膠芽腫では造影部分の摘出率よりもFLAIR高信号部分の摘出率が生命予後と相関する:イタリア3施設での前向き研究の150例

公開日:

2025年5月30日  

最終更新日:

2025年5月31日

Is FLAIRectomy Directly Correlated with Prolonged Survival in Glioblastoma? A Prospective National Multicenter Study on Correlation Between Extent of Tumor Resection and Clinical Outcome

Author:

Certo F  et al.

Affiliation:

Department of Medical and Surgical Sciences and Advanced Technologies, University of Catania, Catania, Italy

⇒ PubMedで読む[PMID:40257266]

ジャーナル名:Neurosurgery.
発行年月:2025 Apr
巻数:Online ahead of print.
開始ページ:

【背景】

膠芽腫では,MRI造影病変の範囲を超えたFLAIR画像における高信号部分を切除するFLAIRectomyが,生存期間の延長と相関することが示唆されているが(文献1,2),その評価は定まっていない(文献3).本稿はイタリアの3施設で実施された前向き研究で,FLAIR高信号部切除の範囲と臨床転帰および生存期間との関係を解析したものである.対象は2020年以降の3年間に摘出術が行われた膠芽腫(58%)あるいはグレードIV星細胞腫(42%)の150例(男性82名,平均年齢は58.2歳).多発性腫瘍やエロクエント領域に造影部分を有する腫瘍は除外された.手術は3D-造影T1と3D-FLAIRのナビゲーション下で実施された.

【結論】

93名(62%)で5-ALA蛍光誘導手術を実施した.150例全体では,EOFR(FLAIR高信号部分の摘出率)は78.8%,EOTR(造影部分の摘出率)は98.3%であった.PFSは16.3ヵ月,OSは28.4ヵ月であった.
Cox回帰モデルでは,EOFRおよびEOTRの増加は,IDH野生型と変異型腫瘍の両者でOSの延長と相関した.調整後はEOFRのみがOSと相関した(p <.001).死亡リスクは,EOFRが1%増加するごとにIDH野生型腫瘍で6.8%,IDH変異型腫瘍で12.1%低下した(p <.001).
8種類の因子を対象にしたクラスター解析では,PFSおよびOSの高い患者群でEOFRは高かった.

【評価】

膠芽腫に対するEOTR(腫瘍造影部分の摘出率)は確立された予後因子であるが,EOTRに基づいたGTRという手術目標は膠芽腫の浸潤性が考慮されていない.最近では,造影病変を超えた周囲組織の切除を行う超辺縁切除(SMR)が注目されている.その中でも特にFLAIRectomyは,FLAIR画像上で高信号を示す領域を標的とした手術で,これらの領域が腫瘍細胞の浸潤を含む可能性が高いことから重要視されている(文献2).複数のメタ解析で,SMRはGTRに比べてPFSやOSを延長させる可能性が示されているが(文献4,5),FLAIRectomyに関してはいずれも後方視的研究で,厳密な体積評価等の重要情報の欠落があった.
本稿の研究はイタリアの3施設で実施された前向き研究であるが,EOTRよりもEOFR(FLAIR高信号部分の摘出率)がPFSおよびOSの信頼性の高い予測因子であることが示された.さらにEOFRが1%増加するごとに,IDH野生型腫瘍患者では6.8%,IDH変異型腫瘍患者では12.1%,死亡リスクが低下することが確認された.この結果は,特にIDH変異型膠芽腫=グレードIV星細胞腫がより広範な浸潤性を示し,より広範な切除によってより大きな利益が得られる可能性を示している.
ただし,当然ながら過度のFLAIRectomyは神経機能障害のリスクを伴う.本稿のシリーズでは,手術は3D-造影T1と3D-FLAIRのナビゲーション下で実施され,69%でSEP,MEP,皮質刺激などの術中ニューロモニタリングが併用されているが,10例(6.7%)で新規の恒久的な神経脱落症状が生じている.今後,このFLAIRectomyの安全性の向上は重要な課題と思われる.
一方で,FLAIR高信号部分はすべてが腫瘍細胞浸潤部分ではなく,単純な脳浮腫部分も含まれている筈である.本研究シリーズで150名中93名(62%)で5-ALA蛍光誘導手術が実施されているが,今後,術前の11C-メチオニンPETの情報を元にした術中ナビゲーションを加えることによって,腫瘍細胞浸潤部分切除の効果と安全性が高まるかも知れない.

執筆者: 

有田和徳