公開日:
2025年4月22日最終更新日:
2025年4月24日A proposed new classification system of hypothalamic hamartomas in the era of stereotactic ablation surgery
Author:
Shirozu H et al.Affiliation:
Department of Functional Neurosurgery, NHO Nishiniigata Chuo Hospital, Niigata, Japanジャーナル名: | J Neurosurg. |
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発行年月: | 2024 Dec |
巻数: | 142(4) |
開始ページ: | 956 |
【背景】
視床下部過誤腫(HH)は難治の笑い発作(GS),精神発達障害などを呈し,ADL,QOLを強く阻害する疾患で,薬物療法の効果は限定的である.HHのてんかん発作はHH自身が原因となっていることが明らかになっており,摘出術やガンマナイフ治療が試みられてきた.一方近年,HHと周囲の視床下部の結合を遮断する定位的焼灼術が導入され,高い有効性が報告されてきた.
これに伴い,従来のHHの分類に代わる,定位的焼灼術時代にふさわしいHHの分類が必要となってきた.西新潟中央病院のShirozuらは,HHを視床下部との位置関係(辺縁P,内部I,混合M)と側方性(片側性U,両側性B)を基に6個のタイプに分類した.
【結論】
対象は1997年以降に著者らが定位的ラジオ波凝固術を行ったHHの218例(手術時年齢中央値7.2歳)で,PU型(4.6%),PB型(5.0%),IU型(18.8%),IB型(7.8%),MU型(18.3%),MB型(45.4%)であった.MB型はGS発症時年齢と手術時年齢が有意に低かった.定位的ラジオ波凝固術の刺入経路数や凝固数はMB型で有意に多く,経第三脳室的刺入はPB型で有意に多かった.発作消失率は各型間で差はなかった.
一過性の手術合併症率は各型間で差はなかったが,術後の過高熱や低Na血症はMB型やPB型で多かった.長期あるいは永続的神経脱落症状は両側性の3型のみで,約10%に認められた.
【評価】
従来,HHはその局在,臨床像,治療におけるアプローチ等に基づいて2-5型に分類されてきた(文献1-5).
著者らは過去20年以上に渡って,HHに対する定位的ラジオ波凝固術(SRFTC)を行い,GSの消失を中心に高い治療成績を上げてきたが(文献6,7,8),HHに対するSRFTCの治療戦略上,従来の分類は不十分,ないし意味をなさないことを実感してきた.
そこで著者らは,HHをMRI冠状断の乳頭体レベルでの視床下部下縁と第三脳室最下端を結ぶ水平ライン(hypothalamic base line)の上か下かで視床下部辺縁型(parahypothalamic type),視床下部内部型(intrahypothalamic type),混合型(mixed type)の3つに分け,さらに左右の乳頭体の中央を通る縦のラインを超えるか超えないかで一側性(unilateral)と両側性(bilateral)に分けた.この2つのラインとの関係に基づいてHHを6個のタイプ(PU,PB,IU,IB,MU,MB)に分けたのである.
これら6個のタイプの中ではMB型が最多で45.4%を占めており,他のタイプと比較してGSの初発が早く中央値0.3歳(全体は0.8歳),サイズも最も大きく21 mm(全体は15 mm)であった.逆に視床下部辺縁型(PU,PB)では,GSの初発は遅く,思春期早発症の合併が多かった.またMB型では,定位的凝固手術における刺入経路の数が多く中央値6個(全体は4個),凝固数も多く中央値13個(全体は8個)であった(いずれもp <.001).MB型やPB型では術後の過高熱や低ナトリウム血症が多かった.著者らはこの結果を受けて,HHの6個のタイプへの分類は,HHの臨床像や定位的凝固術の複雑さや合併症と相関するので,HHに対する手術戦略構築のために有用であると結論している.
一方,MRIガイド下のSRFTC術後,最終追跡段階(追跡期間中央値48ヵ月)では,いずれのタイプも90%前後の頻度でGSの消失が得られている.これは著者らが,全ての症例において,一貫してHHと視床下部との完全離断を心がけて凝固術を行っているからであるという(文献6,7).また,両側性のPB型やMB型などの複雑な形状のHHに対しては,かつては多段階-両側性の手術を必要としていたが,最近は著者らが開発した第三脳室経由のアプローチによって一側1回の手術でのてんかんコントロールが可能になっている(文献9).これにより,手術回数(再手術)の低減のみならず,両側視床下部の障害を避けることで内分泌学的合併症の低減も図られている.
HHは乳児期から発症する極めて難治のてんかんとそれに伴う進行性の発達障害を示す重篤な疾患である.これまで西新潟中央病院には多くの国からHH患者が集まってきていたが,今後はShirozu,Kameyamaらが長年の経験を基に開発したこの分類と手技が世界中に広まり,できれば日本国内に複数のHH治療センター
が登場することを期待したい.
<著者コメント>
HHの分類は国際的にはDelalande分類(文献4)が一般的であり,手術法の選択(どうアプローチするか)にとって有用とされてきた.一方,西新潟中央病院では当初よりSRFTCを行っており,あらゆるタイプのHHに適用してきた.これまでKameyamaらの分類(文献10)を使用してきたが,これも臨床上の特徴を重視したもので,国際的にはあまり使用されなかった.
