや,血栓回収手技や血栓回収機器の改善を図る必要があるとまとめているが,先は長そうである.

<コメント>
本試験ではESCAPE-MeVO試験とは異なり,より末梢のM4,より近位のA1, P1が対象に含まれているが,結論は同様に「中間径・末梢動脈閉塞に対する血栓回収療法は患者の障害や死亡率を低下させなかった」ということになる.本試験においても血管内治療群229例のうち実際に治療が行われたのは27例(84.5%)であり,15.5%はすでに再開通していたと考えられる.また本研究ではステントリトリーバーと吸引カテーテルを併用するCombined methodが多く行われていたが(64.6%),治療後の有効再開通率は71.7%と,従来LVOにおいて報告された数値より低かった.このため,中間径・末梢動脈閉塞において安全かつ有効に再開通が得られる新しいデバイス開発の必要性が述べられている.また画像診断から動脈穿刺までに70分かかっており,これも有効性が示せなかった理由の一つと推察されている.一方,本研究では血管内治療群,内科的治療群ともに55.2%が転帰良好であったが,これは従来の報告よりも低く,転帰を改善するために何らかの方法が必要であると述べられている.今後、本領域に対して血管内治療を行うとすれば,経静脈血栓溶解療法無効/非適応例,重症例,比較的安全に血管内治療が可能な症例に対して,出血などの合併症をできる限り起こさないデバイス・アプローチを選択することがキーワードとなるだろう.(兵庫医科大学脳神経外科 吉村 紳一)

執筆者: 

有田和徳