髄膜腫の硬さを予測するルーチンMRIのパラメーターは何か:オスロ大学

公開日:

2025年7月30日  

Predicting intraoperative meningioma consistency using features from standard MRI sequences: a preoperative evaluation

Author:

Biernat D  et al.

Affiliation:

Department of Radiology, Division of Radiology and Nuclear Medicine, Oslo University Hospital, Oslo, Norway

⇒ PubMedで読む[PMID:40542946]

ジャーナル名:Acta Neurochir (Wien).
発行年月:2025 Jun
巻数:167(1)
開始ページ:173

【背景】

手術前に髄膜腫の硬さがある程度推定できれば,開頭位置や範囲の設定など適切な手術戦略のための大きな支援となる.すでに髄膜腫の硬さとMRIパラメーターの相関に関してはT2値,ADC値等が検討されてきたが,必ずしも一致してはいない(文献1-5).
オスロ大学脳外科は2020年からの約2年間で摘出手術を行った直径3 cm以上の髄膜腫48例を対象に,通常のMRI検査で得られる画像所見と腫瘍の硬さの関係を検討した.腫瘍の硬さは,腫瘍摘出に必要な超音波手術装置CUSAのパワーによって,柔らかい腫瘍13例(パワー0-40で吸引可能),硬い腫瘍35例(パワー40-90か,パワー100でも吸引できず鋏やメスが必要)に分けた.

【結論】

柔らかい腫瘍は,均一な造影,T2高信号,腫瘍周囲浮腫の不在,腫瘍内のう胞の存在,拡散異方性(FA)画像での均一な低信号(腫瘍全体が暗い)と相関した(いずれもp <.05).
硬い腫瘍は,非均質な造影,T2低信号,腫瘍周囲浮腫の存在,腫瘍内のう胞の不在,FA画像の不均質さと相関した(いずれもp <.05).
腫瘍の硬さとの相関が最も強かったのは造影所見で,T2信号,腫瘍周囲浮腫,腫瘍内のう胞,FAが続いた.
腫瘍の平均T2値は腫瘍の柔らかさとゆるやかに相関し(r =0.3,p =0.03),ROC解析のAUCは0.69であった.
T1値,腫瘍被膜の存在,骨浸潤は硬さの推定には役立たなかった.

【評価】

本研究では,髄膜腫の手術で多用される超音波手術装置で,腫瘍を除去するのに必要なパワーに基づいて腫瘍の硬さを定義し,この硬さと相関するMRIパラメーターを求めている.その結果,腫瘍の硬さと相関が強かったのは造影所見(OR:10),T2信号(OR:9),腫瘍周囲浮腫の有無(OR:5.6),のう胞の有無(OR:4.1)といった,ルーティンのMRI撮像法で得られる情報であった.拡散異方性画像(FA)やDWI/ADCといった高度なMRIシークエンスには,それほど強い相関はなかった.
造影効果の不均一性は線維成分や微小石灰化を反映するので,均一な造影効果が柔らかい腫瘍を示唆することは容易に理解可能である.また,T2高信号は腫瘍内の水分含量が高いことを反映しているし,低信号は線維性成分が多く硬いことを示唆している.
腫瘍周囲浮腫と腫瘍の硬さとの関係については,従来の報告では否定的であるが(文献6,7),本研究ではゆるやかな相関が示され(r =0.4,p <0.01),たとえ小さくても硬い腫瘍では周囲浮腫が多い傾向であった.この理由については,本稿では明らかにはされていない.
FAマップは,腫瘍内部の構造的特性を反映し,線維性構造の存在は拡散異方性として検出される.本研究では,硬い腫瘍ではFAマップ上にモザイク状の不均一性がみられ,柔らかい腫瘍では均一に暗い像が観察された.これは線維構造の有無すなわち拡散異方性を反映している可能性がある.ADC値と腫瘍の硬さについては,先行研究間でも相反する結果があり(文献3,4,8),ROIの設定法など定量化のバイアスが一因と考えられる.本研究ではADC値6.4×10⁻⁴ mm²/s以下は腫瘍の硬さと中等度の相関を示した.
本研究は,ルーチンMRIのパラメーターが髄膜腫の硬さの良い指標になることを示した点で臨床的な意義が高いが,対象症例が48例と十分ではなく,今後より多数の症例で,本稿の発見を検証する必要性がある.

執筆者: 

有田和徳