ASPECTS <6の大梗塞に対する血栓回収の効果と安全性:最近のRCT6報1,896例のメタアナリシス

公開日:

2025年7月31日  

Thrombectomy for Patients With Large-Volume Ischemic Stroke: A Systematic Review and Meta-Analysis of 6 Randomized Trials

Author:

Hamo M  et al.

Affiliation:

Marnix E. Heersink School of Medicine, University of Alabama at Birmingham, Birmingham, Alabama, USA

⇒ PubMedで読む[PMID:40387344]

ジャーナル名:Neurosurgery.
発行年月:2025 May
巻数:Online ahead of print.
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【背景】

ASPECTS <6の急性期大梗塞に対する血栓回収の効果と安全性に関するRCTは,2022年発表の日本におけるRESCUE-Japan LIMIT以降積み上がってきており,2024年までで6報となる(文献1-6).アラバマ大学のHamoらは,これら6報のRCTに含まれる1,896例のメタアナリシスを行った.対象の梗塞巣の大きさはASPECTS 3-5で虚血コア体積 >50 mLである.952例(50.2%)は内科的治療+血栓回収術を受け,944例(49.8%)は内科的治療単独を受けた.主要評価項目は90日後のmRS中央値とした.副次評価項目は独立歩行(mRS <4)と機能的自立(mRS <3)とした.

【結論】

主要評価項目の90日後のmRSは血栓回収群の方が有意に良好であった(オッズ比1.62,95%CI:1.38-1.89).副次評価項目の自立歩行(オッズ比1.91,95%CI:1.51-2.43)および機能的自立(オッズ比2.49,95%CI:1.92-3.24)は,いずれも血栓回収群で有意に良好であった.
安全性評価項目の外減圧手術の必要性と90日までの死亡は2群間で差はなかった.しかし,症候性頭蓋内出血や全ての頭蓋内出血は血栓回収群で多かった(リスク比1.66,95%CI:1.01-2.72ならびにリスク比1.74,95%CI:1.30-2.33).

【評価】

虚血コアが小~中等度(ASPECTS ≥6)の急性期脳梗塞に対する血栓回収術(機械的血栓除去)の有効性はレベル1の高いエビデンスレベルで支持されている(文献7-9).一方近年,ASPECTS <6かつ虚血コア体積が50 mLを超える急性期梗塞に対する血栓回収の有効性を検討したRCTが6件実施されている.この6件にはRESCUE-Japan LIMIT(日本),LASTE(フランスおよびスペイン),TENSION(ヨーロッパおよびカナダ),TESLA(米国),SELECT2(北米,ヨーロッパ,オーストラリア,ニュージーランド),ANGEL-ASPECT(中国)の各試験が含まれる.
この6報約1,900例を解析対象とした本メタアナリシスは,血栓回収術が内科的治療のみと比較して,90日後の機能障害の程度(mRS中央値),独歩能力(mRS <4),機能的自立(mRS <3)において有意な改善をもたらすことを示している.NNT(治療必要数)は4.17であり,血栓回収術を4例施行するごとに1例の有益な転帰が得られることが示された.一方,死亡率および減圧開頭術の必要性については2群間で有意差はなかったが,症候性頭蓋内出血(ICH)は血栓回収群で高率であった.
本研究はASPECTS <6の大梗塞に対する血栓回収に路を拓くものであるが,今後はその限界点も明らかにされなければならない.既に日本のRESCUE-Japan LIMITにおける二次解析では,ASPECTS 3点以下の患者ではmRS良好方向へのシフトが血管内治療群と薬物治療群で差はないことが示されている(文献10).またASPECTS 3点以下の症例では,48時間以内の頭蓋内出血の頻度は,血管内治療群では,薬物治療群に比して有意に高いことも明らかになっている.
さらにこのような大梗塞に対する血栓回収の安全性に関しては,虚血コアの大きさや年齢と並んで発症から治療開始までの時間も重要な要素であると思われる.今後はこの観点からも,大梗塞に対する血栓回収術の限界点を明らかにする必要性がある.

執筆者: 

有田和徳

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