WHOグレード2/3髄膜腫の術前予測:MEN-CCVolスコアの提案

公開日:

2025年7月30日  

最終更新日:

2025年7月31日

Proposal of a Multiparametric Meningioma (MEN-CCVol) Score for Preoperative Discrimination of World Health Organization Grade 2/3 From Grade 1 Intracranial Meningiomas Based on Patient and MRI Characteristics

Author:

Wagle PR  et al.

Affiliation:

Department of Neurosurgery, Helios Klinikum Erfurt, Erfurt, Germany

⇒ PubMedで読む[PMID:40459276]

ジャーナル名:Neurosurgery.
発行年月:2025 Jun
巻数:Online ahead of print.
開始ページ:

【背景】

髄膜腫のうちWHOグレード2と3は併せて髄膜腫全体の約20%を占める(文献1,2).手術前に髄膜腫のWHOグレードを正確に予測することができれば治療戦略,手術戦略に有用である.エアフルト大学脳外科は,自験の髄膜腫手術症例463例(91例がグレード2/3)を開発コホートとし,グレード2/3髄膜腫と人口統計学的因子ならびにMRI所見との関係を求めた.男性,腫瘍周囲浮腫,嚢胞,円蓋部,体積 ≥40 cm³,壊死の6因子がグレード2/3髄膜腫と有意に相関した(p <.05).男性,周囲浮腫,嚢胞に1ポイントを,円蓋部,体積 ≥40 cm³,壊死に2ポイントを付与し,総計0-9ポイントのスコアリングを行った.

【結論】

ROC解析では,このスコアリングはAUC 0.791の精度でグレード2/3髄膜腫を診断した.Youden指数を基にカットオフを3以上とした時の診断能は,感度76.9%,特異度64.8%,陽性適中率34.8%,陰性適中率92%であった.
このカットオフ値による診断能は,検証コホートの211例(45例がグレード2/3)では,感度86%,特異度60.7%,陽性適中率35.9%,陰性適中率95.2%であった.
このカットオフ値による診断能は,DNAメチル化を解析したコホートの18例(6例がグレード2/3)では,感度75%,特異度83.3%,陽性適中率35.9%,陰性適中率62.5%であった.

【評価】

頭蓋内髄膜腫の約2割は,異型性髄膜腫(グレード2)または退形成性髄膜腫(グレード3)に分類される(文献1,2).グレード2/3は再発率の上昇,再発までの期間短縮,術後補助療法の必要性,全生存期間の短縮と関連することが示されている.再発率は,グレード2で約50%,グレード3で50~94%と報告されている.したがって,術前にグレード2/3髄膜腫であることが予測できれば,摘出手術の適応,タイミング,手術目標の設定,手術方法の選択にとって極めて有用である.従来,高齢,男性,腫瘍内壊死像,腫瘍周囲浮腫,大きな腫瘍体積,不整な腫瘍形状,腫瘍辺縁の不整,低いADC値,不均質な造影効果などがグレード2/3と相関することが報告されている(文献2-6).本研究では男性,腫瘍周囲浮腫,嚢胞,円蓋部,体積 ≥40 cm³,腫瘍内壊死像がグレード2/3と相関していたが,年齢,腫瘍辺縁の不整,造影パターンとの相関は認められなたっか.著者らはこれら6個の相関因子に1あるいは2ポイントを付与して,MEN-CCVolスコア(Male,Edema,Necrosis,Convexity,Cyst,Volume)(1-9ポイント)を作成した.彼らは,このスコアリングシステムはグレード2/3髄膜腫を識別するための実用的なツールであり,患者へのインフォームドコンセント,手術のタイミングの判断,術式選択において有用であると結論している.
術前の複数の画像所見を基にしたグレード2/3髄膜腫予測のためのスコアリング・システムは既に報告されている.Leeらは,石灰化,T1強調像での信号強度,造影効果,腫瘍周囲浮腫,および腫瘍体積を用いたスコアリング・システムを開発した(文献7).Funariらは,腫瘍体積 ≥36 cm³(2点),辺縁不整(2点),腫瘍周囲浮腫(1点)を基にした0-5点のスコアリング・システムを開発している.Funariらによれば,グレード2の髄膜腫の可能性は,スコア0で0%,スコア1で25%,スコア2で38.5%,スコア3で65.4%,スコア4以上では83.3%であった.カットオフをスコア3以上とした場合,感度は0.80,精度0.76,AUCは0.82であった(文献8).
一方,近年の機械学習および人工知能の進歩により,深層学習モデルを臨床情報と統合することで,髄膜腫のWHOグレードの予測精度はさらに向上する可能性がある.Yangらは,造影MRIからの深層学習による自動セグメンテーションを用いて,髄膜腫のWHOグレード予測における感度0.89,特異度0.92,精度0.90,陽性適中率0.88,陰性適中率0.93という成績を報告している(文献9).Chenらによれば,やはり深層学習モデルによる髄膜腫のWHOグレードの予測において,感度91.2%,特異度89.5%,正確度90.4%,陽性適中率88.7%,陰性適中率90.8%の結果が得られている(文献10).これらのAIを用いたWHOグレードの予測精度が事実であるとすればまさしく驚異的ではあるが,深層学習モデルによるWHOグレード予測には高精細な画像自動解析装置が必要であり,臨床現場への導入にはもう少し時間がかかりそうである.
それまでの間は,患者の性あるいは通常のMRIの読影所見から得られる情報を基にした本稿のMEN-CCVolスコアリング,あるいはLeeら,Funariらのスコアリングを用いる必要性がある.臨床現場からの希望としては,同一の大規模患者集団を対象に,これらのスコアリング・システムを適用して,どのスコアリング・システムが最も使いやすく,かつ精度が高いのかを比較検討した研究が欲しいところである.

執筆者: 

有田和徳

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