T2強調像での腫瘍体積に比べてT1強調像での腫瘍体積が小さなIDH変異型星細胞腫では摘出率が低い

公開日:

2025年2月25日  

The T1/T2 Ratio is Associated With Resectability in Patients With Isocitrate Dehydrogenase-Mutant Astrocytomas Central Nervous System World Health Organization Grades 2 and 3

Author:

Weller J  et al.

Affiliation:

Department of Neurosurgery, LMU UDepartment of Neurosurgery, LMU University Hospital, LMU Munich, München, Germanyniversity Hospital, LMU Munich, München, Germany

⇒ PubMedで読む[PMID:38920377]

ジャーナル名:Neurosurgery.
発行年月:2025 Feb
巻数:96(2)
開始ページ:365

【背景】

星細胞腫では,T2強調像で高信号の腫瘍体積とT1強調像で低信号の腫瘍体積の差(ΔT2T1)が大きいものではびまん性・浸潤性成長の性質が強く,正常脳との境界が不明瞭で腫瘍摘出率が低いことが報告されている(Iusら,文献1).しかし,この報告では対象の星細胞腫の分子遺伝学的な定義はされておらず,T1/T2体積比(T1強調像での腫瘍体積/T2強調像での腫瘍体積)と摘出率との関係も不明である.
ミュンヘン大学とヨーテボリ大学脳外科は2003年から2021年に初回摘出手術が行われたIDH変異型グレード2-3星細胞腫(1p/19q共欠失なし)の134例を対象にT1/T2体積比と摘出度との関係を後方視的に検討した.

【結論】

全症例ではT1/T2体積比は0.79(範囲0.15-1.0)であった.T1/T2体積比が0.33より小さい腫瘍は高い腫瘍と比べて術後の残存腫瘍体積が有意に大きかった(中央値17.9 cm3 vs 4.6 cm3,p =.03).T1/T2体積比が0.33より小さい腫瘍は大きい腫瘍と比べて腫瘍摘出率が有意に低かった(中央値65% vs 90%,p =.03).多変量解析(46例が対象)ではT1/T2体積比そのものはOSと相関しなかったが,残存腫瘍の大きさはOSの短さと相関した(ハザード比1.02,95% CI 1.01-1.03,p <.01).

【評価】

従来から,グリオーマにおいて,T2強調像で高信号を呈する腫瘍体積とT1強調像で低信号を呈する腫瘍体積の差が大きいものは腫瘍のびまん性・浸潤性成長が強いことが報告されてきた(文献1,2).本研究では対象をIDH変異型グレード2-3星細胞腫(1p/19q共欠失なし)134例に限って解析した結果,T1/T2体積比が0.33 =1/3より小さい腫瘍では摘出率が有意に低く,残存腫瘍体積が有意に大きいことを明らかにした.
IDH変異型グリオーマでは,超全摘出,全摘出,あるいは80%以上の摘出が長期生存と相関することが知られており(文献3,4,5),逆に75-80%以下の摘出が生存に与えるベネフィットは少ない(文献3).その観点から,IDH変異型グレード2-3星細胞腫におけるびまん性・浸潤性の成長を反映する小さいT1/T2体積比は手術のプランニングの際に有用な指標となり得る.
例えば,T1/T2体積比が小さい(<0.33)グリオーマで,特にエロクエント皮質近傍に存在する腫瘍では,80%以上の摘出は困難と考えて,最初から全摘出を目指した手術戦略を立てないという選択肢もあるであろう.
本研究の問題点としては,対象例の選択において,IDH変異の有無や1p/19q共欠失の有無はスクリーニングされているが,CDKN2A/Bのホモ欠失の有無はスクリーニングされていないため,予後不良のIDH変異型星細胞腫グレード4が対象例の中に含まれている可能性がある.また多変量解析の対象となった症例が46例と少ない.さらにT2高信号の腫瘍部分と周囲の浮腫の区別が困難な例があるはずである.今後,こうした点を考慮に入れ,MRI画像自動セグメンテーションの方法も取り入れながら,より多数例での解析が行われることに期待したい.

執筆者: 

有田和徳