開頭手術直後のルーチンCTは不要:339例の検討

公開日:

2025年10月6日  

最終更新日:

2025年10月8日

Clinical Significance and Utility of Early Postoperative Computed Tomography Scan Head after Brain Surgery: A Prospective Study

Author:

Shukla A  et al.

Affiliation:

Department of Neurosurgery, Sanjay Gandhi Postgraduate Institute of Medical Sciences, Lucknow, Uttar Pradesh, India

⇒ PubMedで読む[PMID:40874740]

ジャーナル名:Neurosurgery.
発行年月:2025 Aug
巻数:Online ahead of print.
開始ページ:

【背景】

開頭手術直後のCT検査は多くの施設でルーチンとして行われているが,本当に臨床的意義があるのか.
インドのサンジャイ・ガンジー医科学大学院脳外科は,開頭手術後の早期CTが,術後の内科的あるいは外科的な患者の管理方針に変化をもたらすかを検討した.対象は2023年1月以降の1年間に頭蓋内病変に対する手術が実施された961例のうち,挿管下でICU転棟となった569例や穿頭手術の13例を除き,抜管後ICU搬入から6時間以内の早期CTが施行された339例(年齢中央値37歳).手術の対象疾患は腫瘍性病変87%,血管性病変13%であった.腫瘍性病変のうち良性は71%,悪性は16%であった.

【結論】

術後の神経学的評価では,308例(90.9%)は新たな神経脱落症状を示さなかった.予測された神経脱落症状の発生は24例(7.1%)であり,予期せぬ神経脱落症状の発生は7例(2.1%)のみであった.
術後早期CTでは,330例(97.3%)は術後変化のみ(手術ルートに沿った変化,気脳症,浮腫など)であった.占拠性効果を伴わない手術野血腫が9例(2.7%)で認められ,いずれも再開頭は不要であったが,6例では抗浮腫薬投与などの薬物治療の変更が必要であった.
予期せぬ神経脱落症状を呈した患者(n =7)では,異常CT所見を示す傾向があった(オッズ比 6.22,p =.193).

【評価】

多くの脳神経外科施設において,開頭術後早期のCT撮影はルーチンとなっている(文献1).これらのCT検査は,術野出血,浮腫,梗塞,気脳症など,即時の介入を要する早期合併症を検出する目的(文献2)と,手術後の安心感を得たいという術者やICUスタッフなどの心理的要因に基づいて行われることが多い(文献3).問題は,麻酔から覚醒し,全身状態が安定し,抜管されている患者においては,術後合併症は注意深い神経学的評価によって検出可能であることが多いが(文献4),それでもなお網羅的な術後CTは臨床的に意味があるのか否かである.本研究は,抜管後早期のCT検査の臨床的意義を明らかにするために行われた.
対象は覚醒-抜管後ICUに搬送された患者のうち,術後早期(6時間以内)にCT検査が行われた339例である.その結果,抜管後早期のCTで発見された異常は,占拠性効果のない小さな術野出血の7例(2.1%)のみで,いずれも緊急再開頭の必要はなかった.この結果を受けて著者らは,術後早期のCTは一般には術後管理に影響しないので,神経症状の悪化や神経学的評価が困難な場合に限って行うべきであろうと結論している.判りやすい結果と結論である.
ただし,この結論を受け入れる前にいくつかの問題点を指摘しなければならない.すなわち,
①本研究のシリーズは,年齢中央値37歳,IQR 26-48歳という,日本では考えられないような若い患者集団であること.抗血栓剤の服用者は殆どいなかったはずであること.
②挿管のままICU患者に搬送された謂わば重症例の569例(研究対象の約1.7倍)は対象から除外されていたこと.
③CT撮影は手術室からICUへの搬送途上ではなく,一旦ICUに入室したのち,神経学的評価が行われた後に実施されており,比較的安定した段階でのCT撮影となっていること.
④ICU入室時に詳細な神経学的評価が行われたとのことであるが,多忙な脳外科医やICUスタッフが丁寧な神経学的評価を行うことが可能なのか.神経学的評価だけでは初期の急性硬膜外血腫,脳内血腫,水頭症などを見逃す可能性を否定できないこと.
⑤著者らは,術後CTの問題点として,被爆の問題も取り上げている.確かに,比較的若年者におけるX線被爆と発癌との関係は重要な問題ではあるが(文献5,6,7),高齢者でもそのリスクがあるのか不明なこと.
⑥対象症例がわずか339例に過ぎず,術後ルーチンのCTが絶対に不要であるとは断言できないこと.
やはり,多施設でのより多数を対象とした前向き研究で,「術後の神経学的スクリーニングで異常がなかったケースでは,緊急処置を必要とするようなCT上の頭蓋内異常は1例も無かった」という結果が出なければ,長い間の慣習となっている術直後CTはなくならないように思われる.特に,手術室の近くにCT撮影室がある場合やICUへのルートの途上にCT撮影室がある場合は,ICU入室前に術後CTを撮るというこれまでの手順が変更されることは考えにくい.

執筆者: 

有田和徳