メージュ症候群に対する脳深部刺激の効果と相関する因子:26報233例のシステマティックレビュー

公開日:

2025年4月22日  

Efficacy comparison and outcome predictors of GPi- and STN-targeted deep brain stimulation for Meige syndrome: a systematic review of individual patient data

Author:

Xie H  et al.

Affiliation:

Department of Neurosurgery, Beijing Tiantan Hospital, Capital Medical University, Beijing, China

⇒ PubMedで読む[PMID:39854720]

ジャーナル名:J Neurosurg.
発行年月:2025 Jan
巻数:Online ahead of print.
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【背景】

メージュ(Meige)症候群は,眼瞼痙攣と口腔下顎ジストニアを主訴とする限局性ジストニアの一つで(文献1),有病率は人口10万人あたり数人である.筋緊張改善剤や抗コリン薬などの内服の効果は不十分で,ボツリヌス毒素局注の効果も一過性である(文献2,3).薬物でのコントロールが困難なメージュ症候群に対しては淡蒼球内節(GPi)の電気刺激療法(DBS)の有効性が報告されてきたが(文献4,5),近年,視床下核(STN)電気刺激の報告も登場してきた(文献6).
本稿はメージュ症候群に対するDBSの効果を,既報の26報告233症例を対象に,GPiとSTNを比較しながら解析したシステマティックレビューである.

【結論】

GPi群は103例,STN群は130例であった.
DBSの効果は,ジストニア評価尺度のBFMDRS-運動(M)スコアとBFMDRS-日常生活障害(D)スコアで評価した.
全233例では,DBS治療開始後の最終追跡時(平均27.1±33.6ヵ月)で,BFMDRS-Mスコアは65.1±26.7%,BFMDRS-Dスコアは53.5%±42.5%低下(改善)した.BFMDRS-Mスコアの改善と治療に対する反応は,全ての追跡段階と最終追跡時において,GPi群とSTN群で差がなかった.
多変量解析では,病悩期間と治療効果には負の相関が,術前BFMDRS(MあるいはD)スコアと治療転帰には正の相関があった.

【評価】

既報の26報告233症例を対象としたこのシステマティックレビューは,DBSがメージュ症候群の運動症状と日常生活障害を有意に改善することを明らかにしている.その効果において,GPi刺激とSTN刺激は同等であった.線条体とSTNは大脳基底核運動回路のエントリーポイントで,GPiはアウトプットであり,いずれも基底核-小脳-視床-大脳皮質ループの重要な結節点である(文献7).したがって,いずれの電気刺激も同様の効果を発揮することが想像される.DBS治療に伴う有害事象に関しては,GPi群で58例,STN群で63例報告されており,差はなかった.
一方,性,発症時年齢,追跡期間はDBSの効果と相関はなかったが,病悩期間の長さはDBSの効果と負の相関があった.近年,メージュ症候群はネットワーク病であると認識されるようになっている(文献8).この考え方によれば,長い病悩期間は異常なネットワークをより強固にし,より難治とすることになるので(文献9,10),本研究で示された病悩期間と治療効果の負の相関は当然と言えるかも知れない.この結果を受けて著者らは,保存的治療で改善が得られない症例には,早期のDBSが必要であると結論している.
さらに本研究では,術前BFMDRSスコアと治療転帰には正の相関がある,すなわち症状がより重篤なものほど,治療効果が大きいことを示している.これは何か? 著者らはこれを"floor effect",すなわちより重症の患者では症状改善の余地が大きいことで説明可能かも知れないと推測しているが,DBSの効果メカニズムにかかわる可能性があるので,その機序解明は重要な課題と思われる.

執筆者: 

有田和徳