血栓回収術後の再開通動脈へのアルテプラーゼ動注は機能予後を改善する:中国におけるRCT(PEARL試験)の324例

公開日:

2025年12月4日  

Intra-Arterial Alteplase After Successful Endovascular Reperfusion in Acute Stroke The PEARL Randomized Clinical Trial

Author:

Writing Committee for the PEARL Investigators  et al.

Affiliation:

Department of Neurology, Sun Yat-sen Memorial Hospital, Sun Yat-sen University, Guangzhou, China

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ジャーナル名:JAMA.
発行年月:2025 Oct
巻数:334(19)
開始ページ:1728

【背景】

血栓回収手術によって再開通した脳主幹動脈への血栓溶解剤注入によって,灌流領域の微小循環を改善させ,機能予後を改善させる可能性がある(文献1-5).本PEARL試験は,中国28施設で2023年から2024年にかけて実施されたオープンラベルRCTである.
対象は,前方循環脳主幹動脈の急性閉塞に対して実施された血栓回収術によって,発症24時間以内にeTICI ≥2b50の再開通が得られた324例(年齢中央値68歳,NIHSS中央値15点).対象患者のうち約42%で経静脈的血栓溶解療法が実施されていた.
164例では,再開通後閉塞部位近位側に置いたマイクロカテーテルからアルテプラーゼ0.225 mg/kgが15分かけて動脈内注入され,160例では行われなかった(標準治療).

【結論】

発症90日目の良好な機能予後(mRS:0-1)の頻度は,標準治療群30.2%に対してアルテプラーゼ動注群44.8%と有意に高かった:調整リスク比は1.45(95% CI 1.08-1.96,p =.01).
血管内治療後36時間以内の全頭蓋内出血の頻度は,動注群32.9%,標準治療群26.9%で有意差はなかった(p =.17).血管内治療後36時間以内の症候性頭蓋内出血の頻度は,動注群4.3%,標準治療群5.0%で差はなかった(p =.67).発症90日目までの全死亡は動注群17.1%,標準治療群11.3%で有意差はなかった(p =.12).

【評価】

急性期脳主幹動脈閉塞に対する血栓回収術によって閉塞血管が再開通しても神経症状が改善しないことは稀ではないが,その原因のひとつが,微小循環の障害が回復しないこと(no-reflow)である(文献1).これまでスペインと中国で,再開通した主幹動脈への血栓溶解剤(ウロキナーゼ,テネクテプラーゼ,アルテプラーゼ)の注入によって灌流領域の微小循環を改善させる試みが行われてきたが(文献2-5),その有効性についての結論は得られていない.また従来の研究では,血栓回収前に経静脈的に血栓溶解剤(tPA)が投与された症例は研究対象から排除されていた.
このPEARL試験は中国28施設で実施された,前方循環脳主幹動脈の急性閉塞に対する血栓回収術によって再開通が得られた症例324例を対象としたRCTである.閉塞動脈の再開通後,半数では閉塞部位近位側に置いたマイクロカテーテルからアルテプラーゼを動脈内注入し,アルテプラーゼ動脈内注入を行わなかった残り半数の症例と予後を比較している.約42%の患者で,血栓回収前に経静脈的に血栓溶解剤(88%がアルテプラーゼ)の投与が行われていた.
その結果,再開通した動脈内へアルテプラーゼが注入された群では,動脈内注入を行わなかった標準治療群と比較して発症90日目の良好な機能予後(mRS:0-1)の患者割合が有意に高かった(44.8% vs 30.2%,p =.01).一方で,全頭蓋内出血と全死亡の頻度は動脈内アルテプラーゼ注入群でやや高かったが有意差はなかった.
注意すべきは,上述のように両群とも血栓回収術前に約42%の患者で経静脈的血栓溶解剤の投与が行われ,さらに約30%の患者で,その直後に糖タンパクIIb/IIIa受容体の阻害薬で強力な血小板凝集抑制作用を有するチロフィバンの投与が行われていたことである(文献6,7).アルテプラーゼ動注群,標準治療群ともかなり濃厚な治療が行われていたことになるので,もしかするとアルテプラーゼ動注単独の効果はもっと大きかった可能性が否定できない.
一方,本研究ではASPECTSが6未満の患者は,安全上の理由によって対象から除外されているが,近年はASPECTS 3-5の症例に対する血栓回収術の有用性に関するエビデンスが重なってきている(文献8).ASPECTS 3-5の大梗塞の患者でも,再開通後のアルテプラーゼ動注が有効かつ安全なのかも知りたいところである.
さらに本研究では,初診時と比較した,動注から24時間後の梗塞巣(CT灌流像)あるいは7日後の梗塞巣(MRI)の体積増大は2群間で差はなかったとのことであるが,再開通後のアルテプラーゼ動注の効果を客観的に示す画像検査上の証拠も欲しいところである.

執筆者: 

有田和徳

参考サマリー