高悪性度グリオーマに伴う水頭症のリスク因子,シャント手術の効果と安全性:15報333例のメタアナリシス

公開日:

2025年8月1日  

Risk Factors, Indications, and Effectiveness of Cerebrospinal Fluid Diversion in Patients With High-Grade Glioma-Associated Hydrocephalus: A Systematic Review and Meta-Analysis

Author:

Tracz JA  et al.

Affiliation:

Department of Neurosurgery, Johns Hopkins University School of Medicine, Baltimore, Maryland, USA

⇒ PubMedで読む[PMID:40558064]

ジャーナル名:Neurosurgery.
発行年月:2025 Jun
巻数:Online ahead of print.
開始ページ:

【背景】

膠芽腫を含む高悪性度グリオーマ(HGG)に伴う水頭症発生のリスク因子と水頭症に対する適切な治療選択に関しては未だ議論が多い.ジョンズホプキンス大学脳外科は2003年から2022年に発表された15論文4,901例のHGG患者(333例で水頭症を発症)を対象にこれらの課題について解析を行った.プール解析ではHGG患者における水頭症の発生率は8%であった.症状記載があった248例では,最多の症状は認知機能の低下44%,続いて歩行障害35%,頭痛32%,意識状態の悪化19%であった.12論文で水頭症の危険因子が記載され,このうち7論文では,腫瘍摘出術中の脳室開放が危険因子として挙げられていた.

【結論】

水頭症発症患者333例のうち301例が脳脊髄液ダイバージョン(大部分がVPシャント術,一部がVAシャント術か脳室ドレナージ術)を受けた.その結果,79%の患者で症状改善が得られた.手術後のKPSが報告された研究では,シャント術後に平均で15ポイント(p <.001)のKPS改善がみられた.シャント術後の非加重中央値生存期間は平均4.7ヵ月であった.合併症が報告された243例では,67例(28%)にシャント手術関連合併症が認められた.最も多かったのはシャント機能不全・閉塞(14.4%)で,続いてシャント感染(9.5%),頭蓋内出血(1.6%)であった.シャント術後の腹膜播種の報告はなかった.

【評価】

高悪性度(WHOグレード3-4)の神経膠腫(HGG)の治療成績が向上するにつれ,治療や腫瘍進行に伴って水頭症などの合併症を呈する症例が増加すると予想されている(文献1).HGG関連の水頭症には,腫瘍の浸潤や腫瘍周囲浮腫による閉塞性水頭症と放射線誘発性線維化,複数回の開頭術,髄液の高蛋白化,腫瘍摘出時の脳室開放,髄膜播種に起因する脳脊髄液吸収障害による交通性水頭症がある(文献2-4).本研究はHGGに伴う水頭症の頻度,リスク因子,治療効果を解析したメタアナリシスである.
気になるのは水頭症発生のリスク因子であるが,約半数の報告で,腫瘍摘出術中の脳室開放が水頭症の危険因子として挙げられていた.実際,脳室開放が行われた353例のうち46例(13%)でシャント手術が必要となる水頭症が発生したのに対して,脳室開放の記載がなかった846例では5例(0.6%)のみが水頭症を呈していた.単純に計算すればそのリスク比は21となるが,直接的な因果関係は断定できない.その他,髄膜播種(文献4,5),視床または脳葉への腫瘍局在(文献6,7),複数回の開頭術(文献2,3)などが水頭症発生のリスク因子として報告されていた.
本メタアナリシスによれば,水頭症症例に対するシャント手術はKPSを約15点上昇させ,79.3%の患者で症状改善がみられた.全例で腹腔細胞診を行ったわけではないのでその可能性を否定はできないが,髄液シャント術が施行された301例中,少なくとも臨床的に問題となるような腹腔内播種は,1例も発生しなかったとのことである.病勢が進行したHGG患者でも,臨床症状を改善させる目的でのシャント手術は現実的な選択肢であることを示している.
本研究の対象では,シャント手術を受けた患者における平均余命は4.7ヵ月であった.対照群がないので生命予後の延長効果は不明であるが,シャントによる脳機能改善/ADLの向上によって,追加の化学・放射線療法が実施可能になることも考えられる.El Rahalらは,症候性水頭症を呈した膠芽腫患者39例に脳室腹腔シャントを施行したところ,75%でその後補助療法が可能になったと報告している(文献1).HGGに伴う水頭症に対するシャント手術が生命予後に与える効果については,今後の前向き試験で明らかになることを期待したい.

執筆者: 

有田和徳