症候性の軽度の内頚動脈狭窄に対するCEAは有用か:MUSIC研究

公開日:

2025年4月23日  

Clinical features, radiological findings, and outcome in patients with symptomatic mild carotid stenosis: a MUSIC study

Author:

Kashiwazaki D  et al.

Affiliation:

Department of Neurosurgery, Graduate School of Medicine and Pharmaceutical Sciences, University of Toyama, Japan

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ジャーナル名:J Neurosurg.
発行年月:2025 Feb
巻数:Publish Before Print
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【背景】

従来,50%未満の軽度内頚動脈狭窄は脳梗塞発症リスクが低く,頚動脈内膜剥離術(CEA)の有効性は否定されてきた(文献1).しかし,軽度内頚動脈狭窄のうちプラークイメージングでプラークが脆弱なものでは脳梗塞発症リスクが高いことが明らかになってきた(文献2,3).
本MUSIC研究は,2017年からの4年間に国内28施設で治療されたNASCETで50%未満の軽度内頚動脈狭窄に起因する虚血性脳・眼動脈イベントを呈した患者のうち,登録後最低2年間の追跡が可能であった124例を対象とした前向きコホート研究である.登録段階で56.5%に狭窄と同側の脳梗塞の既往があり,43.5%は抗血小板剤の投与を受けていた.

【結論】

対象例の内頚動脈の狭窄率は22.4±13.7%であった.プラークの構成は線維性22例,脂肪・壊死性コア25例,プラーク内出血69例であった.
59例はBMT(best medical treatment)単独で治療され,63例にはBMTに加えてCEAが実施された.
一次エンドポイントである追跡期間中の同側の虚血性脳卒中はCEA群と比較してBMT群で有意に多かった(15.1% vs 1.7%,p =.03).
二次エンドポイントである追跡期間中の同側の虚血性脳卒中+全脳卒中+全死亡+CEAやCASを必要とするプラークの進行もBMT群で有意に多かった(31.4% vs 7.3%,p =.01).

【評価】

本MUSIC研究は本邦28施設が参加した,NASCETで50%未満の軽度内頚動脈狭窄に起因する虚血性脳・眼動脈イベントを呈した患者124例を対象とした非介入研究である.研究参加施設では,同時期に全体で1,208例の内頚動脈狭窄症の治療が行われているので,症例登録基準に該当する軽度内頚動脈狭窄症例は約10%を占めることになる.
興味深いのは,症例登録時の内頚動脈狭窄率は22.4±13.7%で,0%のものも15%(20/124)であったことである.著者らはこの低い狭窄率の理由を,動脈硬化によって動脈の外径が拡大するpositive remodelingのためであろうと推定している.この内頚動脈のpositive remodelingはマクロファージの浸潤を伴う不安定プラークとの関係や(文献4,5),症候性プラークとの関係が指摘されている(文献6).また,この現象はCEAやCAS後のDWI-MRIでの虚血病変出現と相関することが報告されている(文献7).
このシリーズでも,MRI上,プラーク内の脂肪・壊死性コアは22%,プラーク内出血は60%であり,対象例の約8割が不安定プラークを有していたことになる.すなわち,症候性の軽度内頚動脈狭窄は,大部分で不安定プラークを伴っていると考えるべきであろう.こうしたプラーク組成であるが故に,症候性の軽度内頚動脈狭窄症例は,たとえ抗血小板剤を服用していても,虚血性脳卒中のリスクが高いことが予想される(文献2).本研究はこのように高い虚血性脳卒中発症リスクを有する症例を対象とした前向き登録研究であり,CEAかBMT(best medical treatment)かは,参加施設の判断に任されており,実際にはBMT開始群とCEA群はほぼ同数であった.
その結果,2年の経過観察期間における一次エンドポイント(同側の虚血性脳卒中)の頻度,二次エンドポイント(同側の虚血性脳卒中+全脳卒中+全死亡+CEAやCASを必要とするプラークの進行)の頻度ともBMT群で有意に高かった.また,エンドポイント予測因子は一次エンドポイント,二次エンドポイントともCEA(HRは0.18と0.32)とプラーク内出血(HRは1.92と1.52)であった.
さらに,登録時のmRSは両群間で差はなかったが,登録後2年目の良好な機能予後(mRS:0-2)の割合はCEA群で有意に高かった(96.2% vs 86.0%,p =.01).
このように本MUSIC研究は,CEA施行群ではBMT群と比較して,治療後の虚血性脳卒中発生頻度が低く,機能予後が良好であることを明瞭に示した画期的な研究である.かたや,症候性の軽度内頚動脈狭窄症例の内科的治療とCEAに関する最近のメタアナリシスでは,両群間に差を認めていない(文献8).本MUSIC研究との差異の理由を,著者らはMUSIC研究グループにおけるCEAと薬物療法の質の高さに求めているようである.
本MUSIC研究で示唆された症候性の軽度内頚動脈狭窄に対するCEAの有用性が,プラークイメージングを用いた症例選択を前提としたRCTで証明されることを期待したい.

<著者コメント>
従来,NASCET法をはじめとした狭窄度が頚動脈狭窄症に対する外科治療の適応を決めるgold standardであった.しかし,近年のMRIなどの診断機器の進歩と病態解明が進んだことにより,狭窄度が50%未満の軽度狭窄であっても症候化するriskが高い症例が存在することが判明してきた.これまでの脳卒中ガイドラインでは,症候性軽度頚部頚動脈狭窄症に対するCEAは推奨されていない.しかし,改定2023ではclinical questionとして本疾患に対する治療に焦点をあてて解決するべき問題点として挙げている.MUSIC研究は症候性軽度頚部頚動脈狭窄症の特徴ならびに治療方法,とくにCEAの有効性について調査した多施設前向きコホート研究である.本研究では,症候性軽度頚部頚動脈狭窄症患者では高血圧,糖尿病,心筋梗塞を含めた既往歴が多く,とくに同側の脳梗塞の既往が高頻度であることが判明した.抗血小板薬を含めた内服歴も多かった.また,MRプラークイメージングによるプラーク性状の評価ではプラーク内出血やlipid rich/necrotic coreを呈しており不安定プラークが多いことが特徴であった.このことからも,本疾患は初期の動脈硬化像ではないことを知っておく必要がある.本研究では,内科治療に加えてCEAを行うことで内科治療単独と比較して有意に脳梗塞の再発を抑制できることを示した.本研究は治療方法を参加施設に委ねたコホート研究であるものの本疾患に対するCEAの有効性を示した初の前向き研究である.本研究結果は,狭窄度重視時代からプラーク性状を重視へのパラダイムシフトを反映していると考えている.(富山大学脳神経外科 柏﨑大奈)

執筆者: 

有田和徳