末梢性脳動脈瘤に対する細径フローダイバーター(Silk Vista Baby)の有用性について:18施設95例の経験

公開日:

2025年9月22日  

The Silk Vista Baby Study: A Multicenter Aneurysm Report From North America and Europe

Author:

Hanel RA  et al.

Affiliation:

Lyerly Neurosurgery, Baptist Neurological Institute, Jacksonville, Florida, USA

⇒ PubMedで読む[PMID:40637427]

ジャーナル名:Neurosurgery.
発行年月:2025 Jul
巻数:Online ahead of print.
開始ページ:

【背景】

近年の脳主幹動脈近位部の動脈瘤に対するフローダイバーター(FD)ステンティングの成功は,より末梢の動脈瘤に対するFDステント用デバイスの開発を促してきた.Silk Vista Baby(SVB)ステント(Bal社)は,0.017インチ(0.432 mm)の内径をもつマイクロカテーテルを通じてデリバリー可能であり,径1.5~3.5 mmの小動脈に起始する動脈瘤を治療することが可能とされる.本研究は北米などの19施設で実施されたSVBを用いたFDステンティング95例(97個)の後方視的解析である.破裂瘤は31%.部位別では,PICA 24%,ACA 23%,MCA 19%,Acom 17%などであった.

【結論】

動脈瘤近位側の親動脈径の平均は2.8 mmで,動脈瘤サイズ(平均値)は,ネック径3.6 mm,幅7.7 mm,高さ6.1 mmであった.45%は既治療例であり,その大部分はコイル塞栓術(69.4%)であった.
合併症率は破裂群で24.1%,未破裂群で9.2%と破裂例で高かった.死亡は2例で,そのうち1例(1.1%)は手技関連(前交通動脈瘤の術中破裂)であった.退院時にmRS ≤2であった症例は87%.最終フォローアップ(平均15ヵ月)では,完全またはほぼ完全閉塞率(RRクラス:IかII)は全体で76.1%,破裂群で81.1%,未破裂群で73.4%であった.技術的成功率は未破裂群で100%,破裂群で93.1%であった.

【評価】

脳動脈瘤に対する血管内治療はより末梢,より広基性のものに向かいつつあるが,従来のフローダイバーター(FD)ステントは大口径のデリバリーカテーテル(内径0.027インチ),強い押し込み力を要する硬いデリバリーシステム,そして2.5 mm以上の親血管径が必要であり,細い末梢血管へのデリバリーは困難であった.
本稿で取り上げたSVBステントはなめらかで(Silk),見えやすく(Vista),小径であり(Baby),径1.5-3.5 mmの小動脈に起始する動脈瘤の治療が可能とされている(文献1,2).SVBステントは白金充填ニチノール製の48本の編組みチューブから成り,その構造と材質により全長にわたり優れた可視性を有する(文献3).SVBは2018年にCEマークを獲得しておりヨーロッパでは臨床への導入が進んでいる.従来の報告ではSVBステントによる末梢性動脈瘤の完全閉塞率は69.6-92.3%とされている(文献3,4,5).
本稿は,北米を中心とした19施設で実施されたSVBステント治療95例の解析であり,過去の報告中最大のシリーズで,最長の追跡期間(平均15ヵ月)である.親血管径の平均は動脈瘤近位側で2.8 mm,遠位側で2.5 mmであった.本研究における手技的成功率は97.9%と従来の報告と同様であった(文献6).問題は閉塞率であるが,完全閉塞(RRクラスI)率は56%,ほぼ完全閉塞(RRクラスI+II)率は76%とあまり高くない.これは末梢性動脈瘤では側枝を含む動脈瘤が多いことと関係しており,本研究シリーズでも59%の動脈瘤が分枝を伴い,側枝の存在は残存動脈瘤(RRクラスII+III)の頻度と有意に相関した(p =.011).従来から,側枝を含む動脈瘤に対するFDステント治療では,血行動態的代償により側枝の閉塞が妨げられることが知られている(文献7,8).本研究シリーズでも側枝の閉塞は5%(2例)のみでいずれも無症候性であった.
本シリーズの動脈瘤閉塞率をみると,なーんだ,やっぱり開頭クリッピングにしようと考える向きがあるかもしれないが,問題はFDステンティングによって残存動脈瘤(RRクラスII+III)に終わった約44%の末梢性動脈瘤が将来破裂する可能性がどのくらいあるかである.超長期の追跡が不可欠である.

執筆者: 

有田和徳