初発慢性硬膜下血腫中の皮膚常在菌の存在は再発と相関する

公開日:

2025年12月4日  

Subclinical low-grade infection in untreated primary chronic subdural hematoma

Author:

Dubinski D  et al.

Affiliation:

Department of Neurosurgery, Rostock University Medical Center, Rostock, Germany

⇒ PubMedで読む[PMID:41202297]

ジャーナル名:J Neurosurg.
発行年月:2025 Nov
巻数:Online ahead of print.
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【背景】

ドイツ・ロストック大学脳外科は2022年に,再発した慢性硬膜下血腫拭い液(swab)中には29%の症例でブドウ球菌を中心とする皮膚常在菌が発見されることを報告している(文献1).
本稿は同じグループによる研究で,再発ではなく,初発の慢性硬膜下血腫内の細菌検出と再発の関係を検討したものである.
対象は初発の慢性硬膜下血腫症例80例(男性60例,年齢中央値79歳).初回穿孔術の際,洗浄の前に,2回採取した血腫腔swabを培養した.

【結論】

32例(40%)でswabから細菌が検出された.検出細菌はCutibacterium acnes(アクネ菌)が最多で69%,ブドウ球菌18%などが続いた.細菌検出群では,非検出群と比較して,血中のCRP,白血球数,プロカルシトニン値の上昇はなく,無症候性の局所における低グレード感染であることがわかった.
検出群と非検出群では,高血圧,心房細動,糖尿病,冠動脈疾患の罹患率にも差はなかった.
慢性硬膜下血腫の再発率は,検出群では31%(10/32)と,非検出群の12.5%(12.5%,6/48)よりも有意に高かった(OR 3.1,95% CI 1.02-9.90;p <.039).

【評価】

従来,慢性硬膜下血腫の再発は,不完全な血腫除去などの機械的因子や血腫壁の炎症反応による血管新生とそれに伴う内容液の滲出が原因と考えられてきた(文献2-4).
本研究は,慢性硬膜下血腫の再発について全く新しいメカニズム,すなわち血腫腔への皮膚常在菌の低グレードの感染という視点を提案している.著者らによれば,これらの皮膚常在菌が産生するIL-6やTNF-αなどのバイオフィルム関連トキシンやサイトカインが血腫壁の血管新生と滲出を促す可能性があるという(文献6,7).
細菌検出群と非検出群において,高血圧,心房細動,糖尿病,冠動脈疾患の罹患率に差がなかったということは,血腫腔への皮膚常在菌の感染は併存疾患とは関係無く,すなわち免疫機能が正常に保たれている患者でも発生し得ることを示唆しているという.
これが事実であるとしたら,慢性硬膜下血腫術後再発予防のために,抗生剤入り生食液による血腫腔洗浄や術後抗生剤の投与などが正当化されるかも知れないが,逆に耐性菌の増殖につながる可能性はある.
この研究における問題は,手術時のswab採取時の皮膚からの汚染(contamination)である.本当に血腫腔内の菌であれば,日本で普及している皮膚切開を殆ど行わないtwist drillを用いた青木法などの血腫腔ドレナージで得られた試料からも,細菌が検出される筈である.そのような意味では,日本での追試に期待したい.
また,血腫腔内の皮膚常在菌が一体どこからどのような経路で血腫腔内に到達するのかも今後解明すべき重要な課題である.
さらに,著者らが述べているように,初回手術時の血腫から検出された細菌のうち最多はアクネ菌で69%であったが,再発時の血腫ではブドウ球菌が69%を占めていた(文献1).この違いをどう説明するのかも解決すべき謎である.

執筆者: 

有田和徳