内頚動脈狭窄症の患者における視機能低下の回復はCEAとCASどちらが有利か

公開日:

2025年5月30日  

最終更新日:

2025年5月31日

Comparative Effects of Carotid Endarterectomy and Stenting on Visual Recovery in Patients With Carotid Artery Stenosis

Author:

Oya S  et al.

Affiliation:

Department of Neurosurgery, Saitama Medical Center, Saitama Medical University, Saitama, Japan

⇒ PubMedで読む[PMID:39960289]

ジャーナル名:Neurosurgery.
発行年月:2025 Feb
巻数:Online ahead of print.
開始ページ:

【背景】

CEAとCASは共に脳卒中のリスクを低減することが知られているが,視力低下に対する有効性は不明である.本研究は,埼玉医科大学と関連の医療機関で実施したCEAとCASが内頚動脈狭窄症患者の眼血流(OBF)および視力に及ぼす影響を検討した多施設前向き研究である.対象は2018年以降の4年間で内頚動脈狭窄に対して外科的な治療が実施された76例で,CEAが39件,CASが39件実施されていた.治療法の選択は各研究参加施設の判断に委ねられた.OBFは網膜血流の絶対量を反映する平均ブラー比(MBR)で評価した.視力はCSV-1000を用いてコントラスト感度のログ関数の下部面積(AULCSF)で評価した.

【結論】

両手術ともに眼血流(MBR)を有意に改善した(CEA:31.4→37.9[p <.0001],CAS:33.9→37.8[p =.007]).一方,視力(AULCSF)はCEA後には有意に改善した(1.03→1.06,p =.02)が,CAS後には改善が認められなかった(1.08→1.06,p =.37).全78手術の解析では,術後の拡散強調MRIで微小塞栓を認めた患者では視力改善が乏しかった(p =.01).さらに,39例(CEA19, CAS20)に対して行った中心窩の光干渉断層撮影(OCT)解析では,CEA後よりもCAS後の方が網膜血管密度の減少は顕著であった(0.5 vs 1.1,p =.04).

【評価】

頚部内頚動脈狭窄は虚血性脳卒中の主要な原因の一つであり,頚動脈ステント留置術CASもCEAと同様に脳卒中の二次予防に有効であることが示されている(文献1-3).さらに狭窄部より遠位の末梢血行動態の改善による効果についても報告されており,脳血流を増加させることで認知機能の改善に寄与する可能性がある(文献4).加えてCEAが網膜血流を増加させることで視力(VA)を改善する可能性も報告されている(文献5,6).本論文の著者らも以前,CEAによる眼血流(OBF)増加と術側の迅速な視力回復との間に直接的な定量的関係があることを示している(文献7).しかし,その研究は単施設研究であること,およびCASでも同様の効果が認められるかどうかを検討していないという限界があった.本稿の研究は,このような限界を補うために,多施設前向き観察研究として設計され,頚動脈狭窄に対する手術治療後のVA改善が,施設ごとの手術技術の違いにかかわらず予測可能かどうかを評価し,CEAとCASの視力回復効果を比較することを目的とした.この結果,CEAあるいはCASはいずれもOBFを改善するが,VAの回復はCEA後にのみ認められた.この理由について著者らは,CEAよりもCASで発生しやすい網膜動脈塞栓(文献8-10)が中心窩の網膜血管密度を低下させ,OBF増加による視力回復効果を打ち消している可能性を示唆している.著者らはこの結果を受けて,頚部内頚動脈狭窄患者の視機能評価の重要性と,個々の視覚プロファイルや脳卒中リスクに基づいた個別化治療の必要性を強調している.
本研究では,血行再建術の方法(CEAあるいはCAS)は研究参加施設の術者の選択に任されていたとのことであるが,できればRCTで,本研究の発見が検証されることを望みたい.また,本研究のシリーズでは自覚的な虚血性眼症の患者はいなかったようであるが,今後はそのような患者も含めた前向き試験の実施も期待したい.

<著者コメント>
本研究の要点は以下の2点に集約される.第一に、CEA術後の網膜血流の増加と視力改善効果が,施設の手術法の違いにかかわらず一貫して認められたこと.第二に、視力の改善効果がCEAでのみ確認された点である.
実際、本研究では予定症例数の前半が終了した段階で中間解析を行い,視力改善がCEA群に限って認められる傾向が示唆された。これを受けて,後半の症例では微小塞栓の関与を考慮し,術前後で網膜血管密度の測定を行った.その結果,術直後のMRIで微小塞栓を認めた症例では網膜血管密度の低下が観察され,CAS群ではCEA群よりも有意に低下していた.ただし,症例数が限られていたため統計的検出力は十分ではなく,CASにおける微小塞栓の頻度が視力改善を妨げる要因であることを明確に証明するには至らなかった.今後さらなる症例の蓄積が必要である.
本研究の発端は,ある患者とのベッドサイドでの会話にあった.「術後に視界がはっきりした」と語るその患者の言葉が契機となった.実際,「文字が読みやすくなった」「壁のカレンダーや時計が眼鏡なしで見えるようになった」といった声も複数寄せられており,その改善効果はわれわれの予想を上回るものであった.若手脳神経外科医に対しては,日常臨床の中に研究の種が潜んでいることを,改めて強調しておきたい.(群馬大学脳神経外科学 大宅宗一)

執筆者: 

有田和徳

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