血栓回収術前のアルテプラーゼの経静脈的投与は頭蓋内出血の頻度をどれだけ高めるのか:6個のRCT 2,313例の個別患者データに基づくメタアナリシス

公開日:

2025年12月5日  

Intracranial Hemorrhage in Patients With Stroke After Endovascular Treatment With or Without IV Alteplase: An Individual Participant Data Meta-Analysis

Author:

Zhou Y  et al.

Affiliation:

Neurovascular Center, Naval Medical University Changhai Hospital, Shanghai, China

⇒ PubMedで読む[PMID:40788598]

ジャーナル名:JAMA Neurol.
発行年月:2025 Oct
巻数:82(10)
開始ページ:1031

【背景】

脳主幹動脈急性閉塞に対する血栓回収(EVT)前の経静脈的血栓溶解療法(IVT)は,早期ならびに最終の再灌流率の向上をもたらす可能性がある一方,頭蓋内出血(ICH)増加の懸念を引き起こしているが,その詳細は十分に理解されていない.本研究は上海海軍軍医大学脳血管センターによる,IVT併用EVTとEVT単独を比較した従来の6個のRCTに含まれる2,313例(年齢中央値71歳)の個別患者データに基づいたメタアナリシスである(文献1-6).頭蓋内出血は18-72時間以内のCTまたはMRIで画像評価され,Heidelberg再灌流後出血分類(点状出血1または2,実質性出血1または2,その他のICH[くも膜下出血など])に基づいて記述された(文献7).

【結論】

IVTの併用は,全ICHの発生と相関した(36% vs 32%;調整OR 1.23,p =.03).また,いずれかの実質性出血(PH1:梗塞域内の血腫で,梗塞体積の30%未満かつ実質的な占拠性効果なし,またはPH2:梗塞域内または梗塞域を超える血腫で,梗塞体積の30%以上を占め,明らかな占拠性効果あり)の発生と相関した(7% vs 5%;調整OR 1.54,p =.04).
非ICH群と比較すると,症候性ICHはいずれも機能予後の悪化と関連し(調整共通OR 0.08;95% CI 0.05-0.13),画像上の出血パターンの重症度と予後との間には段階的関連が認められた.

【評価】

これまで発表された6個のIVT併用EVTとEVT単独を比較したRCTの患者個別データに基づいたこのメタアナリシスは,EVT単独と比較してIVT併用EVTは全頭蓋内出血の頻度(36% vs 32%),特に実質性出血の発生リスクを,わずかではあるが(7% vs 5%)有意に増加させることを明らかにしている.またすべての種類の頭蓋内出血の発生は非出血例と比較して転帰不良と相関した.90日後のmRS 0-2(機能的自立)率は非出血例では60%(896/1,491)であったが,PH2では最も低く15%(11/73)であった.
同じくこれら6試験の個別患者データを統合解析したImproving Reperfusion Strategies in Ischemic Stroke(IRIS)共同解析では,EVT前のIVTは早期再開通(4.0% vs 1.7%)および最終の再灌流成功率(88.4% vs 84.3%)を改善したが(文献8),90日後mRS 0-2の差は2%(50.7% vs 49.0%)にとどまった.この理由として本研究で明らかになったIVT+EVT群での実質性出血の2%増加が,再灌流改善効果を相殺した可能性がある.
本研究では,ベースラインの血糖値および収縮期血圧と全頭蓋内出血発生が相関することが明らかになっている(p =.007とp =.02).特に,血糖 ≥140 mg/dLの患者(OR 1.57;95% CI 1.16-2.13),収縮期血圧 ≥140 mmHgの患者(OR 1.46;95% CI 1.16-1.83)ではIVTにより全頭蓋内出血のリスクが上昇したが,それ未満では上昇がみられなかった.この結果は,従来のDIRECT-MTおよびMR CLEAN-NO IV試験の事後解析の結果とも一致している(文献9-11).
今後は,ベースラインの血糖 <140 mg/dLかつ収縮期血圧 <140 mmHgの患者を対象としたIVT+EVTが,頭蓋内出血を抑制しながら,早期再開通と最終の再灌流成功率を向上させ,かつ良好な機能予後(mRS 0-2)を達成させ得るのかが検討課題である.

執筆者: 

有田和徳

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