前大脳動脈と中大脳動脈が同時に閉塞した場合は血栓回収が上手くいっても機能予後は不良:前向き登録データベース(STAR)2,067例の解析

公開日:

2025年10月7日  

最終更新日:

2025年10月8日

Concurrent Anterior Cerebral Artery and Middle Cerebral Artery Occlusions Predict Poor Neurological Outcome Despite Successful Thrombectomy in Anterior Circulation Stroke

Author:

Hsu A  et al.

Affiliation:

Department of Neurosurgery, Emory University, Atlanta, Georgia, USA

⇒ PubMedで読む[PMID:40742212]

ジャーナル名:Neurosurgery.
発行年月:2025 Jul
巻数:Online ahead of print.
開始ページ:

【背景】

脳主幹動脈の急性閉塞に対する血栓回収術の有用性は確立しているが,一部の症例では再開通が達成されても良好な転帰が得られない(文献1-3).その原因の一つとして側副血行の不良が挙げられているが(文献4,5),MCAとACAの同時閉塞も転帰不良に関与している可能性がある.本研究は米国を中心とする脳血管内治療のレジストリーであるSTAR(文献6)の登録症例のうち前方循環の急性閉塞2,067例を対象にこの問題を解析したものである.閉塞部位別の内訳はICA-T(末梢)1,280例,ICA-TからMCAへ伸展する閉塞(ICA-M)687例,ICA-TからACAへ伸展する閉塞(ICA-A)17例,MCAとACAの同時閉塞(M+A)83例(4%)である.

【結論】

単変量解析では,M+A群はICA群全体(ICA-T,ICA-M,ICA-A)に比して90日後のmRS 0-2の割合が低かった(12% vs 33%,p <.05).二次的技術的評価項目(治療時間,デバイスの通過回数,再開通スコア,合併症,術後脳内出血)に群間差はなかったが(p >.05),死亡率はMCA+ACA群で高かった(22% vs 13%,p <.05).多変量解析では,MCA+ACA閉塞はICA群全体と比較して, mRS 0-2の低い達成率の独立した予測因子であり(調整OR 0.52,p =.048),再開通が得られた患者(mTICI ≥2b)においても同様であった(調整OR 0.45,p =.035).

【評価】

本研究はMCAとACAの同時閉塞(M+A)が血栓回収後の転帰に与える影響を検討したものである.対象は,米国を中心に世界規模で実施されている脳血管内治療(血栓回収術および脳動脈瘤に対する治療)に関する登録研究であるSTARに登録された前方循環系急性閉塞症例2,067例である.M+A群は4%と少なく,他の閉塞部位=ICA群(ICA-末梢,ICA-MCA,ICA-ACAを併せた群)は96%であった.2群間で,糖尿病,高血圧,心房細動などの合併症,経静脈的血栓溶解(tPA)の実施率,ASPECTS,年齢,人種に差はなかった.ただしM+A群では,ICA群と比較して女性が多く(60% vs 46%),入院時NIHSSが高く(中央値:18.5 vs 16),発症-穿刺時間が短かった(平均:304分 vs 428分).
解析の結果,M+A群は全体として,ICA群と比較して良好な転帰(mRS 0-2)は得られにくく,再開通が得られた患者に限定してもやはり良好な転帰(mRS 0-2)は得られにくかった.この理由について著者らは,M+A群では,ACAからMCAへの経軟髄膜側副血行がACA自体の血流障害により阻害され(文献7,8),梗塞への進展が加速するためと推測している.入院時のNIHSSが,M+A群でICA群より有意に高かったのは,側副血行の障害により初期症状がより重症であったためと推測される.またこの群で発症から穿刺までの時間が有意に短かったことも,重症例ほど早期に病院を受診することで説明可能と思われる.過去の報告でも,複数領域閉塞,特にMCA+ACAの同時閉塞は入院時NIHSSが高い傾向にあることが示されている(文献9,10).
ASPECTSすなわち虚血コアの広さが同じくらいであってもMCAとACAの同時閉塞(M+A)が予後不良の有意の因子であるという本研究の結果は,患者選択,予後推定,患者家族への説明に際して重要な情報と思われる.一方,症候性出血率などの安全性および技術的成功率は同等であり,特に,早期着院で神経症状が比較的軽い患者では積極的な血栓回収術を躊躇する必要性はなさそうである.

執筆者: 

有田和徳

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