全脳梁離断術は年齢に関わりなく,てんかん発作の有意義な減少をもたらす:東北大学の41例

公開日:

2025年2月25日  

Complete Corpus Callosotomy Brings Worthwhile Seizure Reduction in Both Pediatric and Adult Patients

Author:

Ukishiro K  et al.

Affiliation:

Department of Epileptology, Tohoku University Graduate School of Medicine, Sendai, Miyagi, Japan

⇒ PubMedで読む[PMID:38953628]

ジャーナル名:Neurosurgery.
発行年月:2025 Feb
巻数:96(2)
開始ページ:410

【背景】

難治性てんかん,特にドロップアタック(転倒発作)を呈するてんかんに対する全脳梁離断は発作頻度の減少をもたらすが,10歳以上では脳梁離断症候群からの回復が遅延しがちであるため,避けられる傾向にあった(文献1-4).
東北大学てんかんセンターは脳梁離断時の年齢が脳梁離断術の効果に与える影響を明らかにするために後方視研究を実施した.
対象は,2009年以降の約10年間で施行された全脳梁離断症例の41例(7例が20歳以上)で,発症時月齢中央値は生後7ヵ月.手術時年齢は1-34歳(中央値は約7.8歳).追跡期間は平均約6年.
24歳男性例で他人の手徴候が術後数ヵ月間現れたが,全例で永続的合併症はなかった.

【結論】

全41例中,術後の全てんかん発作の完全消失は5例,術後の全てんかん発作の減少は >80%:11例,50-80%:5例,<50%:20例であった.全てんかん発作の完全消失は手術時年齢が7歳未満のみで得られ,手術時の低年齢(p =.04),病因不明と相関していた(p =.05).
ただし,有意義な全てんかん発作減少(完全消失か50%以上の減少)が得られるかどうかは手術時年齢と関係はなかった(p =.99).
転倒発作を呈した31例中,術後の転倒発作の完全消失は22例,術後の転倒発作の減少は >80%:5例,<50%:4例であった.転倒発作の完全消失の可能性は手術時の低年齢と相関していたが,20歳以上の患者でも7例中4例で消失していた.

【評価】

従来,難治性てんかんに対する脳梁離断術では,10歳以上の患者では,遷延しがちな手術後脳梁離断症候群を避けるために,全離断ではなく部分離断を選択することが多かった.しかし,2018年に発表されたChanらのメタアナリシスでは,全離断と部分離断で離断症候群の発生頻度に差はなく,けいれんコントロールは全離断の方が良好なことを明らかにしている(文献5).この事実は2023年に発表されたWuらのシステマティックレビューでも支持されている(文献6).また本論文の著者らも2022年に,一期的な脳梁全離断後の離断症候群からの回復過程は早く,年齢による差は少ないことを明らかにしている(文献7).
今回の論文では,全脳梁離断による全てんかん発作や転倒発作の完全消失は手術時の低年齢と相関したが,有意義な全てんかん発作や転倒発作の減少(完全消失か50%以上の減少)が得られるかどうかは手術時の年齢とは関係がないことを明らかにしている.また,患者のADLを大きく阻害する転倒発作の消失は,実に71%(22/31)の患者で認められ,20歳以上の成人でも7例中4例で得られることを示している.
著者らは,本稿の結果と2022年公表の結果(文献7)をもとに,転倒てんかん発作を中心とする難治性てんかん患者に対する全脳梁離断は,単純に年齢を理由に忌避されるべきではないと結論している.ただし,全てのてんかん発作の完全消失は成人では得られないため,それを目標とするのであれば,今後は全脳梁離断+前交連離断(文献8)も課題に上るかも知れないと述べている.

<著者コメント>
本論文は,従来回避されがちであった成人症例を含めた全脳梁離断術の術後転帰を評価した研究である.
成人における全脳梁離断術の適応に疑問を持ち,その有用性を検討した結果,本術式が成人症例においても考慮に値することを示した.一方で,本研究は日本の医療が抱える課題も浮き彫りにしている.本文中の表1に示すてんかん発症年齢を見ると,多くの症例が3歳未満で発症していることがわかる.すなわち,成人症例の多くはより早期に外科的介入が可能であった症例で,より良好な発作転帰が得られたにもかかわらず,手術の判断が遅れた症例が含まれていることを示唆している.
本論文を読む際に留意すべき点として,手術の適応基準と発作症候の記載方法が挙げられる.本研究の対象となった成人症例(15歳以上)は,すべて神経心理検査の実施が困難な症例であった.また,当院では術前のADLを考慮し,大脳半球間の連絡障害(慢性離断症候群)が生じてもADLに大きな影響を及ぼさないと判断される症例のみを全脳梁離断術の適応としている.具体的には,一人で外出可能な成人症例には本術式を施行していない.発作の評価に関しては,全発作転帰と転倒発作転帰に大別した.すなわち本研究では脱力発作,強直発作,てんかん性スパズムといった詳細な発作分類は使用していない.これは,成人症例を含めることで発作症候の厳密な区別が困難となることが多いので,発作開始とともに転倒を示す発作を「転倒発作」として一括して表現したためである.
最後に,脳梁離断術は一般的に認知度が低い手術であるが,本論文がその有用性に関する理解を深める一助となれば幸いである.(東北大学てんかん学 浮城一司)

執筆者: 

有田和徳