頭蓋内類上皮腫の臨床像と術後長期経過:UCSFの146例

公開日:

2025年5月31日  

最終更新日:

2025年5月31日

Symptomatic Progression, Recurrence, and Long-Term Follow-Up of Patients With Intracranial Epidermoid Cysts

Author:

Ramesh R  et al.

Affiliation:

Department of Neurological Surgery, University of California, San Francisco, San Francisco, California, USA

⇒ PubMedで読む[PMID:39699183]

ジャーナル名:Neurosurgery.
発行年月:2024 Dec
巻数:Online ahead of print.
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【背景】

類上皮腫は頭蓋内腫瘍のうち1%前後の稀な腫瘍である(文献1,2).極めて良性ながら後頭蓋窩や正中線上にできることが多く,腫瘍被膜が周囲組織に密着しているので完全な摘出は容易ではない.
UCSF脳外科は1989年以降の34年間に摘出術を行った146例(平均40歳)を解析して,その臨床像,手術成績,長期的な転帰を求めた.腫瘍の最大径は平均4.3 cmで,5.1%は診断時に水頭症を伴っていた.腫瘍の存在部位は小脳橋角部(53.4%)が最多で,鞍上部(9.6%),中頭蓋窩(5.5%)が続いた.手術後の追跡期間中央値は3.8年.再発は0回78.9%,1回15.0%,2回以上6.1%であった.

【結論】

診断時と最終追跡時の症状は,頭痛(40.4%→8.8%),めまい・悪心・嘔吐(33.1%→3.7%),運動失調(22.8%→4.4%),けいれん(11.8%→2.9%),感覚障害(5.1%→0.7%)と有意に減少した(いずれもp <.05).
診断時に少なくとも1個の脳神経症状が84.6%(刺激症状:69.1%,欠損症状:50.7%)で認められた.診断時と最終追跡時の脳神経症状はII番障害(11.0%→3.7%),V番刺激症状(11.8%→3.7%),VIII番刺激症状(11.8%→2.9%)と有意な改善を示した.手術直後のMRIでの腫瘍の残存は再発までの短い期間と相関した(p =.023).

【評価】

頭蓋内類上皮腫は稀な腫瘍で,施設毎の症例数が少ないこともあり,その臨床像や予後については充分に明らかになってはいない.本稿は,UCSFで34年間という長期間に経験した146例の頭蓋内類上皮腫の臨床像に関する後方視的解析の結果である.この146例という症例数は過去の報告シリーズでは最大のものである.腫瘍局在は小脳橋角部(53.4%)が最多で,鞍上部(9.6%),中頭蓋窩(5.5%),前頭部,第四脳室,橋前槽などが続いた.症状で最も多いのは何らかの脳神経症状で84.6%,頭痛40.4%,めまい・悪心・嘔吐33.1%,運動失調22.8%,けいれん11.8%などが続いた.これらの症状は,最終追跡時にはいずれも有意に減少していた.このことは,他の脳腫瘍と異なり,類上皮腫の内容物は柔らかく非出血性の石けん状であるため,腫瘍の大部分を除去し脳や脳神経への圧迫を解除することは比較的容易なことを反映している.
一方,類上皮腫の被膜は周囲の脳・脳神経・血管に密着しているので,被膜も含めた全摘出は困難で(文献3),このため,極めて良性の腫瘍でありながら,長期経過観察中の再発は稀ではない(文献4).本研究のシリーズでは,追跡期間中央値3.8年で再発は21.1%で認められ,再発までの平均期間は6.7年であった.Hasegawaらが2021年に発表したMayoクリニックのシリーズでは,平均追跡期間87.3ヵ月で再発率は25.4%であった(文献4).本稿に対するコメントの中で,ワシントン大学のSekhar LNは,周囲の重要構造に密着した腫瘍被膜摘出の独特の手法を提案している.すなわち,極く低出力のバイポーラでこの被膜に熱を加えると,これら被膜が収縮して血管や軟膜から剥がれてくるので,これを摘出するという.興味深い提案だが,やはり被膜を直視しながらの丁寧な剥離操作は欠かせないと思う.このためには内視鏡の利用やアプローチ方向を変えての2段階手術も必要かも知れない.
本研究では,初回手術後の再発に寄与する唯一の因子は手術後のMRIにおける残存腫瘍であった(p =.023).Hasegawaらの報告でも,腫瘍全摘出例では10年間の無介入率は100%であったのに対し,腫瘍部分摘出例では51%であった(文献4).また,Shearらのメタアナリシスでは,部分摘出後の再発率は全摘後の7倍であったという.手術後MRI病変の消失とは,必ずしも被膜も含めた全摘出を意味しない.その意味では,被膜も全摘出するかどうかは別として,少なくとも,安全な範囲内で,腫瘍の固形成分をすべて除去することは重要な手術目標であろう.
なお本研究のシリーズでは,初回切除後12.5%の患者が30日以内に再入院し,特に腰椎ドレーン留置患者では再入院のリスクが高かった(調整オッズ比8.26).再入院の直接の理由としては髄液漏と無菌性髄膜炎が多かった.腰椎ドレーンは大きな腫瘍や脳室内腫瘍を有する患者における周術期の髄液圧管理に用いられることが多いが,そのような患者では特に無菌性髄膜炎や髄液漏のリスクに注意を払う必要性を示唆している.
また本稿は,腫瘍が悪性化し,扁平上皮癌に進行した1例を報告している.過去にも,稀ながら類上皮腫の癌化は報告されている(文献6,7,8).特に急速に成長する例,播種する例,再発を繰り返す例においてはその可能性を十分に考慮し,早めの積極的な治療を行うべきであろう.

執筆者: 

有田和徳