近年,レーザー治療(LITT)の登場によりHH治療のパラダイムシフトが生じ,LITTがファーストラインと認識されるようになってきた.著者らは一貫してSRFTCを行っているが,LITTとの共通点は,定位的脳手術の手技を用いてあらゆるタイプ,大きさに対応できることである.これは,Delalande分類による手術選択の意義が乏しくなったことを意味している.さらに,HH治療(特にGS消失)では,HHと視床下部との付着部の完全離断が重要である事を研究データ(文献7)および実績(文献8)をもって示してきた.これらを背景に,今回の新分類の提唱を行ったのである.
新分類の要点は,付着部のパターンへの注目であり,視床下部に対する位置関係,および両側性の2軸で判断し,3×2で計6つのサブタイプを設けた.当然,我々の治療戦略は一貫して付着部の凝固離断という方針で行ってきたため,今回の研究では各サブタイプでの発作抑制率はほとんど差がなかったが,supplemental material(supplementary table 1-3)で示したように,より治療戦略を洗練することにより治療成績,再手術率は時代とともに向上している.
しかし,Limitationsでも述べたことだが,今回の研究は単一施設での単一手技による成績を基にしている.これが他の手技にも通用するかどうかは定かでない.しかし,著者は付着部の完全な凝固離断が最も重要であり,今回の分類がそれを認識するのに最も有用であると考えている.Discussionの最後でも述べたが,「何を使うか」が重要ではなく「どう使用するか」が重要なのである.すなわち付着部の凝固離断という目標を安全かつ確実に達成できれば,どのような手技でもよいと考えている.そのうえで,多経路・多凝固の組み合わせでtailoredな凝固焼灼が可能なMRガイド下SRFTCが最も優れていると考えている.(福岡山王病院 機能脳神経外科センター 白水洋史)
執筆者:
有田和徳関連文献
- 1) Boyko OB, et al. Hamartomas of the tuber cinereum: CT, MR, and pathologic findings. AJNR Am J Neuroradiol. 12(2):309-314, 1991
- 2) Valdueza JM, et al. Hypothalamic hamartomas: with special reference to gelastic epilepsy and surgery. Neurosurgery. 34(6):949-958, 1994
- 3) Arita K, et al. The relationship between magnetic resonance imaging findings and clinical manifestations of hypothalamic hamartoma. J Neurosurg. 91(2):212-220, 1999
- 4) Delalande O, et al. Disconnecting surgical treatment of hypothalamic hamartoma in children and adults with refrac-tory epilepsy and proposal of a new classification. Neurol Med Chir (Tokyo). 43(2):61-68, 2003
- 5) Régis J, et al. Epilepsy related to hypothalamic hamartomas: surgical management with special reference to gamma knife surgery. Childs Nerv Syst. 22(8):881-895, 2006
- 6) Kameyama S, et al. MRI-guided stereotactic radiofrequency thermocoagulation for 100 hypothalamic hamartomas. J Neurosurg. 124(5):1503-1512, 2016
- 7) Shirozu H, et al. Significance of the electrophysiological border between hypothalamic hamartomas and the hypothalamus for the target of ablation surgery identified by intraoperative semimicrorecording. Epilepsia. 61(12):2739-2747, 2020
- 8) Shirozu H, et al. Long-term seizure outcomes in patients with hypothalamic hamartoma treated by stereotactic radiofrequency thermocoagulation. Epilepsia. 62(11):2697-2706, 2021
- 9) Shirozu H, et al. A special approach for stereotactic radiofrequency thermocoagulation of hypothalamic hamartomas with bilateral attachments to the hypothalamus: the transthird ventricular approach to the contralateral attachment. Neurosurgery. 91(2):295-303, 2022
- 10) Kameyama S, et al. Minimally invasive magnetic resonance imaging-guided stereotactic radiofrequency thermocoagulation for epileptogenic hypothalamic hamartomas. Neurosurgery. 65(3):438-49, 2009
参考サマリー
- 1) 視床下部過誤腫に対する“NeuroBlate SideFire probe”による離断手術:笑い発作への効果
- 2) 視床下部過誤腫に対するガンマナイフ治療:39例,5年間の追跡結果
- 3) 小児難治性てんかんに対するRCT:外科治療 vs. 薬物治療
- 4) ステレオ脳波測定SEEGで判明したてんかん発作起始領域への温熱凝固療法の転帰
- 5) ステレオEEGとレーザーアブレーションによる島回/帯状回てんかんの治療
- 6) PTSD(心的外傷後ストレス障害)に対する選択的な非優位側扁桃体レーザーアブレーションの効果:2例報告
- 7) 発作反応型電気刺激(RNS)は小児や若年者の難治性てんかんにも有用:米国5施設35例の解析
- 8) 定位手術的照射(SRS)による内包前脚切裁術は強迫性障害に有効:11報告180例のメタアナリシス
- 9) 難治性てんかんの手術によってSUDEPは減るのか
- 10) 孤発性の視路/視床下部神経膠腫では早期陽子線照射が視機能を温存する:テキサス小児癌センターの38例