骨肥厚を伴う髄膜腫は骨肥厚のない髄膜腫とどう違うのか:ベイラー医科大学181例の解析

公開日:

2025年5月30日  

Integrated Clinical Genetic Analysis of Meningiomas Causing Bony Hyperostosis Shows More Severe Clinical Course and Overexpression of Secreted Pro-osteogenic Factors

Author:

McDonald MF   et al.

Affiliation:

Department of Neurosurgery, Baylor College of Medicine, Houston, Texas, USA

⇒ PubMedで読む[PMID:40304485]

ジャーナル名:Neurosurgery.
発行年月:2025 Apr
巻数:Online ahead of print.
開始ページ:

【背景】

原発性脳腫瘍の中で最多の髄膜腫は(文献1)隣接する頭蓋骨の肥厚を引き起こすことが多いが(文献2,3),その臨床的な意義や分子遺伝学的な背景は不明である.
ベイラー医科大学脳外科は,遺伝性腫瘍症候群や放射線誘発腫瘍を除いた自験の原発性髄膜腫181例を対象とした後ろ向き研究を行い,骨肥厚を伴わない髄膜腫と比較した骨肥厚を伴う髄膜腫の臨床像と分子生物学的特徴を解析した.術前の画像診断上,66例(36.5%)の髄膜腫は骨肥厚を伴い,115例(63.5%)は骨肥厚を伴わなかった.2群間で,性,年齢,人種,偶発性腫瘍の頻度,mRS,意識障害の頻度,WHOグレード,MenG(文献4)に差はなかった.

【結論】

骨肥厚を伴わない髄膜腫と比較して,骨肥厚を伴う髄膜腫は,救急外来受診率が高く,けいれん発症率が高く,嗅溝部に発生しやすかった(いずれもp <.05).画像的には,骨肥厚を伴う髄膜腫は脳浮腫,正中偏位,非均一な造影効果,T2高信号,骨浸潤の頻度が高かった(いずれもp <.05).
さらに,骨肥厚を伴う髄膜腫は,術中推定出血量が多く,手術室滞在時間が長く,頭蓋骨切除術や頭蓋形成術の施行率が高かった(いずれもp <.05).発現変動遺伝子(DEG)解析では,骨肥厚を伴う腫瘍で過剰発現している遺伝子20個のうち11個が分泌蛋白型であり,そのうち5個が骨格系発達やリモデリングに関連する蛋白の遺伝子であった.

【評価】

髄膜腫の25-50%で隣接する頭蓋骨に骨肥厚が認められ(文献2,3),部位別では蝶形骨翼部と嗅溝部に多い(文献5,6).
従来,なんとなく見過ごされていた髄膜腫の硬膜付着部の骨肥厚であるが,この181例の髄膜腫を対象とした後ろ向き解析では,頭蓋骨肥厚を伴う髄膜腫は,非骨肥厚例よりも重篤な臨床経過をたどり,特有の画像所見(脳浮腫,正中偏位,非均一な造影効果,T2高信号,骨浸潤)を示すことが明らかになった.
特に脳外科臨床医にとって重要な指摘は,骨肥厚を伴う髄膜腫では腫瘍の骨浸潤が多く(骨肥厚群38% vs 非骨肥厚群4%),手術がより困難で(術中推定出血量が多く,手術時間が長い),その結果として,深部静脈血栓症(骨肥厚群6% vs 非骨肥厚群1%),術後の新規痙攣も多く(骨肥厚群14% vs 非骨肥厚群3%),頭蓋形成が必要となるケースが多かった(骨肥厚群14% vs 非骨肥厚群2%)ことである.今後,これらの発見が他施設でのシリーズで検証されることを期待したい.
従来,髄膜腫における骨肥厚にはNF2遺伝子変異,TRAF7遺伝子変異,IGF-1,MMPs,IL-6などの関与が示唆されている(文献7-10).本研究では,骨肥厚を伴う髄膜腫では,骨形成とリモデリングに関わる5種の分泌型蛋白(BMP3,RBP4,MATN4,CILP2,FGF7)の遺伝子発現が高いことが示され,腫瘍から分泌されるこれらの蛋白が頭蓋骨肥厚をもたらしていることが推測された.
一方,非骨肥厚群と比較して骨肥厚群では,性,年齢,人種,偶発性腫瘍の頻度,術前の神経学的重症度,WHOグレード,組織学的サブタイプ,再発リスクとの関係が示唆されている遺伝子メチレーション・クラスター(MenG分類)(文献4)に差はなかった.さらに髄膜腫の発生との関連が示唆されている遺伝子変異(NF2,TRAF7,KLF4,POLR2A,AKT1,SMO)や染色体異常(1p欠失,14q欠失,22q欠失)についても,骨肥厚群と非骨肥厚群に有意差は認められなかった.
骨肥厚を伴う髄膜腫における上記5種の骨形成関連蛋白遺伝子の高発現と臨床的なアグレッシブさの関係については,著者らは言及していない.今後の研究の発展に期待したい.

執筆者: 

有田和徳