脳出血患者に対する降圧は発症後3時間以内に開始すべき:4個のINTERACT試験11,312症例のプール化解析

公開日:

2025年10月7日  

最終更新日:

2025年10月8日

Effects of blood pressure lowering in relation to time in acute intracerebral haemorrhage: a pooled analysis of the four INTERACT trials

Author:

Wang X  et al.

Affiliation:

The George Institute for Global Health, Faculty of Medicine, University of New South Wales, Sydney, NSW, Australia

⇒ PubMedで読む[PMID:40541207]

ジャーナル名:Lancet Neurol.
発行年月:2025 Jul
巻数:24(7)
開始ページ:571

【背景】

急性期脳出血患者に対する降圧をいつ,どこまで行うべきかについては,まだ未確定である.本研究は,急性期脳出血患者に対する降圧に関するRCTであるINTERACT1~4の個人データ(11,312例)を解析して,この課題に応えたものである.このうちINTERACT1~3は,発症後6時間以内,収縮期血圧が150 mmHg以上の脳出血患者が対象で,INTERACT4は,救急搬送時に収縮期血圧が150 mmHg以上で運動麻痺を呈した急性期脳卒中患者2,240例が対象であった(着院後、46.5%が脳出血患者と判明).患者は,ランダム化後1時間以内に,収縮期血圧を140 mmHg未満に下げる強化降圧群か,180 mmHg未満に下げるガイドライン群に振り分けられた.

【結論】

発症からランダム化までの時間中央値は2.9時間で,ランダム化後1時間の血圧は強化降圧群で149.6 mmHg,ガイドライン群で158.8 mmHgであった.
強化降圧群では,ガイドライン群と比較して,発症後3ヵ月のmRS 3-6の機能予後不良のリスクが有意に低かった(OR:0.85).強化降圧群では発症7日目以内の神経症状の悪化,死亡,全ての重篤な有害事象のオッズが有意に低かった.発症24時間後にもCTが撮影された2,921例の解析では,機能予後改善や相対的血腫体積増大の抑制効果は発症からランダム化までの時間が長くなるにつれ減弱し,発症3時間を境に有意差が消失した(交互作用p =.002およびp =.01).

【評価】

いくつかのRCTやメタアナリシスをもとに,脳出血急性期患者に対しては,早期に収縮期血圧を140 mmHg未満に降圧することが推奨されている(文献1-5).『脳卒中治療ガイドライン2021〔改訂2025〕』(文献6)によれば,「脳出血急性期における血圧高値をできるだけ早期に収縮期血圧140 mmHg未満へ降圧することは妥当である(推奨度B エビデンスレベル高)」「降圧目標は治療開始24時間以内および7日間まで維持することは妥当である(推奨度B エビデンスレベル中)」とされている.
本研究は急性期脳出血に対する降圧に関するRCTであるINTERACT1~4のプール化個人データを解析したものである.その結果,ランダム化後1時間以内を目標に収縮期血圧を140 mmHg未満に低下(強化降圧)させることが,機能予後の改善,発症早期の神経症状悪化,死亡,その他の重篤な有害事象の低減と相関することを明らかにした.
さらに本研究では,発症からランダム化までの時間が長くなるほど,機能予後と相対的な血腫径増大に対する強化降圧療法の効果が減弱し,3時間を超えると有意差が失われること,すなわち発症から3時間以内に強化降圧療法を開始する必要があることを明らかにした.この結果は,急性虚血性脳卒中における再灌流療法と同様に,脳内出血の治療においても時間依存性が極めて高いことを示している.逆に,血腫拡大は発症直後の数時間で生じるため(文献7-9),降圧目標達成が遅れるほど,降圧による機能予後改善効果は失われることを示している.
しかし,実際に発症後3時間以内の早いタイミングで着院する脳卒中患者はあまり多くはない.本研究シリーズ全体でもランダム化までの時間中央値は2.9時間とのことであるから,かなりの割合の患者で,3時間以降に診断がついた可能性が高い.中国で行われたINTERACT4のように,脳出血の可能性が高い患者に対して救急車内で降圧を開始するという方法もあるかも知れないが(文献2),発症後3時間を過ぎて診断した患者に対する降圧目標はいかにあるべきなのか,今後の解析に期待したい.
また,血圧を下げすぎることによる心腎機能障害や脳虚血の可能性も指摘されており(文献10,11),配慮が必要である.『脳卒中治療ガイドライン2021〔改訂2025〕』では,「(脳出血急性期の患者においては)収縮期血圧の下限を110 mmHg超に維持することを考慮しても良い(推奨度C エビデンスレベル低)」としている(文献6).

執筆者: 

有田和徳

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