分子学的な定義による乏突起膠細胞腫における遺伝子変化が予後に与える影響:CIC変異はPFSを短縮するかも

公開日:

2025年3月13日  

Genomic Alterations in Molecularly Defined Oligodendrogliomas

Author:

Weber-Levine C  et al.

Affiliation:

Department of Neurosurgery, Johns Hopkins University School of Medicine, Baltimore, Maryland, USA

⇒ PubMedで読む[PMID:39007559]

ジャーナル名:Neurosurgery.
発行年月:2025 Feb
巻数:96(2)
開始ページ:328

【背景】

乏突起膠細胞腫では,CIC,FUBP1,TERTpの遺伝子変化を伴っているケースが多いことが知られているが(文献1-4),その臨床的な意義については充分に判っていない.
ジョンズ・ホプキンス大学脳外科は,2005年以降の16年間に治療した分子学的な定義(IDH1/2変異,1p/19q共欠失)による乏突起膠細胞腫の95例を対象に,次世代シーケンシング(NGS)を用いて435個の遺伝子からなるパネルの遺伝子変化を検索した.NGSにはホルマリン固定-パラフィン包埋腫瘍組織を用いた.対象の95個の腫瘍で,10種の遺伝子変化が少なくとも9個以上の腫瘍で認められた.

【結論】

最も多かった遺伝子変化はCIC(60例)で,FUBP1(23例),TERTp(22例)が続いた.この3種を含む10種の遺伝子(CIC,FUBP1,TERTp,SYNE1,TP53,NOTCH1,LRP1B,PIK3CA,APC,ATM)の変化の有無によって,OSやPFSに差があるか否かをK-M曲線で解析した.
その結果,大部分の遺伝子変化の有無によってはPFSやOSに差が生じないことが明らかになった.ただし,100ヵ月以内の追跡期間に限れば,CIC変化群ではCIC野生型群に比べてPFSが有意に短かった(46.3 vs 67.7ヵ月,p =.038,ハザード比 =.435).

【評価】

本研究はNGSによる,435個の遺伝子からなるパネルを用いた,分子学的な定義による乏突起膠細胞腫(IDH1/2変異,1p/19q共欠失)95例の遺伝子解析の結果であるが,従来の報告と同様にCIC,FUBP1,TERTpの変化が多いことが明らかになった(文献1-4).それぞれの変化陽性頻度(変異陽性腫瘍数/当該変異に関してNGS解析腫瘍数)はCIC:75%,FUBP1:28.8%,TERTp:100%(NGS解析腫瘍22例のすべてで変異陽性)であった.その他の遺伝子変化(SYNE1,TP53,NOTCH1,LRP1B,PIK3CA,APC,ATM)ではいずれも25%以下であった.
特に,他の種類のグリオーマでの頻度が高い遺伝子変化に関しては,対象の乏突起膠細胞腫ではATRX(1%),EGFR(2%),PTEN(1%),CDKN2A/B(2%),NF1(6%),BRAF (0%).とその頻度が低かった.
本研究ではさらに,変化の頻度が高かった10種について予後(PFS,OS)との関係を調べているが,いずれの変異でも相関はなかった.ただしCICについては,PFSに関する追跡期間を100ヵ月で打ち切れば,CIC変化陽性群ではPFSが有意に短かった.CICはEGFR/Ras/MAPK経路の複数の遺伝子の転写の抑制に関連する遺伝子であり,この遺伝子のミスセンス変異はMAPK活性化に関する遺伝子の転写を促し,細胞増殖をもたらすことが報告されている(文献5,6).
しかし,追跡期間が100ヵ月を超えれば,CIC変化陽性群の方がPFSは長い傾向であった.これは何故か.著者らはその理由を明らかにしていない.今後より多くの症例での検討によって,そのメカニズムが明らかになることを期待したい.
また,既に乏突起膠細胞腫172例を含むIDH1/2変異のグレード2グリオーマ331例に対するVorasidenibの第3相試験の結果,Vorasidenibの有効性が明らかになった(文献7).日本でも第3相治験が進行中であり,近い将来,Vorasidenibが乏突起膠細胞腫の標準治療の一部となる可能性が高い.今回示された乏突起膠細胞腫における遺伝子変化がVorasidenib治療を受けた患者の予後にどのような影響をあたえるかも今後明らかにすべき課題であろう.

執筆者: 

有田和徳