頭蓋咽頭腫に対するガンマナイフの超長期成績:カロリンスカ大学の44例,平均21年の悉皆追跡調査の結果

公開日:

2025年5月31日  

Long-Term Outcomes After Gamma Knife Radiosurgery Treatment of Craniopharyngiomas: A Swedish Nationwide Cohort With a Mean Follow-Up of 21 Years

Author:

Buwaider A  et al.

Affiliation:

Department of Clinical Neuroscience, Karolinska Institutet, Stockholm, Sweden

⇒ PubMedで読む[PMID:40042311]

ジャーナル名:Neurosurgery.
発行年月:2025 Mar
巻数:Online ahead of print.
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【背景】

手術後残存したり,再発した頭蓋咽頭腫に対してガンマナイフによる定位手術的照射(GKRS)を行うことは多い(文献1,2).しかし,従来の大きなシリーズの報告はGKRS後数年間の経過観察にとどまっており(文献3-5),10年を超える長期の転帰については不明である.
カロリンスカ大学神経科学部門などのチームは,彼らが1968年以降2010年までにGKRSを行った頭蓋咽頭腫44例の全例を対象にその転帰について後方視的な解析を行った.
GKRS時の年齢中央値は17歳(3~75).GKRSの理由は部分摘出後の腫瘍増大50%,生検術後初期治療23%などであった.腫瘍辺縁線量中央値は10 Gy(範囲8~19 Gy)であった.

【結論】

GKRS時の腫瘍体積中央値は2 mL(0.01~41)であった.追跡期間は平均21年(4-55)であった.
PFSは5年後64%,10年後50%,20年後45%,30年後40%で,30年後の時点で無増悪生存が達成された場合,それ以降の腫瘍増殖は認められなかった.再発により69%の症例で追加治療を要した.OSは5年後91%,10年後79%,20年後64%,30年後64%であった.
大きな腫瘍体積は腫瘍増殖の独立した予測因子であった(OR:1.69,p =.020).GKRS時の年齢(OR:1.07,p =.018,20歳以下と45歳以上で死亡率が高い二峰性)と腫瘍体積(OR:1.21,p =.049)がOS短縮の有意の予測因子であった.

【評価】

従来の報告では平均2-8年間の追跡期間に留まっていた頭蓋咽頭腫に対する,GKRS後の超長期の転帰の報告である.追跡期間平均21年(4-55年)と過去最長で,PFSは20年後45%,30年後40%で,GKRS後に腫瘍増大を来した患者のうち69%にY90注入,再手術,のう胞穿刺,LINAC照射,再度のGKRSなどの追加治療が実施されている.GKRS後30年以降の腫瘍増大は認められなかったとのことである.このデータは頭蓋咽頭腫に対するGKRSは約半数の患者で20年以上の長期の腫瘍コントロールをもたらすことを示している.
一方,30年後OSは64%で,腫瘍増大による死亡は10例(22.7%)であった.多変量解析では死亡の予測因子はGKRS時の腫瘍体積と年齢であった.GKRS時の腫瘍体積が死亡の予測因子であったことは容易に了解可能であるが,年齢については,20-45歳が死亡率が低い二峰性となっている.これについては著者らは,頭蓋咽頭腫の中でよりアグレッシブなエナメル上皮腫型(adamantinomatous type)は若年者に多く,これが若年者の死亡率を高めている可能性を指摘している.
では,GKRS後,どのくらい患者を追跡すれば良いのか.10年くらいで良いとする報告もあるが(文献6),この報告ではGKRS 20年後から30年までに2例(4.5%)で新規の増大・再発が認められている.ほとんど終生にわたって追跡が必要ということになるかも知れない.いずれにしても,頭蓋咽頭腫治療後の患者の大部分で生涯にわたる下垂体ホルモン補充が必要であるので,日本のようにMRIが普及した国では,2-3年に一度,ホルモン補充を行っているクリニックやその近辺で頭部MRIを撮ることは容易であろう.
本研究は,57年前に世界で初めてガンマナイフ(プロトタイプ)が稼働したカロリンスカ大学の初期のプロトコールでGKRSを行った症例を含んでいるため,照射辺縁線量は10 Gy(範囲8~19 Gy)と,最近実施されているGKRSの線量(11.4-15 Gy)(文献3-5,7-11)に比較すると低い.最近,ガンマナイフの照射精度は向上しており,大型の腫瘍に対する寡分割ガンマナイフも導入されているので,近年20年くらいのシリーズに限れば,腫瘍制御率はより向上するかも知れない.一方で,経鼻内視鏡手術の精度は向上し,扁平上皮乳頭型の頭蓋咽頭腫に対するBRAF/MEK阻害剤の投与も普及しつつある.将来はエナメル上皮腫型の頭蓋咽頭腫に対する薬物療法も開発される可能性がある.ガンマナイフをこれらの進化しつつある治療手技といかに組み合わせていくか,また視床下部・下垂体機能をいかに温存していくのか,頭蓋咽頭腫の治療に当たっては脳外科を含む学際的チームの総合力が問われる時代になった.

執筆者: 

有田和徳

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